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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第三章 意識させたくて
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大事件 2

 ニカの侍女のサラから、手紙が届いた。


 ――いつもの定期報告だろうが、ニカはどんないたずらをソフィアに仕掛けたのかな? 


 そんなことを考えて(ゆる)んでいた頬が、次の一文で強張(こわば)った。


【お嬢様が、フィルベールという名の男性と文通を始めました】




 サラの記述を要約すると、こうだ。


ニカに付き添い街の本屋に出かけた際、ある男に突然声をかけられた。


『失礼ですが。貴女はもしかして、ローゼス家のヴェロニカ様では?』

『あら、奇遇ですこと』


 茶色の髪に青い瞳の可愛らしい顔立ちの男性が、自分はバルビエ伯爵の(おい)で、フィルベールと名乗った。


 男はニカとサラを「クグロフの美味しい店があるから、一緒にどうか」と誘う。

 珍しくニカが応じ、話が弾んだらしい。話の内容はよくわからなかったが、そこで意気投合した二人は手紙を交わしているのだとか。


  ――もしかして、先日の舞踏会でニカに声をかけたあいつか?


 公爵家の者には内緒で、表向きは侍女のサラの名前で連絡を取り合っている、とのこと。サラがしっかり見張っているが、二人が隠れて会っている様子はないらしい。


『よろしいのですか? ヴェロニカ様には、ラファエル様という婚約者がいらっしゃるではありませんか』

『大丈夫よ。もう少しでソフィアが元気になるから、楽しみに待っていて』

 

――本当に文通だけですが、いかが致しましょう? 


サラの手紙は、そんな問いで締めくくられていた。




「ニカはいったい、何を考えている? 婚約中に他の男と関わるつもりなのか?」


 私の方が、そう聞きたいくらいだ。

 けれど、サラが私に協力していることをニカは知らない。


 ソフィアを元気にするために、他の男と手紙のやり取りをするとはどういうことだろう? 

 彼が先日舞踏会で会った人物=私の疑っている通りの男なら、何のためにニカに近づいた?


 ソフィアといえば、最近この天宮をうろちょろしている。

 執務で忙しいため相手をする時間はないが、私に会いにきたわけではなさそうだ。すれ違うと会釈はするものの、さっさとどこかへ行ってしまう。そのたびクレマンに頼むが、特にどこかに迷惑をかけたという報告は上がってきていない。城の中に親しい友人でもいるのだろうか?


ニカが変に気を回さなくても、ソフィアは十分元気だ。


「それにしても、このフィルベールという男……いったい何者?」


 バルビエ伯爵の甥と名乗ったらしいが、今まで伯爵に紹介されたことはない。

 どちらにしろ、ニカに近づく者を私が放っておくはずはない。


 ――念のため、調べさせておこう。


 いくらニカが魅力的でも、彼女に手を出した時が彼の最期だ。


ただ、文通とは厄介だ。直接会ってくれた方が、婚約者としてニカの行動を制限できるのに。

 熱烈な恋文でもない限り手紙のやり取りを禁止すれば、心の狭い男と思われてしまう。ここは知らないフリをして、様子を見るべきなのだろうか?


「ジルドの次はフィルベール、か。その名をニカから聞いたことはないが」


 私の可愛い婚約者は、未だに私を振り回している。さっさと手に入れ、私の印を刻み付けることができたなら。


 ところが、調査を進めていくにつれ、大変なことが判明した。フィルベールという男は、とんでもない人物かもしれない。




 十七歳となった私は、ほとんどの時間を執務に()かれている。久々に時間の空いた私はニカに警告しようと、天宮の一室に呼び出した。今回は事前に、お茶会だと連絡している。


「やあヴェロニカ、待っていたよ。ここへおいで?」


 いつものように隣を叩く。

 たまたま遊びに来た令嬢達が一緒にいるが、私が婚約者のニカに夢中だということは、舞踏会以降広く知られている。だから彼女達がニカを害することはないはずだし、あっても私が許さない。


「ヴェロニカ様、お待ちしておりましたのよ! どうぞ」

「新作の焼き菓子を、お土産に持ってまいりましたの。お口に合えば良いのですけれど」

「本日のドレスも素晴らしいですわ。シンプルな装いが、却って美しさを引き立てていますわね」


 はしゃぐ彼女達に対し、青いドレスを着たニカは完璧な淑女の笑みを浮かべている。


「ありがとう。貴女方もとっても素敵よ」


 ニカは私の秘書官や護衛達とも顔見知りだし、気軽に言葉も交わしている。美しい彼女は、天宮でも絶大な人気を誇っていた。


 それだけに、王子の婚約者という立場や地位を利用しようと、近づいて来る人物も多そうだ。フィルベールもニカの美貌に惹かれただけでなく、彼女を利用しようとしているのでは?

 私はそれとなく、探りを入れてみることにした。

 

「ヴェロニカ、(うれ)い顔で何を考えているのかな? 私に言えないようなこと?」

「いえ、別に」


 それとなく文通のことを匂わせたが、ニカは私に話す気がないらしい。


「そうそう。君の好みに合わせて、甘さを抑えたタルトを作らせてみたんだ。どうだろう?」


 タルトの好みで話が合って、仲良くなったのだろうか? 


 私は小さなタルトを手にし、ニカの口に運ぶ。

 長椅子に隣り合わせで座っているため、ニカの温もりが私に伝わる。


 わざと身体を寄せてみた。

 周りの令嬢達の視線があるため、ニカは大っぴらに私を拒絶できない。もちろん全て計算済みだ。


「ヴェロニカ」


 そう呼んで、膝の上に置かれた彼女の手を握る。

 私が「ニカ」でなく「ヴェロニカ」と言ったから、婚約者の演技をしようと頑張っているようだね。君には逃げ場がない。正直に白状したら、許してあげるけど?


 だがニカは、私の指ごと小さなタルトを口に含んだ。


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