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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第一章 悪役令嬢ってなんだろう?
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ニカとの出会い 8

 まあどうせ僕が邪魔するから、失敗するけどね。ただの遊びだと思えばいいか。


 一緒に遊べると思うと、ワクワクする。八歳にして遅い子供時代を過ごしているのだと、自分に言い訳して。僕はここではただの『エル』。王子の身分は関係ないから、大声を出したり服を汚したりしても誰にも(とが)められることはない。


「さ、頑張って作るわよ!」


 泥団子の作り方をニカが教えてくれた。

 サラサラの砂に水を足して少しずつ握り固めていくと、綺麗な泥団子ができるのだという。途中で乾いた砂をかけるといいようだ。

 他の泥団子を作りながらニカと一緒に作成したが、割れてしまってすごく悔しい。大したことがないとたかを(くく)っていたせいか。一度でできないなんて、あまり例がない。


「ニカはすごいね! どうしたらそんなに丸く綺麗にできるの?」

「それはね……」


 ニカは僕に教えながら、自分の泥団子をピカピカにすることの方に夢中になっていた。僕はそれより、他の泥団子づくりに力を入れて、出来た物を木製の(おけ)にどんどん入れていく。


「って、違う~。綺麗な泥団子を作りたいわけじゃないの。ソフィアの服を汚せばいいんだから」

「ねえ、もう諦めたら?」

「エルったら、そればっかり」


 ちょうどそこへ、ソフィアが通りかかった。確実に汚れが目立つ、真っ白なドレスを着ている。ニカは一瞬自分の泥団子に目を落とすと、ソフィアの足下に惜しげもなく投げつけていた。


「きゃっ」


 ソフィアがびっくりしている。

 ニカはソフィアに目を向けたまま、僕の方に手を伸ばす。どうやら僕の作っていた泥団子を要求しているらしい。


 僕はニカから離れると、ソフィアに近づいた。

 もちろん、ニカの嫌がらせを阻止するためだ。


「ニカが一緒に遊ぼうって。これを投げつけるらしい」

「……え?」

「は?」


 戸惑うソフィアと驚くニカ。

 僕は持っていた桶の中の泥団子を、ソフィアに渡した。


「――ま、まさか!」


 弟子だと思っていた僕がソフィア側についたことで、ニカはショックを受けたのだろう。彼女は驚く顔も綺麗だ。


「ちょっと、二人とも! ずるいわよ」


 僕は逃げ回るニカの近くに、泥団子を投げつける。ソフィアはどうせ届かない。

 泥団子で応戦し、必死に抵抗するニカは一生懸命で可愛い。もっと見たくて、僕はわざとニカの足下を狙う。気づけば三人でキャーキャー言いながら、庭を走り回っていた。


 途中でニカの様子がおかしくなった。

 投げようとした自分の泥団子が、誤って目に入ったみたい。


「ニカ、こするといけない。よく見せて」


 慌てて彼女に近づき、赤く美しい瞳を(のぞ)き込む。見たところ、傷ついてはいないようでホッとした。


「水で洗おうか。ソフィア、いい?」


 ソフィアに、家の中に水を取りに行くようお願いした。洗い流しておいた方がいいだろう。

 待っていると、ニカの目に突然涙が浮かんだ。

 その瞬間、僕の鼓動が大きく()ね上がる


 守ってあげたい――。

 こんな思いは初めてだ。普段強気な彼女の弱さが、僕の心の琴線(きんせん)に触れたのか。


「心配しないで、ニカ。ほとんど流れ出ているみたい」


 動揺を隠そうと、ごまかすようにニカの頭を()でた。

 

「まったく、誰よ。こんな子供の遊びを考え出したのは。お陰でいい迷惑だわ」


 素直になれない彼女は、言ったそばから自分の言葉を後悔している。


「……あ」


 それもそのはず、よく考えればわかるよね? 

 泥団子を作ってソフィアにぶつけようと提案したのは、他ならぬ君だよ?


「あたしは楽しかったわ」

「そうだね。だけど、誰かが傷つくのは嫌かも」


 僕はソフィアの感想をやんわりと否定する。

 いたずらも遊びの範疇(はんちゅう)であるうちは楽しいが、それを越えてしまえば面白くなくなる。人を傷つけて楽しむほど、落ちぶれたくはない。




 反省したニカは、ソフトないたずらに切り替えることにしたようだ。


「悪役をやめた方が早いのに」

「それはできないわ。悪役令嬢ヴェロニカは、番外編で看守のジルドと恋に落ちるの。だから本編を無事に終わらせて、番外編に進むのよ」


 本の世界に固執するのはおかしいし、止めなくてはいけない。だけどニカの隣にいられるこの状況を、僕は楽しんでもいる。


 正体を明かすのは、もう少し先でもいいだろう?


 公爵家の敷地に足を踏み入れると、今日も庭からニカの声が聞こえてきた。


「ソフィアー、怖くないからいらっしゃ~い」


 ニカがいろいろ仕掛けるせいで、近頃ソフィアは義姉を警戒している。ソフィアもニカと同じく僕のことを女の子だと信じているから、僕の方に寄って来ることが多くなっていた。


「こういう時にエルがいたら便利なのに……」

「呼んだ? もしかして、待っていてくれたの?」


 振り向くニカに、にこにこしながら返事をする。彼女は今日も綺麗で可愛い。


「良かった! 丁度いいところに来てくれたわね。早速だけど、ソフィアを連れて来て」

「何のために? ニカ、また変なことを考えている?」

「変って失礼な。こうしないと、王子が現れないんだもの。ラファエル王子ってどんだけレアなの?」


 とっくに現れていると知ったら、君はなんて言うのだろう? 

 だけど今はまだ、話したくない。あと少し、気軽な付き合いをしていたいから。 


「ニカ、まだ諦めてないの?」

「諦めるわけないじゃない。十年間じっくり頑張るわ」


 僕は肩を(すく)めてため息をつく。

 筋書き通りに行動するのは何の面白みもないし、決められた人生なんて退屈だ。そう教えてあげたい気もするが、今はソフィアへのいたずらを妨害する方が先決だろう。


 見ればニカは、桶の中に真っ赤な物をいくつか用意している。透明な膜のような物の中に赤い液体を入れて、端を(ひも)で結んでいた。この前の泥団子のように、ソフィアにぶつけるつもりらしい。


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