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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第三章 意識させたくて
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君を振り向かせるために 1

 ニカに大人の男だと意識させよう――。


 そう考えて、近頃は子供っぽい「僕」でなく「私」と言うように心がけている。魔法だけでなく、身体ももっと鍛えることにした。お陰で剣の腕前も相当上達したと思う。


 婚約者としてニカを公務に引っ張り回すのは相変わらずだが、外出時はなるべく公爵家に立ち寄り、()という存在を主張し続けている。


 ニカは時々迷惑そうな顔をするものの、『王子の婚約者』という縛りがあるせいで、私を邪険に扱えない。「会えて嬉しい」と抱擁(ほうよう)する私に対し、困った顔をしながら背中におずおずと手を回す。そんなところも可愛くて、毎回大げさに抱き締めていた。


 背格好が大人に引けを取らない程成長した私――ラファエルは、十五歳になっていた。




 その日も私は、公爵家を訪問しようと思い立つ。


「エル! ようこそ。会えなくて寂しかったわ」


 嬉しそうに出迎えてくれたのはソフィアで、肝心のニカはまたしてもなかなか現れない。いつものことだと肩を(すく)める私は、つれない婚約者の態度にもどうやら慣れてきたらしい。


 この頃は、ソフィアが私を熱っぽく見つめる。

 こういう表情や必要以上に近寄る態度は、宮殿で目にする女の子達とそっくりだ。


「こんにちは、ソフィア。ニカはどこにいるのかな?」


 ニカの義妹のソフィアを雑に扱うこともできないので、私は()えて気づかないフリ。さりげなく注意を()らしたり、回された腕をやんわり外したり。

 私が好きなのはニカだから、ソフィアを異性として見たことはない。


「さあ、また外にでもいるんじゃない? ()りずに悪さをしようとしているみたい」

「そう。この前は『血のり爆弾:改』だっけ?」

「そんな感じ。()れたトマトを用意していたから、先に投げつけちゃった。まあ、あんなの投げられたとしても、余裕で()けられるけど」

「そうだね。ソフィアは足が速いから」

「ねえエル、そんなことより向こうでお茶にしましょう。美味しいお菓子が手に入ったのよ」


 甘えたように言いながら、ソフィアが私の上着の(そで)を引っ張った。


「ありがとう。でも私は、ニカの様子を見てくるよ」

「もうエルったら、ヴェロニカばっかり! 私のこともソフィーと呼んでいいのに」


 ニカばっかりって……。

 彼女は私の婚約者だから、特別な名前で呼びたいのは当然だろう?


「いや、遠慮しておくよ。ニカは庭にいるんだね?」

「たぶんね。ヴェロニカなんて大嫌い」


 (ふく)れるソフィアをその場に残し、私はニカを探すことにした。もちろん護衛に目配せし、私達の邪魔をしないよう「ソフィアを引き留めて」と念押しすることも忘れない。

 護衛のクレマンが(うなず)いたので、私は安心して庭に向かうことにした。


 出会った頃に比べると、ニカはさらに大人っぽく美しくなっていた。

 今は長い黒髪を一つに結び、動きやすそうな若草色のドレスを着ている。袖からのぞく腕は白く、すらりとした身体や振り向く顔もかなり綺麗だ。

 手にしたスコップで庭いじり(彼女の場合は園芸ではなく落とし穴堀り)でもしていたのだろうか?


「あら、ラファエル。今日はなあに?」

「何って、麗しい婚約者にただ会いに来るだけではダメなのかな?」

「そ、そんなこと!」


 ()めると(いま)だに動揺するニカは、すごく愛らしい。彼女は最近、私のことを「ラファエル」と呼び、頬に朱が差すこともある。だからこそ私は、彼女のために男として振る舞う努力をやめられない。


「ニカ、なんてことだ! 君の白い肌に傷がついている」

「ああ、これ? 枝か何かに(かす)って切れてしまったのかもしれないわ」


 見れば、彼女の腕の内側に赤い筋が付いていた。

 嫁入り前の娘が、肌に傷を残してどうする? 

 

「気をつけてくれ。君一人の身体じゃないんだ」


 結婚すれば私のものにもなるだろう? それとも今から、強引に教えてしまおうか。


「お、大げさだわ。どうせ腕だし、こんなの()めときゃ治るし」

「そうか。それなら私がしよう」

「はあ!?」


 私は彼女の手首を掴むと、傷口に唇を寄せる。

 白い腕にわざとゆっくり舌を()わせた。


「待って、今の違う。冗談よ、冗談!」


 うろたえて、必死に腕を引き抜こうとするニカ。

 こんなに楽しいことを、私が途中でやめるはずがないだろう?


 腕をしっかり掴んだまま、聞こえないフリをする。 


「そんなことをしても治るわけないでしょ! お願いだからもう止めて」

「そうかな? もう治ったようだけど」

「え……あれ?」


 私は詠唱無しで魔法が使えるから、小さな傷くらいすぐに治せる。舐めたのはほんの気まぐれ。可愛すぎるニカがいけない。


 傷の消えた腕を見て、ニカが私に尋ねた。


「ラファエル、貴方の得意な属性って光?」

「どうしてそう思う?」

「だって、癒しとか浄化って光の魔法よね」

「そうだけど、当たってはいないかな」

「へ? だって、これって……」

「たまたまかもしれないね? わからないから、次も試してみようか。君が怪我をしたら、常に私が治してあげる」

「け、結構です」


 慌てて自分の腕を引っ込めるニカ。


 私が得意な魔法は一つではないから、当たり、ではないな。

「今のって光魔法?」と聞かれたら肯定するが、属性を聞かれたため、わざとはぐらかしたのだ。


 案の定、ニカは首を傾げている。

 以前、私が魔法を扱えることは教えてあげたから、癒しは光魔法のはずだと悩んでいるのだろう。怖がられて離れられるのは嫌だから、()()()()()だと当分明かすつもりはない。


「怪我をするたび舐めて治す」というのは魅力的だが、もちろん冗談だ。言った瞬間顔を赤らめたニカが、たまらなく愛しい。

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