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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第四章 君とともに
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王子は悪役令嬢を愛したい

 晩餐(ばんさん)の後は舞踏会に突入で、休む間もなく次々踊る。


 ――結婚したから、もういいと思っているの? 


 私――ヴェロニカと三曲続けて踊ったラファエルは、あっさり私を手放して別の男性に引き渡した。肩までの金色の髪に青い瞳、すっきりした顔立ちの年上の男性だ。


 ――ラファエルったらもしかして、『釣った魚にエサはやらぬ』主義?


 今まで他の人と踊ったことがないので、緊張して変に力が入ってしまう。ステップはどうにか踏み間違えなかったものの、動きが絶対ぎこちない。


 ラファエルなら私のくせを理解して、上手くリードしてくれるのに。


 ……って、本人どこにも見当たらない。疲れて先に退室しちゃった?


 結婚後急に冷たくなる夫――。

 話には聞いたことがあるけれど、自分の身に起こるなんて思わなかった。式を挙げたばかりだし、ちょっと早過ぎない?


 それともやっぱり、私では不満なのかしら。

 この世界は物語ではないと言っていた王子が、急に自分の役割に気づいたとか、まさかそういうオチ!?


 悪い想像がどんどん(ふく)らむ。


『王子と結婚したソフィアは、末永く幸せに暮らしました』


 その一文で終わる『ブランノワール』本編に、この先の記述はない。


 でも本当に大変なのは、たぶん結婚してからだ。

 そもそも相手が違っているし、本の世界と現実とでは全く違う。


 物語通りになると思って悪役令嬢をめざしていた自分が、相当恥ずかしい。


 できる妻は、どーんと構えなければいけないの?


 夫の姿が見えないくらいで、不安になってはいけない。頭では理解しつつ、目はつい彼の姿を探してしまう。


 ――あ、いた!


 ラファエルは会場の隅で、見かけない年上の女性と嬉しそうに話している。年齢差がありそうなのに、その人は頬をピンクに染めていた。


 まさかラファエル、口説いてる?


 言葉少なく気もそぞろ。

 私は決して、楽しいパートナーではなかった。


 曲が終わり謝罪を込めて笑いかけた私に、金色の髪の男性は同じように笑い返してくれた。


 いい人で良かったわ。


 だけどいくら妃の務めといえど、これ以上は踊れない。楽しそうに笑うラファエルを見て、冷静ではいられないのだ。


 いきなり浮気……はさすがにないでしょうけれど、どういうつもりなの?


 そう思って向きを変えると、横から強く腕を引かれた。


「叔父様、もういいでしょう? 一曲踊れば十分なはずです。妃を返してもらいますね」


 ラファエルだ! 

 自分で引き渡したくせに、返してとはどういうこと? 

 それに叔父って……それならこの方も王族なの? 今までお目にかかったことはない、はずだけど。


「ふむ。噂通りの溺愛ぶりだな。国外にまで届いているぞ」

「それはどうも。否定はしません」

「ほどほどにな。美しい女性に骨抜きにされるのは、私だけでいい」

「その奥方が、あちらで寂しそうにしておられますが。いいんですか?」

「いや、すぐに戻ろう。君達も幸せにな」


 にやりと笑ったその人は、片手を上げるとさっきの女性のところに歩いて行った。それならラファエルと話していた人が、彼の奥様?


「ごめんね、ニカ。叔父がどうしても君と踊りたいと言い出して」

「叔父様って……外国にいらしたの?」

「ああ、正確には父の従弟で従叔父(じゅうしゅくふ)だが。愛する女性と一緒になるため、全てを捨てた。私の妃を見ようと帰国し、さっき到着したばかりだ」

「そうだったの」


 私は彼に認めてもらえたのだろうか?


 緊張していたし、ラファエルのことが気になって上手く踊れなかった。(あらかじ)め教えてくれたなら、心を込めてお話できたのに。


「紹介しなくてごめん。ありのままの君を見たいという、彼の意思を尊重した。可愛がってもらった恩があるから、断り切れなくて」

「いえ、それはいいんだけど……。貴方の相手が私と知って、がっかりしたのではなくて?」

「ニカ。そんなことを聞くとは、結婚したのにまだ不安? 君のお披露目(ひろめ)のために残っていたけど、私もそろそろ限界だ」

「限界って?」


 実はラファエルも緊張していて、私と同じく昨日は眠れなかったのかしら。もしくは今日一日で、相当疲れてしまったの? 


