表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第四章 君とともに
59/61

運命の行方 10

 朝からよく晴れ、辺り一帯が澄んだ清浄な空気を(まと)っているようにも感じられる。本日は、この国の王子である私、ラファエル・ノヴァルフと公爵家のヴェロニカ・ローゼス嬢の結婚式。


 多くの者が招待され、式の後には盛大な祝賀も予定されている。城の中庭を一般にも解放しているため、早朝から多くの民が詰めかけていた。


 ――私とニカがバルコニーに出るのは一瞬だというのに、長く待つので凍えてしまわないだろうか? 


 所々に焚火(たきび)を置いて、火の魔法使いを派遣しよう。私には、今日を素晴らしい日にしたいという思いがある。




 天宮内の礼拝堂では、真っ白なドレスを(まと)ったニカが私の隣に立った。

 誇らしい気持ちでいっぱいになりながら、私は彼女に永遠の愛を約束する。


「ノヴァルフ国第一王子 ラファエル・ノヴァルフ。(なんじ)は病める時も健やかなる時も、またその命尽きる時まで、ヴェロニカ・ローゼスを愛し、支え、共にこの国のために力を尽くすと誓えますか?」

「はい、誓います」

「では、ヴェロニカ・ローゼス。汝は病める時も健やかなる時も、その命尽きる時まで、ラファエル・ノヴァルフを妃として支え、愛し、共にこの国の発展に力を尽くすと誓えますか?」

「誓います」


 生涯私に添い遂げると、はっきり誓ってくれたニカ。

 これで君は、私の正式な妃だ。 

 当然、誓いの口づけにも時間をかける。


 感動で涙を(こぼ)すニカが可愛くて、私は再び彼女に顔を寄せ、その(しずく)を唇で吸い取った。


「ま、また()め……」

「ニカ、君を(いや)すのが私の役目だ」


 白い手袋に包まれた両手で、真っ赤な頬を隠す君。

 そこまで恥ずかしがらなくてもいいし、司祭も列席者も何なら待たせておけばいい。夫婦となった以上、これからもっとすごいことをするんだけどな? 


 夜が待ち遠しいけれど、続く行事を終えない限り、彼女と二人きりにはなれない。

 こんな時、王子である我が身が恨めしい。


 ――こればかりは仕方がない、か。


 ニカがじっと見つめていたため、私はごまかすようににっこり笑う。


「さあ、行こうか。みんなが待っている」


 差し出す手にニカの手が重なる。

 私達は仲良く手を繋ぎ、中庭を臨むバルコニーに向かう。民衆に向かって手を振った途端、大歓声に包まれた。


 ――ねえ、ニカ。君が隣にいるこの光景に、私はずっと憧れていたんだ。


 込み上げる想いを隠し、私は緊張気味の彼女に話しかける。


「ニカ、今日の君も息を飲むほど綺麗だって言ったかな? 純白のドレスを着た君は、天使のようだ」

「大げさだわ。ラファエルの方がもちろん素敵よ? それにしても、こんなに大勢いらして下さるなんて、本当にありがたいわね」

「君が皆に愛されている証拠だ。教会関係者は、特に熱心に君の噂を広めたらしい。もちろん私が、ニカを一番愛しているけどね」


 ニカへの愛なら昔も今も、誰にも負けない。


「ラファエルったら。でも、さっきのあれはちょっと……」

「誓いのキスのこと? それとも涙の方? それほど長くしたつもりはないんだけどな。むしろ、あの程度で我慢した私を()めてもらいたい」

「いいえ。さすがにあれはダメでしょう。司祭様も(あき)れていらしたわよ?」

「そうかな? 彼は慣れているはずだ。本当はキスだけじゃなく、今すぐ二人きりになって色々教えてあげたいけれど」

「なっ、こんな所で何を言って……」

「ほら、ニカ。みんなが見ている。笑顔で手を振って」


 涼しい表情で手を上げる。

 もちろん横目で、ニカの赤くなった顔を確認することも忘れない。


 ――ニカは本当に愛らしいね。もしも君が群衆の中に紛れていたとしても、私はすぐに見つけ出せる自信があるよ?


 いくらニカが魅力的でも、見惚れていては先に進まない。私は真面目な表情で、民に接することにした。


『この()き日を、皆が心から祝ってくれることに感謝する。私の愛する民に、天使の祝福を』


 風の魔法を使い、声を辺りに響かせる。

 大音量で拡散したから、遠くの方までしっかり聞こえているはずだ。


 ニカ、今後は君が私に毎日祝福を与えてくれるだろう。

 君が隣にいるだけで、私の世界は輝く――。


「さて、ニカ。私からの結婚祝いだ」


 彼女の反応を見ながら、私は自分の胸の前で握った(こぶし)をゆっくり開いた。手の中には何もないが、もうすぐ現れるはず。

 時を待たずに、空からふわふわした小さな雪が舞い落ちた。この冬初めての雪に、人々は興奮しているようだ。


「わあ、すごい!」

「晴れているのに? 奇跡だわ」

「天使だ、天使の降臨(こうりん)だ!」


 その年最初の雪を、この国の人々は『天使の降臨』と呼ぶ。

 雪の白さが天使の羽を連想させるからだ。目にした者を幸せにする力があるとも言われていて、降った瞬間喜ばれる。貴族や平民関係なく、集まった人々は初雪に夢中になった。


 私達の式が皆の記憶に残ればいい。

 愛する人のため、民のため。

 幸せに力を尽くすという私の決意を、大事な人々に伝えたい。


「綺麗だわ。これも水の魔法?」

「そう。目立つことはしたくないが、他ならぬ君のためだ」

「ねえラファエル。貴方もしかして、五種類全ての魔法が使えるんじゃない?」

「さすがはニカだね。その通り、私は全てを扱える。初代の王と同じらしい」

「やっぱり……」

「でもまあ、魔法はあまり使いたくないかな? 羽があるだけでも異質で、怖がられてしまうから」

「怖がるってどうして? 貴方の翼はとっても綺麗だわ。それに全ての魔法が使えるって素晴らしいことよ。人々の役にも立つし。ラファエルは本物の天使様みたいだから、みんなに希望を与えられるわね」


 私は一瞬絶句した。

 強大な力を恐れられたことはあっても、褒められた記憶はない。


 ニカの思いがけない賛辞が嬉しくて、込み上げる愛しさに胸が熱くなる。私は目の前の美しい妃に向かい、心からの笑みを浮かべた。


「ありがとう、ニカ。やはり君は最高だ!」


 彼女を抱き締めた後、高々と抱え上げた。

 そんな私達を見た群衆が、再び歓声を上げ嬉しそうに拍手をする。


「待って! お、下ろして」


 焦る姿が可愛くて、彼女の声が聞こえないフリをした。


 ――ニカ、私は今、君を世界中に自慢したい気分だ!


 やがてニカを下ろした私は、人々に向き直る。

 ニカも妃の務めと思ったのか、同じように前を向き私にぴったり寄り添った。国民に真摯(しんし)に応えるつもりだろう。


 ――この可愛い妃をどうしよう? とてもじゃないが、夜まで待てない。


「ニカ、もしかして今、君も同じ気持ちかな?」

「ええ、たぶん」 

「雪をもっと降らせて、彼らが気をとられている隙に寝室に直行……」

「しません!」


 ムッとするニカ。

 ころころと表情を変える君が愛しい。


 冗談と思っているようだけど、私は本気だ。想像するだけで口元が(ゆる)むが、やはり楽しみは後にとっておこうか。


 今夜君は、私の想いの深さを知ることになるだろう――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