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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第三章 意識させたくて
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王子、相手が違います!

ヴェロニカ視点です(//∇//)

 思い返せばあっという間。

 十六歳になった私――ヴェロニカは今日、社交界にデビューする。それなのに、これまでのところ悪役としての嫌がらせは失敗続きだ。


「ソフィアったら落とし穴にはまってくれないし、噴水に落とそうとしても避けるから、私の方がびしょ濡れになったじゃない」


 鍵付きの物置に閉じ込めた時には窓からまんまと脱出するし、スープを激辛にしたら取り替えられる。『血のり爆弾:改』の熟したトマト爆弾は、投げる前に発見されて、ソフィアが先に投げつけた。


「うちのソフィア、コントロールはいいものね」


 おかげで私が、真っ赤になる羽目に。


 結局、ソフィアに怪我をさせたことは一度もなく、私の()り傷が増えただけ。私が悪さをすれば激怒する義母も、ソフィアが仕掛けた時には何も言わない。むしろ、面白そうに見て彼女を応援しているような気さえする。


 そんなこんなで上手くいかないけれど、ソフィアはまだ可愛い方。私の嫌がらせを一番邪魔しているのは、何を隠そう偽婚約者のラファエルだ。


 頻繁(ひんぱん)に我が家を訪ねて来たかと思えば、いきなりハグをし行動を封じる。小さな怪我(けが)でも腕を舐めたりしてくるから、いたずらどころではなくなってしまう。


 ――王子、相手が違います! 


 そういうのは是非とも、ヒロインのソフィアにしてあげてほしい。


 五年の間に背が高くなって青年っぽく成長したラファエルは、表紙のイラスト通りになってきた。最近では「僕」と言わずに私と言うため、子供っぽい「エル」という名はもう似合わない。そのため私は、普段でも「ラファエル」と呼ぶことにしている。


「でもラファエルったら、未だに私を『ニカ』と呼ぶのよね。その呼び方だと迫力がなく、悪役令嬢っぽくないんだけど……」


 ラファエルは近頃鍛えてもいるらしく、体格もしっかりしてきた。程よく筋肉のついた細身の体形に端整な容姿と甘い声、物柔らかな仕草に令嬢達はメロメロだ。

 もちろん、うちのソフィアもその一人。ラファエルに会うたび嬉しそうな表情をするし、徐々に愛を深めているように見えるのは、非常にいい兆候だ。


 だけど彼は時々、ヒロインよりも私を優先することがある。偽でも婚約者としての責任感からなのか、ダンスを教えてくれたりドレスを贈ろうとしてくれたり。そうそう、前世のパクリ……物語を出版するために、力を貸してくれたこともあった。

 ちなみにその売上が、彼の愛するソフィアに悪事を働くための資金だ、というのは内緒だ。言えばたちまち没収されてしまうだろう。


 番外編まで残すところあと二年。

 ソフィアの社交界デビューの日に、私は婚約を破棄される。悪事を理由に『水宮の牢獄』へと連行され、看守のジルドと恋に落ちるのだ。

 ソフィアに泣かれてラファエルには軽蔑されるかもしれない。けれどそれさえ乗り越えれば、私はジルドとの永遠の愛を手にいれられる。だから、悪役令嬢でいるのもあと少し。


 風呂に湯を張り、薔薇(ばら)の香油をいつもより多めに落とす。時間をかけて入浴し、出た後も全身に香油を塗り込み、軽くマッサージをする。上がった後は、侍女のサラに着替えと化粧を手伝ってもらう。身に着けるのは、自分で購入した赤いドレス。


 義母は私の社交界デビューのことは知らんぷりで、ソフィアのドレスを新たに仕立てていた。ソフィアへの嫌がらせに対する仕返しをしているのかもしれないけれど、私がそんなことくらいで動じると思ったら大間違い。

 悪役令嬢は、自分の面倒くらい自分で見られる。


「本当に素敵ですわ。これならラファエル様も、うっとりなさいますね」

「そうかしら?」


 褒められるのは嬉しいけれど、ラファエルが私に見惚(みと)れるとは思えない。彼がうっとりするのは、私ではなくソフィア。


 今回ソフィアは、なぜか私にくっついてくる。義母が認めているってことは、ラファエルが招待したのかもしれない。わざわざそんなことをしなくても、二人は二年後にちゃんと結ばれるのに……。




 天宮に到着するなり、ラファエルが出迎えてくれた。

 そんなにソフィアに会いたいのかと思ったら、違うらしい。彼はソフィアが来ることを知らなかったようで、ソフィアと義母の勝手な行動だと判明した。


 ちなみに本日の『ブラノワ』の記述はこうだ。


『十六歳になったヴェロニカは、社交界デビューを済ませた後、ますます悪事に励むように――』


 お願いだから無事に済ませ、励ませてほしい。

 だから私はデビューが成功するよう、ラファエルのいない間にソフィアに注意することにした。


「あのね、ソフィア。何をどう教えられたか知らないけれど、本当は十六歳になるまで、舞踏会に参加してはいけないの。だから、貴女はここでお留守番。勝手に動くと貴女の大好きなエルに迷惑がかかるのよ?」


