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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第二章 婚約から始めよう
24/61

王子として 3

 機会がある度、僕はニカを公務に(ともな)う。今年は港町に新しくできた船を見に行く予定だ。


 13歳となったニカは、海をイメージしたのか白に青いラインの涼し気なドレスを着ている。袖がふくらんでいて、腰の青いリボンが可愛らしい。何より爽やかで、彼女にぴったりだ。


「どうかしら? 派手なドレスは避けたんだけど」

「大丈夫、何を着ていても君が一番綺麗だ」

「もう、エルったらそればっかり。真面目に聞いているのに」


 いつも本気なんだけどな?

 (ふく)れるニカはやっぱり可愛い。

 今日も退屈しなくて済みそうだ。


 港への道すがら、僕は馬車の中で航海に関する知識を披露した。


「王家の船は出航する時、風と光の魔法使いも連れて行くんだ。風を操り嵐の被害を防ぐ必要があるし、船内の病気やけがを光の魔法で(いや)すから」

「気象予報士と船医ってわけね?」


船医はわかるけど、気象予報士とは何だろう?


 ニカは相変わらず、僕のわからない言葉を使う。




 港に馬車が到着した。

 今回は船の見学が目的なので、我々が来ることは公にしていない。港は閑散(かんさん)としていたから、ゆっくり見て回れる。係留(けいりゅう)された船はしっかりした造りで、真っ白な帆が目に(まぶ)しい。


 船長の説明によると、今までの大型船の例に()れず、竜骨部分には水の魔法石が埋め込まれているとのことだった。これは万一浸水した場合、魔法石の力で水を船外に排出するためだ。


 動かない船を見学するだけなので、今日魔法使い達は来ていない。数の少ない彼らは日々忙しく、航海の予定を組むだけでも大変なのだ。彼らは出航に向けて、今頃大急ぎで抱えた仕事や依頼を片付けていることだろう。


 船に近づくと、ニカがうっとりしたような声を出す。


「すごく立派な船ね。大型帆船(はんせん)とは聞いていたけど、想像以上だわ」

「来月頭の航海に備えているらしい。これで、我が国と他国との交易がますます盛んになるね」

「こういうのって、子供の私達で良かったの? 本来なら大臣クラスのお仕事なんじゃあ……」

「さあ? でも、船首の天使像が君に似て綺麗だから、招かれたのかもしれないよ?」

「天使は貴方でしょ。まったくもう、ラファエルったら。目が悪いわけでもないくせに」

 

 僕の可愛い婚約者は、そんなことをぶつぶつ(つぶや)く。


 我が国は、天使が地上に降り立ち建国したと言われている。そのため、旅の安全を祈って無事帰国できるようにと、船首像には天使が多く用いられるのだ。


 ニカの言葉に一瞬ドキリとしてしまったが、彼女は僕の背中に羽があることを知らない。


 案内に従いニカと二人で乗り込んで、船内を見て回る。同行しているのは船長と三人の船乗り、あとは町の名士と僕の護衛達。


「食料もたくさんあって、快適に過ごせそうですね」

「はい。長い航海に備えております」


 このまま旅に出るのも悪くない。ニカと一緒なら、毎日新たな発見に出会えるかもしれないな。


 そんなことを考えていたら、突然ガタンという大きな音がした。


「船が揺れている?」


 僕は慌てて甲板に上がり、現況を確認する。やはり船は、岸からどんどん離れて行く。船乗り達はマストを目指して走るし、船長は急いで(かじ)の所に向かっている。


「ラファエル様、何者かがもやい綱を外したらしいです」

「チッ、姑息(こそく)真似(まね)を」


 護衛のクレマンの報告に、思わず舌打ちしてしまう。ただのいたずらか、僕の命を狙ってのことなのか。


 けれど僕はもう、自分の命は自分で守れるし、これくらいのことでは動じない。


「ニカ、安全な所にいてくれるかな?」


 僕は甲板に上がって来た彼女を、護衛に託すことにした。連れて来なければ良かったかな、と一瞬後悔する。


「いや、無事に港に戻ればいいだけのことだ」


 その力も僕にはある。

 幸いニカは、すぐ騒ぐ女の子達とは違って冷静だった。のん気にこんなことを呟いている。


「こんな場面、『ブラノワ』にはなかったのに……」

 

 ニカ、怖がらないのはいいけれど、今はそれどころではないよね? 


 思わず笑いそうになった。


 ――やっぱり君は最高だ! 


 僕の意図を汲んだクレマンが、ニカを船内に連れて行く。これで遠慮なく、魔法を使うことができる。


 大きな船は帆も広いため、陸からの追い風を受けて(すべ)るように沖に向かっていた。帆を(たた)もうと慌てた声が聞こえるが、人数が少なく思うようにいかないらしい。


「そのまま、しっかり捕まっていて!」


 マストに向かって叫んだ僕は、両手を伸ばす。後から尋ねられたら、祈っていたとごまかせばいい。習得した風の魔法が、こんな所で早くも役に立つとは思わなかった。


僕は岸に向かうよう、船の帆に風を集める。


「さっきまで追い風だったのに、急に向かい風? 奇跡だ!」

「このまま港に戻れるぞ」

「こんなに楽だとは、天使の祝福だ」


 船乗りの声が風に乗って聞こえてくる。国が誇る船だけあって、雇われた彼らの腕も良かった。


 思うように風を操れ、僕も満足だ。もちろん港に近づくにつれ、風を弱めることも忘れない。

 船長だけは僕の魔法に気づいたらしく、無事に停まると走って礼を言いに来た。


「ラファエル様、ありがとうございました。せっかくご見学にいらしたのに、お手を(わずら)わせて済みません」

「何のことですか? 船長の腕前を披露してもらえたので、僕の方こそ礼を言わなければ」


 しきりに頭を下げる船長に、顔を上げるよう促す。こんなところ、ニカに見られでもしたら大変だ。

 けれど、のんびり甲板に出て来たニカは、船長にこんな感想を述べた。


「見学だけでなく遊覧船……ええっと、船を動かして下さってありがとうございました。心から楽しめましたわ」


 船長と僕は思わず顔を見合わせた。


 どうやらニカは見学だけのところを、船長が好意で船を動かしたのだと思ったらしい。どうりで全く焦っていなかったはずだ。


 でもニカ、よく考えてごらん。船長は僕らと一緒に船内にいたよね?


 帰りの馬車でそのことを教えてあげた。

 最近、車内が種明(たねあ)かしの場になっていると思うのは、僕の気のせいだろうか?


「あーそうだったの。私はてっきり……。でもまあ、食料はたくさんあるし、寝床もいっぱいあったわよ? いざとなれば船内で生活すればいいんだし」

「海に出て、君は怖くないの?」

「どうして? 悪役令嬢たるもの、そんなことくらいで怖がるはずないじゃない」


 よくわからないが『悪役令嬢って便利だな』と思ったことは、本人には内緒だ。



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