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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第三章 意識させたくて
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大事件 9

 裏通りの外れの廃墟。

 待ち合わせ場所に指定されているのはここだった。


 おかしなことに、フィルベールはこの紙だけを燃やせと言っている。それなら、隠れ家として用意された田舎の家よりこちらの方が断然怪しい。


 昔栄えていたという二階建ての娼館は、ところどころ外壁が崩れて見る影もなく、飛び交うカラス達が余計に物悲しさを際立たせている。

 そんな館のすぐ横に、紋章のない黒い馬車が停まっていた。


「かなり怪しいな。ニカの居場所がわかるように魔力を込めたつもりだが、未だ反応はなし、か」


 魔法石を渡した日、うなじに口づけて所有の印を刻もうとした。


 ――軽くだし、翼をしまっていたから威力が弱かったのだろうか? 


 ここで間違いないはずなのに、ニカの気配は感じられない。


 騎乗したまま朽ち果てた館の正面に回ろうとした時、轟音と共に火柱が立ち昇るのが見えた。


 ――ニカだ!


「やはりここか。急げ!」


 魔法石が割れて中の魔法が発動したらしい。

 私は馬から飛び降りると、館の中に踏み込んだ。


 火柱が炎の壁を形作るから、当分はニカを守ってくれるだろう。術者本人(この場合はニカだ)が認めた者以外、炎は熱く近寄ることはできないはずだ。


「屋敷を隅々まで探せ!」


 兵士達が一斉に動き出す。

 私は吹き抜けの玄関ホールを経て、ボロボロの絨毯(じゅうたん)が敷かれた階段を駆け上がる。木の扉を次々と開け、中を確認していく。


「うわっ、何だ」

「きゃあ」

「ひっ」


 黒髪のニカが見当たらない。

 発動した魔法が何らかの形で表れているはずなのに、その様子もない。


 中にいたのは人相の悪い見張り役の男達や、拘束された令嬢達だ。


「やつらを捕まえろ! 女性は保護するように」

「はっ」


 王宮騎士でもあるクレマンが、兵士に指示を与える。

 ごろつきが、訓練された兵に(かな)うわけがない。あっさり取り押さえられ捕縛された男達が、観念したように唇を噛む。


 しかし私は焦っている。

 階下の状況を確認しても、ニカもソフィアもいなかった。

 気配が薄く火の壁が見えないということは、隠し部屋でもあるのだろうか?


 ――頼む、ニカ。無事でいてくれ!

 

 緊急事態だ、仕方がない。

 私は、ふてぶてしく横を向く大柄な男に近づくと、手のひらに炎を出現させた。


「一度だけ問う。他の令嬢はどこにいる?」

「あ……あっしは何も」


 軽く手を振り、炎を飛ばす。

 男は頬を軽く火傷(やけど)した。まあ、手加減したから自然に治るだろう。


()()()()、と言ったはずだ。次はない」

「地下ですっ」

「地下の入り口は?」

「か、かか、掛け時計の、う、裏の仕掛けを外すと出てきます」

「そうか。それなら早くしろ」


 低い声で(うなが)して、時計の前に連れて行く。だが、ごろつきはガタガタ震えて使い物にならない。私は思わず舌打ちした。


「ラファエル様、もう少し怒りを抑えて下さい」

「……わかった。兵の半数は私と一緒に。他の者は捜索を続けろ」

「「はっ」」


 クレマンが男を(なだ)めて仕掛けを外させた。


 現れた地下への階段を、私は急いで駆け下りる。石の通路の片側に扉が並んでいて、その一つが開け放たれているようだ。

 

「早くしろ、ぐずぐずするな」

「水をかけても消えねえ。何なんだ、これは」

「お前試しに飛び込んでみろ」

「はあ? 何で俺が」


 中から声が聞こえてきた。


 間違いない、ここだ! 


 迷わず飛び込んだ私は、三人の男の姿を見た。

 奥には円形状の炎の壁が……良かった、ニカは無事だ!

 

「何だ、お前ら」

「うわっ、待て。やめろ!」


 男達は椅子を倒し必死に逃げ惑うが、兵が近づき行く手を(はば)む。もちろん容赦はしない。


「観念しろ! 他に潜伏していた者も捕えている」


 悪人達は諦めが悪く、ナイフを構えてこちらに向かって来た。私は前に出ようとする兵を手で制し、遠慮なく蹴り飛ばした。少人数だしこの程度なら魔法は要らない。

 見ればクレマンも、別の男を殴り飛ばしている。


「ぐえ」

「うう……」

「痛ぇ」


 うめくくらいなら、抵抗しなければいいのに。


 床に伏せおとなしくなった男達を見て、私は炎の壁を消す。中にはニカとソフィアがいる。二人を確認した私は、安堵(あんど)の息を吐き、兵に指示を与えた。


「きつく縛り上げろ。取り調べには私も立ち会う」


 目の端に、床に座り込むニカが見えた。

 護衛のクレマンが、私よりも先に走り寄り、ニカではなくソフィアを腕に抱え上げている。


「怖かったわ。助けに来てくれてありがとう」


 ソフィアが礼を言い、護衛のクレマンも喜んでいる。


 ――なるほど、そういうことか。


 ニカに(すが)るような目を向けられた。

 それならもう、我慢はできない。


 私は大股で近づき床に膝をつくと、ニカをきつく抱きしめた。


「ニカ、君が無事で良かった」

「ラファエル……」


 自ら窮地に(おちい)る性格でも、やはり私は君がいい。

 バカなことを計画しないよう、このまま腕の中に閉じ込めてしまおうか? 


「ラファエル、もう……」


 肩に手を置き距離を取ろうとするニカを、私は許さず抱きしめた。愛しさ余って彼女の黒髪に唇を落とす。


 ――君が助かって本当に良かった。


「ニカ、私は……」


 私は君が愛しい。


「ソフィアは? どこにいるのかしら」


 言いかけた言葉を、ちょうど(さえぎ)られてしまう。

 

 残念だが、仕方がない。

 確かにかび臭い地下に、愛の言葉は適さないから。


「ソフィアもだけど、フィルもいないみたいね。彼はもう連れて行かれた?」

「あいつのことが気になるの? ニカ」

「まさか、そんなわけないじゃない! でも、さっきまでここにいたのに……」

「そうなのか? 私が来た時には、姿が見えなかった。逃げたとしても、こちらには証拠がある。彼が捕まるのは時間の問題だ」


 ソフィアは、クレマンがとっくに連れ出した。

 フィルベール本人がここにいたとは知らなかったが、ニカが保管していた手紙や地図、助け出された令嬢達の証言があれば、捜索を進められる。


「証拠って、何?」

「詳しくは言えないが、以前から調べていてね。フィルベールには多くの令嬢を(かどわ)かし、売り飛ばしていた疑いがあって……」


 話し中にも関わらず、ニカは何者かに腕を引っ張られて立たされた。彼女を奪われた私は、ムッとしてその人物を見上げた。


「ヴェロニカ、無事で良かった。お前にまで何かあれば、私は……」


 不満は残るが相手が悪かった。

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