 何が悲しくて、ヒロインに淑女(レディ)の基礎の基礎を教えなければならないのだろう? 本来ならば奔放(ほんぽう)なのはヴェロニカの方で、ソフィアがその身を案じていたはずなのに。


「だけど、お母様は言ってたわ。うかうかしていると、大切な人をとられてしまうからねって」

「まあ!」


 間違いだと言い切れないところがつらい。

 確かにラファエルは、かなりモテる。あのルックスに加えて頭も良く、さらに王子だ。今日も(すき)あらば彼と踊ろうと狙う令嬢達が、わんさかいるはず。


 ――だからって、ヒロイン自ら直接乗り込んで来なくても……。


 いけないわ、悪役令嬢たるもの主人公に()されている場合ではない。私はソフィアに向かってわざと偉そうに言い放つ。


「彼は()()婚約者よ。貴女ごときを相手にするとでも思って?」


 いい感じだ。

 ラノベにもこの台詞は出てきたし……待てよ、もっと後の方じゃなかったっけ? 


 私の言葉に青ざめるソフィア。

 でも大丈夫。実際に相手にされないのは私で、王子と貴女は秘密の逢瀬(おうせ)を重ねる。そして、互いが特別な存在であると確信するのだ。


 盛り上がるのは、ヴェロニカが社交界にデビューしてから。

 まずは無事にデビューするわよ。




 国王夫妻への謁見を終え、控室の扉を開ける。

 私を目にした瞬間、抱き合うソフィアとラファエルがパッと離れた。ソフィアの頬には涙の跡まであるような……って、まさかもうその場面!?


 それは、「一緒にいられなくてつらい」とソフィアが泣き、王子が(なぐさ)めるシーンだ。悪役令嬢びいきの私でさえ、切なく感じた。義姉の幸せを壊すことはできないと、ヒロインが自らの気持ちを封印する。王子はそこで、ヴェロニカの悪事を暴こうと決意を新たに――。


 待って、犯罪まがいの悪いことが何一つできていないのに、展開だけが早いみたい。一瞬ドキリとしたのは、きっとそのせいよ。


 けれどその後の舞踏会で、ラファエルは私の側を離れようとはしなかった。


 ――ソフィアがいるし、婚約は偽りなのに、なぜそんなに嬉しそうな顔をするの? あと二年しか隣にいないのに、周りに印象づけようとしているのは、どうして?


『ブラノワ』には、黒薔薇の感情までは描かれていなかった。王子である彼を、変に意識してはいけない。見つめられてドキドキするのは……きっと初めての舞踏会で緊張しているからだと思う。優しい彼の微笑みに、力強い腕や甘く囁かれる言葉に、本気になってはいけないのに!


 だって、私の相手は看守。あと二年待てば、私はジルドと両想いになれる。だから、変なことを考えるのはやめよう。

 

 それなのに、ラファエルはソフィアに冷たい。


 王子が舞踏会の間中、ヒロイン放置でいいのかしら? 

 まさか酔って、相手を間違えているのでは?


 問いかけるようにラファエルを見ると、何を勘違いしたのかにっこり微笑まれてしまう。


 ――まあ元々、ソフィアはここに来てはいけなかったし。公の場で王子とヒロインが踊るのは、私が捕まった後のこと。ここで二人がくっつけば、ストーリーが変わって私は番外編に進めなくなってしまう。


 だけどやっぱり何かがおかしい。

 ラノベの王子はヒロインを気にかけていたのに、現実では結構冷静だ。さっきもソフィアの涙を見たくせに、あっさり部屋を後にした。


 ――はっ、まさか二人はケンカしたのでは!?


 それならつじつまが合う。

 ラファエルは、ソフィアへの当てつけとばかりに私に優しくしているのかも。


「私の薔薇」というセリフは、本当はソフィアに言いたかったのね。だから悔し紛れに、私で練習したのだ。「こんな時に言うつもりではなかった」とは、そういう意味か。ソフィアに見せつけて、彼女の愛を取り戻そうとしているのね!


 それなら私は二人の仲を進展させるため、そろそろ悪役として本格的に活動しないとマズい気がする。だって、密かに愛を育んでいるはずのソフィアとラファエルが、ストーリーにはないケンカをしたから。このままでは、二年後の婚約破棄に間に合わなくなってしまう。


 ぬるいいたずらではいけない。

 危機的状況を作り出し、ソフィアをラファエルに助け出させないと!


『ブラノワ』のヴェロニカが成人してすぐ仕掛けたのは、誘拐だったかしら?

 街に買い物に出たソフィアを悪党に(さら)わせて、監禁する。そこへ王子が部下を連れて助けに来て、二人は抱き合う。


 確かそんな筋書きだった。

 ありがちと言えばありがちだけど、ライトノベルなんだから仕方がない。


 番外編に進むため、悪役令嬢として気合を入れて頑張ろう!

ちなみに…

【めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜】

(一迅社、イラスト:漣ミサ先生)は、

紙書籍→売切れ

電子書籍→好評発売中 です♪

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