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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第四章 君とともに
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運命の行方 5

「……え?」


 驚くってことは、覚えていないようだね。


 私はニカを見ながら上着を脱ぐと、クラバットを(ゆる)めた。続けてシャツのボタンを外す。


「ね、ねえ、今ここで脱がなくっても」

「実際に見た方が早いだろう?」

「勘違いよ、私じゃないわ」

「ニカ、君以外に誰がいる?」


 私が一緒になりたいと望むのは、後にも先にも君一人。


 私は構わず服を脱ぐと、上半身を(さら)した。

 翼を大きく広げた瞬間、ニカは驚きに目を見開く。


「……綺麗だわ!」


 彼女の瞳が納得したように光る。

 ようやく思い出してくれたのか?

 

「ラファエル、貴方は天使なの?」

「先祖返り、と言っただろう? 初代の王は『天使』と呼ばれていた」

「夢だと思っていたのに……」

「君はしたたかに酔っていた。私はそこにつけ込んだんだ」

「部屋に運んでくれた時のこと? それなら私を着替えさせたのって……」

「ごめんね、ニカ。それは私だ。どうしても君が欲しかった」

「……え」


 ニカは顔を引きつらせているけれど、合意もなく襲うわけがないだろう? 


「違うよ、ニカ。さすがに酔った女性に手は出さない。私は君に翼を見せて、首元に印を刻んだ」

「印? じゃあ、この虫刺されって……」

「虫刺されというより、キスマークの方が近いかな? 魔力を使って所有権を主張する。君に危険が及べば刻印が守り、私に伝わる」

「私はもう、貴方のものなの? 他の人とは一緒になれないの?」


 眉根を寄せたニカを見て、つらくなる。

 私は(まぶた)を閉じて息を吐き出すと、再び目を開け非難に(そな)えた。


「そう、と言えればいいけれど。君は平気だし、一年以内に刻印も消える。だが私は……」


 生涯君以外は愛せずに、子を持つことは叶わない。

 受け入れられなければ王位継承権は別の者に移り、翼もやがて消えるだろう。


「ねえ、ラファエル。貴方、私と一緒になりたいの?」

「何を今さら。私は何度もそう言っている」

「で、でもあれは、からかっただけでしょう? 婚約者の演技や冗談で」

「演技をしたつもりも、冗談を言ったつもりもない。私は最初から、全て本気だった」

「それならソフィアは? 義妹との約束はどうなるの?」

「約束? ニカ、君の方こそ勘違いをしている」


 ニカが私の裸の上半身に目を向ける。

 恥ずかしそうにしているから、仕方なく翼を畳む。


「気持ち悪くなかった?」

「いいえ、全然。それにしても美しい羽ね」

「魔力によるところが大きいから、飛べないし形だけだ。普段は身体の中にある」


 私は身体の中に翼をしまうと、シャツを羽織(はお)った。座り直したニカは、ソフィアのことを聞いてくる。


「ねえ、勘違いって何のこと?」

「ニカ、ソフィアの相手を知っている?」

「ええ。以前ラノベで読んだし、本人からもしょっちゅう聞かされていたもの。貴方以外にいるとでも?」

「やはりそこからか。だから君は、ソフィアの名前をよく出していたんだね」

「えっ?」


 ニカは相変わらず、本の世界を信じていたのか。

 だから私が君を好きだと言っても、本気にしなかったんだね?

 

「全てをなかったことにしないで。いくら貴方でも、義妹の真剣な想いを(ないがし)ろにするなんて許さない!」

「ニカ、怒った君はますます綺麗だ。やはり明日にすれば良かったかな。あと二ヶ月も我慢するのは苦しい」

「そうやってごまかすつもり? 私はソフィアを蹴落としてまで、貴方と一緒になりたいなんて思ってないわ」


 私はニカを見ながら肩を(すく)める。


「それは残念。私は違うかな? たとえ周りを蹴落としてでも、君を手に入れたい」

「なっ……」


 ニカが絶句する。

 私の本気の想いを、見くびってもらっては困るよ。


「そうそう、ソフィアの相手の話だったね。もちろん私ではない。よく見ていればわかったことだ。彼女が好きなのは……クレマンだ」

「あなたの護衛の?」

「ああ。フィルベールを引き渡した後は交代だから、ソフィアの元へ向かっているはずだ」

「でも、年が違い過ぎるわ! ずっと貴方の側にいたから、かなり年上でしょう? 父親ほどの年齢の人とソフィアが?」

「ひどいな。クレマンが聞いたら(なげ)くよ。落ち着いているから老けているようにも見えるが、彼は確か二十八になったばかりだ」


 ぎょっとするニカ。

 私は少しだけ、忠実な護衛のことが気の毒になった。


「信じられないわ! だって彼は、昔もあなたに付き添っていたじゃない。あの頃から既にソフィアを?」

「まさか。あの時彼は十八で、私の護衛に任命されたばかりだった。そんな余裕はなかっただろう」

「それならいつ?」

「それは本人達に聞いてほしいな。ともかくこれで、誤解は解けただろう?」


 赤い唇に手を当てて(うな)るニカも、やはり可愛い。

 だけどクレマンのせいで、私が疑われていたとは心外だ。


「ねえ、結構前からソフィアはよくここに来てたと思うんだけど。貴方と会っていたんじゃないの?」

「私と? いや、執務で忙しくてそんな暇はないな。ああ、その時もクレマンが相手をしていたっけ」

「そうなの?」


 こんな時に嘘を言ってどうする。

 私もソフィアも、互いに何とも思っていないのに。


「おかしいわ。それならなぜ、貴方達は密会を?」

「密会? 覚えがないが」

「旅行から帰って来た日、ソフィアが迎えに現れたわよね? 私は先に帰ろうとしたけれど、気が変わって戻って来たの。そうしたら、執務室に貴方とソフィアが二人きりでいて……」


 悲しそうなニカ。

 そんな顔をしているのに、私を好きではないと言い張るつもり?


「ニカ、考え込んでいるところ悪いんだけど。君が気にしているのは、さっき言いかけたことだね?」

「ええ」

「君の信頼を勝ち得ていないのは、寂しいが。やはり君は、誤解をしている」

「誤解?」

「ああ。そもそも私は、ソフィアと二人きりになったことなどない」

「嘘! だってあの時確かに……」

「本当によく見たの? 執務室では私の前にはソフィアが、壁際には二人の護衛がいた。もちろんクレマンも」

「……あれ?」


 執務室に入るなり、私の前に回ったソフィアが興奮したように話し出した。あの時は、護衛のクレマンとダリルも一緒にいたはずだ。


「ソフィアが、()()と言ったのは……」

「もちろん自分とクレマンのことだ。彼は侯爵家の長男だから、ソフィアはいずれ侯爵夫人といったところか。さすがはソフィアだな」

「だったら相手が私だからと、貴方が(なだ)めていたのは?」

「そんなことは言っていない。たぶん、『相手は私の護衛だから』との言葉を、聞き違えたのでは?」


 唇を噛むニカを見て、私は言葉を続ける。



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