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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第三章 意識させたくて
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君を振り向かせるために 3

 図書室での一件以来、ニカがなかなか訪れない。

 無理をさせるのも可哀想だと思い、天宮への呼び出しに「なるべく」と付け加えたのが良くなかったのだろうか? 


 このところ視察も少ないため、地方に引っ張り回すこともできない。公爵家を訪れたら訪れたで、やはり迎えに出ては来なかった。それなら直接、部屋に行ってみよう。


 侍女のサラによると、最近ニカは部屋に()もって何かを書いているのだとか。


「またあの絵を?」

「いいえ、絵ではなく文字のようです」

「そうか」


 たぶんその方がいいと思う。


 執事の案内でニカの部屋へ。

 集中しているようなので、わざと声をかけずに近づく。背後から(のぞ)き込むと、熱心に何かを書いているようだ。どんな文章なのだろう?


「今度は何をしているの?」

「うわっ!」


 突然声をかけたため、びっくりしたニカが持っていた羽ペンを落してしまう。紙にインクの染みがついてしまい申し訳ない。

 が、『毒りんごを口にした』とは? 

 何なんだ、それは。


「ラファエル! 急に何? これはその……って、待って! 勝手に読まないで」


 私はニカが書いていた物に手を伸ばし、素早く目を通す。

 呪いの言葉かと思いきや、物語のようだ。今書いているものには、鏡や継母、小人が出てくる。ヒロインが黒髪とは、自分を投影しているのか?


 他にも人魚が出てきたり、葉の上に座れるほどの小さな王女が(つばめ)に助けられたり。これらは全て、空想上の話らしい。内容は面白いのに、なぜか題名だけが変だ。

『黒雪姫』と『魚人姫』、それから『中指姫』とは……ふざけているのか?


「すごいな。ニカに話を作る才能があったとは」


 素直な感想を口にする。

 題はともかく、話の筋はいい。


「どうだった?」

「なかなか面白かった。これなら、王都でも評判になるかもしれないな」

「そう? 貴方もそう思う?」


 嬉しそうに輝く笑みを浮かべるニカ。

 それだけに惜しい。


「ああ。だけど一つだけ、残念だ」

「何か問題でも?」

「タイトルがしっくりこないな。全部変えた方がいい」


 私の言葉にニカはムッとするでもなく、ああやっぱりね、という顔をした。わかっているなら、最初からまともな題を付ければいいのに。


『白雪姫』に『人魚姫』、『親指姫』。

 まともになったこの物語を、ニカは出版したいのだと言う。


 婚約してからも、私は彼女に贈り物ができていない。だから私は、王都にある印刷所と本屋をニカに紹介し、かかる費用を全て持とうと提案した。


 ところがニカは、自分で払うと主張する。


「要らないわ。借りるだけであって、もし売り上げが出ればその中から返せるもの」

「いや。使うのは私の個人資産だし、出版祝いだからお金は要らない」

「いいえ、そこはきっちりしておかないと。ヒロインでもないのに王子から物をもらうなんて……」


 またわけのわからないことを。

 ニカの強硬な反対により、製本代は返された。他の令嬢と異なる彼女は、贅沢品や綺麗な物も欲しがらない。いったいどうすれば、ニカを私に惹きつけられるのだろうか?




 そんな時、最も恐れていた事態が起こる。

 ニカの憧れの相手であるジルドが、我が国に現れたというのだ。


『水宮の牢獄』の看守となるジルド。


 彼が傭兵(ようへい)上がりだというのは、出会った頃のニカが散々語っていた。けれど我が国に内乱はなく、傭兵となるためには国外で働くしかない。そのため私は、彼が現れたら報告するよう国境に通達を出しておいたのだ。


 伝令によると、ジルドことジルド・バルザックは兵士以外の職に就くために、この王都を目指しているらしい。ニカの話を全て信じたわけではないが、会っておいて損はないだろう。


 といっても、王子である私が何の理由もなく彼に会いに行くわけにはいかない。


 ――いっそ天宮に呼びつけてみようか? もしジルドがニカの話し通りの人物なら、彼にぴったりな仕事がある。


 私は早速、ニカの父親である情報大臣のローゼス公爵に話を通すことにした。


「ラファエル様、うちの娘が何か?」

「いや、ニカは相変わらず可愛い……違う、今日は仕事の話だ。会って欲しい人物がいる」

「ほう。殿下が直接(すす)めるとは、どんな方ですか?」

「わかっているのは経歴だけで、容姿や人柄はまだだ。私が聞いた通りの能力なら、貴公の求めていた人物像に最も近い」


 公爵は怪訝(けげん)な顔だ。


「それで私に判断してほしいと?」

「ああ。そのために推薦状を渡してここに呼ぼうと思うのだが、どうだろう?」

「よく知らない者を推薦するとは、殿下にしては珍しいですね?」

「そうだな。嫌なら断ってくれて構わない」

「いいえ、余計に興味が出ました。推薦状はうちの者に持って行かせましょう」


 今の段階でニカとジルドを会わせるわけにはいかない。私は彼女に内緒で、慎重に話を運ぶことにした。


 それから一週間後、ジルドが天宮にやって来た。

 私はローゼス公爵の秘書に(ふん)し、何食わぬ顔で面接に立ち会うことにする。


 ジルドの容姿は、恐ろしいくらいニカの話通りだった。

 背が高く均整の取れた体型の彼は、頬に傷を持ち表情もどこか暗い。ニカは「渋くて陰がある」と嬉しそうに話していたっけ。年齢も十歳年上の二十五歳とぴったり合う。粗削りで野性的だが、整った顔立ちだ。


「ここに来るまで何を?」

「傭兵として、国外にいた」


 公爵の質問に、ジルドは正直に答えている。


「傭兵……では、腕には自信があると?」

「ああ。あんたらには言えないような、数々の死線を潜り抜けて来た。だけど俺はもう、人を殺すのは嫌だ。どっちかってーと、助けたり見守る仕事がしたい」

「そうか。言語も達者で腕っぷしが強い、なるほど」


 公爵が考え込んでいる。


 ジルドの態度に感じ入ったのか?

 まさか、看守を薦めるんじゃないだろうな?

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