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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第四章 君とともに
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天使が望む者 3

 こっそりため息をつく。

 君が子供なら、こんな想いは抱かない。ベッドに組み敷きその身に私の跡を残したい、などとは――。


 けれど、ニカは私の思いに気がつかず、全く別のことを考えていたらしい。


「大変! ソフィアにお土産を買うの、忘れていたわ」

「へえ。この頃ニカは、ソフィアと仲良くしているんだ」


 いたずらを仕掛けないどころか、姉妹で仲(むつ)まじい様子だ。


 ――だったら牢獄行きは、もう諦めた?


 ニカもようやく、この世界が本の通りではないと理解したようだ。それなら、今度こそ……。


 ところが、ニカはワインを飲み過ぎてしまったらしく、さっきから私の顔を見てはクスクス笑っている。もちろん彼女はどんな顔でも可愛いが。


「大丈夫か、ニカ。酔っ払っているのかな? このお嬢さんは」

「いいえ~全然。あくやくれいじょーたるもの、これくらい、では酔いま、せん!」


 心配になって(のぞ)き込む。

 真っ赤な顔のニカが、「黙って」とばかりに私の唇に自分の人差し指を押し当てる。


 私はたまらずその手を握ると、指先に口づけた。


「そんなことしたら、えーっと、王子様みたいよ?」


 ()()()と言われても、本当に王子なんだけど。やはり、かなり酔っているな。


 ニカの目が(うる)んで、トロンとしている。

 放っておくと、このままテーブルに突っ伏して眠ってしまいそう。


 ()めた時点で後悔することは目に見えていた。外の空気を吸わせるか、部屋に戻した方が良さそうだ。

 

「ニカ。上機嫌な君も可愛いけど、このままでは危ないよ」

「可愛いのは、ソフィアとエルでしょう?」


 久々にエルと呼ばれたが、好きな人に可愛いと言われて嬉しいはずがない。

 思わずムッとした私に、護衛のクレマンがこう告げる。


「ヴェロニカ様を部屋までお運びしましょう」

「いい。私がニカを連れて行く」

「ですが、ラファエル様もお疲れでしょう?」

「いや、大丈夫だ。私が女性一人、運べないと思うか?」


 他の男がニカに触れるのを、許すわけがない。


 私はニカの椅子を後ろに引くと、彼女の背中を支えて膝裏に手を差し入れた。そのまま抱え上げ、横抱きにする。

 

「へ?」

「ニカ、君をどうしよう? 今すぐ私のものにするべきか」


 酔ったニカは微笑むと、安心したように私の首に腕を回す。私は彼女と共に、先に食堂を出ることにした。


「みなはそのまま、食事を楽しんでくれ」


 歩き出すなり、(まぶた)を閉じるニカ。

 幸せそうなその顔はほんのり赤くて綺麗だが、もう少し危機感を持ってもらいたい。


 私が君を自分のベッドに運んだら、どうするつもりだ?


「ニカ、こんな所で寝ないで。あと少しだから頑張って」


 困った声を出すが、ニカは既に寝息を立てていた。


 サラサラの黒髪が階段を上る度に揺れ、柔らかな肌からはいつものように薔薇の香りが漂う。赤い唇は笑みを形作っているし、伏せたまつ毛も震えるほどに美しい。

 ニカの白い腕が、徐々に力を失くし私の胸元を滑り落ちた。優しく撫でるようなその感触に動じて、落っことさないようにするだけで精一杯だ。


 ――私は今、ニカに試されているのだろうか?




 ニカはスタイルが良く軽いので、楽々運べる。

 だが変に緊張したせいで、私は汗をかいていた。

 ニカを抱き直し、彼女の滞在する部屋の扉をゆっくり開く。


 念のため中から鍵をかけると、彼女をベッドにそっと下ろす。

 寝顔を見つめ、ニカの髪を優しく()でた。


 部屋には二人きり。

 今から私がしようとすることを知っても、君はいつものように笑ってくれるだろうか?


 私はベッド脇に腰かけ、上着を脱ぎクラバットを緩め、首元をくつろげた。そのままシャツのボタンをいくつか外し、背中の翼を大きく広げる。次いで横になるニカを見つめ、その(ほお)に手のひらを当てた。


 彼女はまだ、ぼんやりしているようだ。

 

 ――君には本当の私を知って欲しい。そして、嫌わないで。


 切なる願いを込めながら、ニカの顔を(のぞ)き込む。

 彼女はゆっくり(まぶた)を開けた。


「綺麗ね。羨ましいわ」


 翼を目にしたニカは、そう言って私の顔に手を伸ばす。(ひたい)にかかった前髪を、撫でつけてもくれた。


 いきなりこんな姿を見せた私を、怖がらないのか? 


「ニカ、君の方が綺麗だよ」


 感動のあまり声が(かす)れてしまう。

 酔っているとはいえ、変わらぬ彼女の優しさが嬉しくて。

 

「ありがとう。嬉しい」


 ニカが素直に礼を言う。

 柔らかく微笑むけれど、もしかして本気にしていない?

 

「何度も言っているのに。好きだよ、ニカ」


 私はたまらず、ニカの髪にキスを落とした。

 馬車で送った時のように、細い首筋や真っ白な肩にも。


 私の唇や舌の感触に、ニカが小刻みに震えている。だけどもう、止めてあげることはできなかった。


 私は私の印を、彼女だけに刻み付けたい!


「違う……こんなに好きなのに」

 

 ニカが言い、片手で自分の目を(おお)う。

 透明な(しずく)が、手の隙間(すきま)から(こぼ)れて頬を伝った。


 ――ジルドではないと嫌がって、泣いているのか?


 報告書によると、ジルドは既に別の女性を選んだ。

 その事実を告げても、君はまだ彼が好きだと言うつもり?  


「ごめんね、ニカ。もう放してあげられないんだ」


 私には、君しかいないから。


 王位継承権を持つ者が、羽や羽の痕を見せて所有の印を刻み付けることができるのは、生涯にたった一人と決まっている。すなわち、自分の子供を産んで欲しいと望む者にだけ。


 ニカが首を横に振る。


 それなら、止めようとしても止められないこの想いを、私はどこにぶつければいい? 


 荒れ狂う感情を抑え込むため、私は歯を食いしばり、手のひらに爪を深く食い込ませた。いつもならすぐに収まるはずの背中の翼が、抵抗して震えている。

 そんな時――彼女が私の名を呼んだ。


「ラファエル……」


 もう、無理だ。

 この気持ちを抑えるなんて、私にはできそうにない。


 私は全ての魔力を唇に集めると、彼女の首元にキスと言う名の所有の印を刻んだ。


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