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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第四章 君とともに
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運命の行方 2

 私はそこで言葉を切ると、ニカの顔をチラリと見て自嘲(じちょう)気味に笑う。


 君の思い通りにはならないよ。

 なぜなら私は、君が好きだから。

 婚約破棄など、するはずがないだろう?


 私は再び前を向き、声を張り上げた。


「――手に負えない程綺麗になった。よって、二ヶ月後には式を()げようと思う。皆も盛大に祝ってくれ!」


 会場がシンと静まり返った後、一斉に祝福の声が上がる。歓声や拍手も鳴り響く。


「嘘……」


 呆然とするニカに、優しく語りかけた。


「聞いての通りだ、ニカ。挙式は明日でも良かったが、思い直した。女性にはやはり、準備期間が必要だろう?」

「どうして? 私はさっき証拠を渡して……」


 混乱しているようだが、逃さない。

 公の場で発表した以上、君には私と式を挙げる以外の選択肢がなくなった。


「証拠? 何のことだろう。不要な紙なら私がこの手で処分しておいた」

「そんな! あれは大事な……」

「気がつかなかったな。ここからは独り言だが……」


 私はニカの耳に唇を寄せる。


「別室にいた令嬢達は、無事に保護し家に帰した。国外に行った者も手を尽くして探し出し、帰国の交渉中だ。主犯だけが逃げおおせているが、間もなく捕まる。君が攫われてくれたおかげで、事件はほぼ解決した」

「私も一時仲間だったのよ? 悪いことをしたんだし、言い逃れはしないわ」

「ニカ、君の言う意味がよくわからない。攫われた被害者が、加害者のことを仲間と呼ぶの?」


 眉根を寄せるニカは、不思議なことを言い出した。


「それならソフィアは? 義妹の気持ちを無視するつもり?」

「ソフィアの気持ち? どういうことだ」


 ニカはソフィアに目を向けた。

 彼女の義妹は私達を祝福し、嬉しそうに拍手をしている。


「どうして? 貴方達は愛し合っているのでしょう?」

「私とソフィアが? まさか」


 結婚しようと伝えているのに、ニカはこの期に及んで何を言うのだろう? 


 私は大きくため息をつくと、彼女に手を差し出した。


「まずは踊ろう。その後でゆっくり話を聞くから」


 私はニカの身体を引き寄せる。

 彼女の相手を務めるのは、昔も今も私だけ。


 ニカは、以前に比べて見違えるほど上手に踊れるようになった。全面的に信頼し、リードを任せてくれるから。

 彼女がステップを踏み間違えていた二年前を懐かしく思い出し、私は笑みを浮かべた。対照的にニカは、真面目な顔をしている。


「ニカ、もう少し嬉しそうな顔をしてくれるとありがたいな。もちろんそのままでも、十分魅力的だけど」


 彼女の耳に(ささや)いた。

 慣れているはずなのに、恥ずかしがってでもいるのか、ニカの顔が赤い。


 ――こんなに可愛らしい顔をしながら、どうして君は別の男を好きだと言うの?


 曲が終わり礼をすると同時に、ニカは大広間を見回した。かと思えば、ドレスのスカートをつまんで走り出す。私は慌ててニカを追い、広間の外に出た。


「待って、ニカ。どうして逃げるの?」

「逃げる? 違うわ。ソフィアが……」


 言いかけたニカに、腕を引かれた。

 そのまま空いている部屋に、押し込まれてしまう。


「ニカがそんなに早く、二人きりになりたがるとは」

「違うでしょう! 全部説明してくれる?」 

「もちろん話すけど、落ち着くためにお茶が必要だ。頼んで来るからここで待っていて」


 二か月後に結婚すると、突然公表したせいだろうか? 


 確かに私達の間に、話し合いは必要だ。

 私はお茶の用意を頼みに行くため、部屋を出た。廊下を歩いていたところ、向こうで人の声がする。徐々に大きくなる騒ぎを、無視することもできない。


 不審に思って近づくと……あれは、火事か?


 舞踏会の会場となっている大広間。

 その窓の近くが、明々と燃えているのだ。


 いったい誰がこんなことを? 


 私は急いで指示を出し、火を消すために魔法使い達と協力して水を出現させた。



 *****


 

 ラファエルは行ってしまった。


 社交界にデビューした時からずっと、私、ヴェロニカのパートナーはラファエル一人。他の誰かと踊ろうとしても、その度に彼が邪魔をするからだ。


 巧みなリードに慣れた私は、彼が相手だと考えなくても自然に身体が動き、(なめ)らかにワルツを踊れる。その彼は先日、ソフィアとこんな話をしていた。


『どうして? どうしてまだなの?』

『言いたいことはわかるが、あと少し待ってほしい』

『もう、エルったらいつもそればっかり! なぜ私達のことをお父様に告げてはいけないの?』

『物事には順序がある。それでなくとも相手は……』

 

 南部の教会から戻った日。

 天宮で待ち構えていたソフィアを残し先に帰ろうとした私は、思い直して引き返した。


 ――あっさりフラれてもいい。気づいた恋心だけでも、ラファエルに伝えよう。


 執務室に訪ねて行くと、中には親密そうなソフィアとラファエルがいた。

 私はそうっと開けた扉の隙間から、二人の姿を見て、話を聞いてしまったのだ。その瞬間、頭が真っ白になる。


 ――やっぱりヒロインと王子は、想い合っていたのね! 


 ショックのあまり続きを聞き逃してしまったが、彼の声で我に返った。


『約束しよう。舞踏会の後に必ず話す。だから私を信じて、待っていてほしい』


 ラファエルはソフィアを愛している! 


 それなのに彼は、私と結婚すると言い出した。

 婚約破棄をするはずの、今日の舞踏会で。


 義妹に約束したその唇で、貴方はどうしてそんなことが言えるの? 

 私を愛していないのに、みんなの前で平気で嘘をつくのはなぜ? 


 聞きたいことは山ほどあるのに、ラファエルはまだ帰ってこない。




 扉の開く音で、彼が戻って来たことがわかった。


「ねえ、早く……」


 言いかけた私は、そこにいたのが侍従だと知り、慌てて口を閉じる。


 ――でも、変ね。侍従が一人でこの部屋に? 


 呼んだわけでも紅茶を運んで来たわけでもない。

 用もないのに、王子付きの侍従が勝手に入ってくるなんて。


 大抵は女官と一緒だし、それでなくても長めの前髪と口(ひげ)の侍従は、今まで見たことがなかった。


 念のため、所属を聞こう。


「ねえ、あなた……」


 男はあっという間に近づくと、叫び声を上げるより早く私の口を手で(ふさ)ぐ。見知らぬはずの男の前髪から(のぞ)く目元には、覚えがあった。


 彼は――フィルベールだ!




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