 ただでさえ合間に執務をこなしていたから、精神的にも体力的にも、もう限界ということだろう。


「妃に(いや)されたい。ここでの義務は果たしたから、もういいだろう。行こうか?」


 ラファエルに手を引かれた私は、会場内を突っ切ることに。

 もちろん目立つし、みんなが見ている。


 癒す――つまりマッサージをしてもらうため、先に抜けるって言わなくてもいいのかしら? 肩もみは得意だけど、まさか結婚当日にそんな伝統があるとは知らなかった。


「せめて両陛下にはお断りしなければ……」

「大丈夫。両親もわかっているから」


 やはりマッサージは、妃としての務めらしい。

 誰も教えてくれなかったし、明らかに私の勉強不足だ。




 豪華な寝室にあるのは、大きなベッド。

 夫婦となった私達は、今夜からここで休むことになる。


 ラファエルとは小さな頃から一緒にいるけれど、もちろん共には寝ていない。そのせいか、ベッドを見ると照れてしまう。


 通常なら新婚初夜。

 けれどラファエルは真剣な表情をしているから、すごく疲れているのだろう。もちろんマッサージだけでいい。いざとなると恥ずかしく、愛する夫に無理はさせたくないから。


「ニカ……」

「ラファエル、上着を脱いで横になって。早く始めましょう」

「へえ、随分積極的だね。もしかして、君も待っていた?」

「横になる機会を? ええ。いえ、貴方ほどでは……」


 大変だったけど、ラファエルほど疲れていない。だから眠くても、マッサージくらいはしてあげられるわよ。


 そう答えようとしたのに、なぜか腰に両手を添えられ、(ひたい)を合わされた。


「私の想いは当然わかっているよね? ずっとこの時を待っていた」


 マッサージを? 

 それならそうと、言ってくれれば良かったのに。


「きゃっ」


 なぜかラファエルが、私を持ち上げ横抱きに。

 大きなベッドに運ばれて、真っ白なシーツの上に下ろされた。


 彼は私と視線を合わせたまま、上着を脱ぎ捨てクラバットを外す。枕元に手を伸ばしたかと思いきや、次の瞬間、私を真上から見下ろしていた。唇には、薄っすら笑みまで浮かんでいて。


 ――待って、この体勢だと逆なんだけど。もしかして『癒す』って、マッサージのことじゃなかったの?


「あ、あ、あの。ラファエル、それだと疲れが取れないんじゃあ……」

「どうして? 君を愛する体力なら、心配しなくてもたくさんあるよ?」


 ラファエルの紫色の瞳が妖しく輝く。

 私はようやく理解した。と同時に、胸の鼓動が全力疾走を始める。


「な、なな、な」

「愛しいニカ、覚悟はいい? たっぷり可愛がってあげるね」


 髪をかき上げ、色気たっぷりに笑うラファエル。

 そんな顔も綺麗だけれど、いきなりピンチだ。

 見惚れている場合ではない。結婚した以上、いつかこうなることはわかっていた。それでも……一旦休憩したい。


「ええっと、その……」

「大丈夫、優しくするから」


 彼は私の髪を撫で、唇に優しくキスを落とす。


 王子はこんな時でもハイスペックだ。

 私のドレスをさりげなく脱がせたばかりか、コルセットまであっさり取り払う。


 片や私は手が震え、彼の着ているシャツのボタンすら外せない。結局、自分で脱いでもらった。


「綺麗だよ、ニカ。想像以上だ」

「ラファエル……」


 彼の方こそ彫刻みたいで美しい。

 鍛えた筋肉が(まぶ)しい引き締まった身体に、しっかりした腕。そして背中には、純白の翼が見える。


 彼は私を、綺麗だと言った。

 生まれたままの姿で恥ずかしいのに、誇らしくもあるのはどうしてだろう? 熱のこもった瞳で見つめられると、泣きたくなるのはなぜ? 


 あなたに出会えて良かった。

 私はもう、こんなにも……。


「……ラファエル、愛しているわ」

「私も愛している。可愛いニカ、存分に証明してあげよう」


 (かす)れた声のラファエルが、私の身体にキスを落とす。首元の赤い刻印や鎖骨、胸元は言うまでもなく、あちらこちらに。時々強く吸うから、身体中に薔薇の花びらのような赤が散る。


「ニカ、私の薔薇。好きだよ」

「私も……すごく好きだわ」


 ――あ、好きなのは行為じゃなくて、ラファエル本人ってことよ?


 けれど思考は、そこで途切れてしまう。

 だって私は情熱的な天使に、朝までたっぷり愛されたから。




夢見ていたのは、誰かを愛し愛されること。

 切ないほどの私の望みに、ラファエルは毎日、全力で応えてくれるのだった。



最後までご覧いただき、ありがとうございました(^^)

本編はこれで終わりです。


あと一話、投稿予定です。


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