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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第四章 君とともに
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運命の行方 1

 今日は十六歳となった者が社交界にデビューする日で、夕方から舞踏会が開催される。

 ニカも出席するため、彼女の瞳と同じ色の真紅のドレスを贈った。

 

 気に入ってくれただろうか?


 金額には糸目をつけず、豪華に仕立てるよう依頼しておいた。見本のデザインを見せられたが、彼女は何を着ても似合うため、心配はしていない。会うのが楽しみだ。


 ニカとソフィアが天宮の控室に到着した。

 私の贈ったドレスを着たニカは、美し過ぎて言葉が出ない!


 二人とも緊張しているのか、黙って淑女の礼を取る。

 私はまず、ニカに声をかけることにした。


「ニカ、思った通りとても綺麗だ。君には赤がよく似合う」

「ごきげんよう、ラファエル。貴方こそ素敵よ」


 白地に金のただの礼装だ。

 君に比べれば、どうってことはない。


「ソフィア、ようこそ。あの者に案内してもらうといい」

「ありがとうございます」


 義妹の言葉を聞いたニカが、なぜか目を丸くしている。

 私は構わず、控えていた女官にソフィアを託した。 


 社交界にデビューするソフィアは国王と王妃に謁見するため、玉座の間に向かわなければならない。片やニカはこの場に残る。彼女と二人で過ごそうと、今日の執務を大急ぎで片づけて来た甲斐があった。


 ということでソフィア、行ってくるといい。


「二人きりで話がしたいの。いいかしら?」


 ソフィアが退室するなり、ニカが口を開いた。


「君がそんなことを言うとは、珍しいね。もちろん歓迎するけど」


 改まっているので、また変なことでも言い出すのだろうか? 

 それでも私はニカに弱い。

 彼女の希望通り、人払いを命じた。


 侍従や女官、護衛が部屋から出たのを確認すると、ニカは書類を取り出して、私に押し付ける。


「……ええっと、ニカ。何かな? これは」


 思わず受け取り、戸惑いながらも目を通す。

 それはフィルベールから送られてきた手紙で、先日のソフィア誘拐の引き金となったものだ。


 待ち合わせ場所の地図や手紙の一部は押収したのに、まだ大事に取っていたのか。

 それに、このメモは……。


 1.悪党2~3名募集

 2.馬車の手配

 3.監禁場所の用意

 4.王子への連絡係(子供が望ましい)


 ニカの筆跡で、明らかに自分を疑ってくれと言っているようなもの。

 いったいどういうつもりだ?


「何って? 見ての通りよ。私、フィルベールや彼の仲間と関係があったの」


 瞬間的に怒りが込み上げる。

 わざと誤解されるような言い方をしてまで君は……。

 だが、牢獄行きなど私が許さない。

 

「誘拐された時のこと? まさか、無理強いでもされた?」


 わかっていながらわざと聞く。

 ニカに刻んだ印は、他者と関係を持った女性には現れない。王族を宿すのに相応しい、純潔の者だけが赤く色づく。見たところ、あの夜刻んだ赤い印は彼女の首元に定着していた。


 ――誰にも渡すはずがない。君は私だけのものだろう?


「違うわ。変な意味じゃなくって、()()って意味。私が彼らに頼んでソフィアを(さら)わせたの」


 悪役令嬢になるためだよね。知っているよ? 

 私は軽く肩を(すく)めた。


「それはそれは。君も攫われていたようだけど? でも、いたずらにしては度が過ぎているね」

「そうね」


 唇を噛んで私を見るニカ。

 後悔するくらいなら、仕掛けなければ良かったのに。


 悪役なんてバカなことだと君自身が気づくまで、私は待っていた。いじめをしようと努力するのは無意味だと、悟ってくれたらと。


 ようやく正気に返って良かったよ。


 私は思わず口の端を上げた。


「ええっと……それだけ?」


 ニカが首を(かし)げている。


「それだけ、とは?」

「いえ、別に。もっと責めるかと思って」

「攻める? まあ、攻めるべきは今じゃない、かな」


 夫婦としての楽しみは、式の後まで取っておこう。

 この冗談、わかってくれればいいけれど。


「そう、楽しみにしているわ。それと、今までありがとう。貴方の婚約者というのも、案外悪くなかったわ」


 ここまできても君はまだ、婚約破棄を望むのか?


 私はニカをじっと見つめた。

 好きだという想いを、未だに理解されないことが悲しくて。


「まだ諦めていなかったのか……。こちらこそ、今まで楽しかった。いや、苦しくもあったかな?」


 目を細め顔をしかめた私を見て、ニカが白い腕を上げる。

 けれどその指は、私に届かず下ろされた。


 他の男――ジルドを想う君。

 そんな君との時間は、私にとって楽しくもありつらかった。

 だけどそれも、今日で終わりだ。

 

「ねえ、ニカ。君に伝えておくことがある。実は……」


 言いかけたところで、扉が勢いよく開く。

 女官の制止を振り切って、ソフィアが中に入って来てしまう。


「ふう、疲れた~。緊張したけど、上手くいったと思うわ。あら、お話し中?」


 ソフィアがいるなら話はできない。

 ここは一旦退散しよう。


「ヴェロニカ、これは私が預かっておく。じゃあ後で」


 ニカが持って来た書類を手にして部屋を出た。

 彼女が見ていないところで、全て跡形もなく燃やしてしまおう。




 舞踏会が始まった。

 大広間の天井から吊り下げられたシャンデリアが、(まばゆ)いばかりの光を放っている。幾何学(きかがく)模様の大理石の床には、緋色の絨毯(じゅうたん)が敷かれていた。


 絢爛豪華(けんらんごうか)な会場には、今夜デビューする令嬢達が緊張した面持ちで立っていて、多くの若者達が声をかける(すき)を狙っているようだ。豪奢(ごうしゃ)な装いの女性達と比べても、ニカの美しさは突出していた。


「どうした、ヴェロニカ。私の顔に何かついている?」

「いえ、別に」


 目を()らし、いつになく素っ気ない様子のニカ。

 でもヴェロニカと呼ぶことで、婚約者として振る舞ってくれるはずだ。


 私は自分の腕に手を添えるよう、身振りで彼女に(うなが)した。ニカは今日も辺りを見回し、ソフィアの姿を探している。そのソフィアは、私の後ろの人物を頬を染めて凝視していた。

 

 舞踏会はまず、最も身分の高い者が踊る決まりだ。国王である父は膝を痛めているため、踊ることが出来ない。


 私はいつものようにニカを連れて、フロアの中央に進み出る。

 だが今日は、踊る前に言いたいことがあった。


 私は会場に集まった人々を見回し、大きな声を出す。


「皆、よく聞いてくれ。私から重大な発表がある」


 隣のニカが鋭く息を飲む。

 突然緊張したのか、震えてもいるようだ。


「長すぎる婚約は、互いにとって良くなかった。そのせいで、ここにいる私の婚約者は――」



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