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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第三章 意識させたくて
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大事件 1

 ニカの社交界デビューの翌日、私は彼女へのプレゼントを用意しようと張り切っていた。


 手にしたのは水晶によく似た魔法石で、手のひらの八分の一ほどの大きさだ。


 ――いや、まだ魔法が込められず空の状態だからただの石か。


 だが、ここに魔力を込めて魔法陣を描くと、魔法石が出来上がる。


 これに革紐を(くく)りつけてペンダントのようにすれば、扱いやすいだろう。魔力を封じ込めた石はいざという時のお守り代わりにもなるから、我ながら名案だと思う。

 ニカがどの属性と相性がいいのかわからない。だから私は、全ての属性を凝縮して石に込めることにした。


 人払いをし、部屋に鍵をかける。

 床に描いた魔法陣の中に立った私は、背中の翼を大きく広げた。


 成長するにつれ大きくなった羽は、翼と呼ぶに相応しく、出し入れ自由だ。魔力によるものなので、高度な魔法を扱う時には出していた方が力が()き、集中できる。


「ソフィアと同じ物、というと二つか。実は貴重な品だとニカは気付くだろうか?」


 全ての属性を込めた魔法石。

 二つもあれば、かなりの高値で取引きされるだろう。けれど、せっかくの贈り物を拒絶されたら困るので、そのことを告げるつもりはない。


 目を閉じ、石に集中する。

 彼女を想い、少しずつ魔力を注ぎ込む。

 五つの属性全てだと体力を消耗するし、さらにその上から複雑な魔法陣で封印するため気力も消費する。一日につき一つ作るのが限界だろう。




 数日後、完成した魔法石のネックレスを持って、私はニカのいる公爵家を訪れた。


 残念ながら社交界デビューを済ませた後は、成人として扱われる。そのため我が国では婚約者といえども、女性の部屋には気軽に入れない。私は案内された応接室で、おとなしくニカを待つことにした。


 今日のニカは落ち着いた紫色のドレスを着ている。彼女が着ると派手にならず、品良く見えるから不思議だ。私はソファから立ち上がり、彼女を迎えた。


「やあ、ニカ。早速持ってきたよ」

「ごきげんよう、ラファエル。持ってきたって何のこと?」

「プレゼントだ。高価な物ではダメなんだろう? その分たっぷり愛情を込めておいたから」

「愛情?」


 正確に言えば魔力だけど。

 まあ、愛情もたっぷり入っているので嘘ではない。


 私はソファに腰を下ろし、(ふところ)から薄紫色の布を取り出した。中を開き透明な水晶のようなものをニカに見せる。描かれた複雑な魔法陣を見たニカは、これが魔法石だとすぐに気づいたらしく、息を呑む。


 茶色い革紐と組み合わせ、ペンダントのようにしてみた。ニカの出した条件通りソフィアの分もある。


「お守りだ。君と……ソフィアに」

「わざわざありがとう」

「困った時に使うものだ。叩きつけて壊せばいい」

「壊したら、何が起こるの?」

「それはお楽しみ。そんな機会が訪れないことを祈るよ」


 君と一番相性のいい魔法が飛び出して、身を守る盾となる。今そんなことを言えば、頭のいい君はこの価値がわかり、贈り物を拒んでしまうだろう。


「ラファエル、こんなに高価な物は受け取れないわ」

「高価? いや、タダだけど」

「タダ?」

「ああ。石と革紐は用意したけど、中の魔法は私のものだ。案じなくていい」


 石を顔の前にかざしてじっくり眺めるニカ。何だろう? 叩き割りたそうな顔をしているけれど……。


「でもまあ、大変だったかな? 同じ物を作るには、魔力と時間を要する。ニカ、まさかここで確認したりはしないよね?」


 間を置かずに魔法を全種類使うのは、結構しんどい。いくらニカのためでも、遠慮したいところだ。私の言葉を聞いたニカが、ごまかすように笑う。


「せ、せっかくのプレゼントをいきなり壊すわけないじゃない。ソフィアも喜ぶわ。待ってて、今呼んで来るから」

「いや、いい。会わない方がいいだろう」


 私は顔を引き締めた。

 自分をフッた相手と、すぐに会いたいと思う女性はいないはず。懸命に(なぐさ)めたクレマンからの報告を、私は聞いている。


 ソフィアは私とニカが踊る姿を目にした後、庭に走り出てずっと泣いていたそうだ。


「そんなに激しく仲違(なかたが)いしているなんて……」


 いいや、仲違いはしてないな。

 ソフィアの告白をきっぱり断っただけ。


「それよりニカ。せっかくだから、つけて見せてほしい」

「え、これ?」


 素直なニカは、言われた通りに首からかけた。途端に石に描かれた魔法陣が、ポウッと赤く光る。

 

 ――赤、ということは火と相性が良さそうだ。私はソファから立ち上がると、ニカの後ろに回る。


「革紐は調節できるようにしておいたから」


 言いながら私は、革紐に手を伸ばした。


 調節しやすいようにするためか、ニカが自分の髪を束ねて前で持つ。そのせいで、白いうなじが私の目の前にあった。指先が触れる度、くすぐったいのを我慢している姿がすごく可愛い。


 ――もしかして、誘っているのか?


「これでいい」


 ニカの肩に手を置くと、魔力を込めて首筋にサッと口付ける。効果が現れればいいが……。


「え? 何今の……」


 ニカが私の触れた場所を手で隠しながら、慌てて振り向いた。驚いて丸くした目の、赤い瞳がとても綺麗だ。ニカにはやっぱり赤が似合うな。

 

「何って……白いうなじを見せつけるから、どうぞってことかと思って」

「はあ!?」


 クスクス笑う私を呆れたように見守るニカ。

 私の婚約者は、今日も果てしなく可愛いかった。


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