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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第三章 意識させたくて
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君を振り向かせるために 4

 公爵を見て、ジルドが口を開く。


「いきなり王宮に来いとは、驚いた。品や資格がねえと働けねえのか?」

「いや、それは後から学べばいい。それなら、国を(まも)る仕事はどうだ?」

「国を護る?」

「人を守ることにも(つな)がるな。諜報(ちょうほう)活動、と言えばわかり(やす)いか?」

「諜報……俺に、こそこそしろと?」

「違うな、むしろ堂々と振る舞ってもらいたい。国外で情報を集める仕事が主だが、扱いは王家直属だ」

「王家直属? そんな仕事を、入国したばかりの俺に?」


 ジルドは眉根を寄せている。


「ああ。ある方から推薦されてね。まあ希望者は大勢いるから、無理なら他を当たろう」

「いや……いえ、是非! 俺に……私に任せて下さい!」


 公爵の駆け引きめいた言葉に、ジルドが即答する。

 提示された給金は、傭兵時代を上回るはずだ。命の危険が全くないとは言えないが、重要な職だしある意味尊敬されている。


 こうしてジルドは、ニカの父親であるローゼス公爵の下で働くことが決まった。動向を見守りつつ、ニカとは接触できない国外へ。我ながら、一番いい解決方法だったと思う。


「それにしても、ジルドの特徴がニカの語った通りだったとは……」


 生まれ変わる前の記憶があるというのは、本当のようだ。読んだ本と偶然の一致があるのは奇妙なことだが、現実は物語のようにそう単純ではない。だって、王子の私が好きなのは『悪役令嬢』と言い張るニカだから。




 十六歳となり成人した私は、望めば結婚だってできる年齢になった。


 夏生まれのニカも十六歳となり、秋には社交界にデビューを果たす。デビューの日、年頃となった貴族令嬢達は国王と王妃に謁見(えっけん)し、挨拶をする。その後、天宮の大広間で開催される舞踏会に出席するのだ。


 舞踏会には将来の伴侶を探す意味合いもあるけれど、ニカは私の正式なパートナーなのでこの限りではない。王子の私が最初に踊ることになっているため、婚約者のニカを周囲に印象付けよう。


 そういえば、ソフィアは以前「ニカはダンスが苦手だ」と言っていたが、今はどうかな? 

 心配になった私は、ニカ本人に聞いてみることにした。


「ニカ、社交界デビューまであと約一ヶ月だね。準備はどう?」

「はああ~~」


 思いの外大きなため息に、ニカの不安を知る。


「まさかダンスが気になるの? それなら私と練習しよう」

「でも、私、貴方の足を踏んでしまうかもしれないわ」

「だからこそ、練習しておいた方がいいと思うよ。本番でも君は、私以外とは踊らないんだし」

「え、そうなの? 最初に踊ったら、パートナーを代えるものだとばかり思っていたわ」

「私が許すとでも? 婚約中だし、周りも大目に見てくれる」


 普通はパートナーを交代するものだが、ニカを他の男に引き渡すはずがない。王子の私にその気がない以上、誰も強制できないだろう。


「じゃあ、貴方と一回踊ったら、私はお役御免ってこと?」


 ニカはやはりダンスが苦手なようだ。

 でも残念。一度と言わず何度も踊らないと、周りを牽制(けんせい)できないが? 

 今言うと、辞退しそうな勢いなので、本番まで黙っておくことにする。


「明日から頑張ろうね」


 はっきり答えていないが、嘘はついていない。

 ニカとのダンスの練習が、非常に楽しみだ。


 翌日、約束通り公爵家を訪ねると、ニカの(そば)にいたソフィアが急に我儘(わがまま)を言い始めた。


「どうしてヴェロニカだけ? 私だってエルと踊りたいのにぃ」

「いや、私はニカに教えに来たのであって……」


 困った顔でニカを見る。

 けれど彼女は私の表情に構わず、「お先にどうぞ」とあっさり勧めてきた。私の婚約者は、今日も冷たい。


 仕方がないので、先にソフィアの相手をする。

 一度踊れば満足して引き下るだろうと、そう思って。


 確かにソフィアは上手く、ステップも(なめ)らかで楽しそうに踊る。ただ、私にとってはそれだけだ。ソフィアは違うようで、続けて踊ろうとねだってきた。


「エルー、今度はもっとゆっくりなのがいい」


 姉を(ないがし)ろにするのか?

 私はソフィアを(たしな)めることにした。


「今日はニカの練習に来たんだ。ごめんね」

「ええー! 私の方が上手なのにぃ」

「そうだね。だからもう、練習は要らないんじゃないかな?」

「もう、エルの意地悪~」


 頬を膨らませたソフィアが、怒って部屋を出ていった。


 ――やれやれ、ニカに比べると随分甘やかされているな。


 私はニカを見て、肩を(すく)めた。


 ソフィアが諦めてくれたおかげで、ようやくニカを相手にできる。

 婚約者でありながら、自分から近付こうとはしないニカ。その彼女が、踊っている間は私に身体を預けざるを得ない。


 ――こんな機会を逃すはずがないだろう? 


 私は微笑みながら、彼女に手を差し出した。


 ニカは下手というわけではないが、身体の動きが硬い。そのため動きがぎこちなく、時々焦り間違える。それなら、初心者用のステップを復習するところから始めようか? 私は彼女の二の腕に手を添えて、腰に手を置く。


「ニカ、もっと背筋を伸ばして顔を上げて?」


 角度の調節という名目で、思う存分触れられる。これならもっと早くから、練習しようと誘えば良かったな。


「ニカ、その調子だ。恥ずかしがらずにもう少しくっついて。その方が私も支えやすい」

「こ、これではくっつき過ぎのような気が……」

「気のせいだよ。ほら、肩の力を抜くといい」


 肩に手を置き、軽く()でた。


 ――ガチガチなニカをリラックスさせようとすると、余計に緊張するのはどうしてだ? 


 少しの動きで済むように、ニカを一層引き寄せた。

 思ったよりも小さな手と細い腰、大きな胸が私に当たる。ニカは小さな頃自分で語っていたように、素晴らしいスタイルとなっていた。


 ――ドレスの下はさぞかし……いけない、集中しよう。


 ニカも私に対して思うところがあるらしい。


「あの小さかったエルが……」

「ん? どうした、ニカ」

「いえ、何でもないの」


 わざと問いかける。

 君が言いたいのは、私との身長差のことだろう? 昔の私は背が低く、ニカを少し見上げていた。だが今は、彼女の頭は私の胸の位置にあり、見下ろす形だ。そのため、踊りながらでも彼女の吐息や戸惑う様子が伝わってくる。


 ――ねえ、ニカ。私はもうあの頃の小さなエルじゃない。ラファエルという名の男であり、この国の王子だ。だから君はもっともっと意識して、私を好きになればいい。

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