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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第二章 婚約から始めよう
22/61

王子として 1

 12歳ともなると、魔法の扱いにも慣れてくる。今日も僕は、天宮にある魔法塔で師匠の指導を受けていた。


「机の上に小さな円がございます。その上に紙を一枚置いてください」

「こう?」

「そうです。では、その紙だけを火の魔法で燃やしてください。決して机は()がさずに」

 

 簡単なように思えた。

 僕が手をかざした瞬間、紙が発火し勢いよく燃える。けれど、木製の机が焦げた上に、円の外まで黒くなり、燃え尽きるまで長くかかった。


「ほう、もう覚えましたか。しかも詠唱なしとは、ラファエル様はさすがですね」

「まだまだです。範囲を限定したのに、枠から出ました。師より時間もかかっています」


 悔しそうな僕を見て、師匠が口を開く。


「自分に厳しいのも考えものですよ? 『瞬間的に灰にする魔法』と言えば聞こえはいいが、危険が伴うので慎重に扱わないと」

「わかっています。だからこそ鍛錬(たんれん)が必要で、貴方にお願いしたんだ」

「先ほどは風の魔法で、今度は火ですか。異なる属性だと別の集中力が必要ですから、休まれた方が良ろしいのでは?」


 師匠の言葉に、首を横に張る。


「いえ、今日は時間を割けません。この後視察が入っているので」

「婚約者と一緒に行くのですね? なるほど。だから張り切って……」

「もう一度。次は成功させますので、見ていて下さい」


 師匠を(さえぎ)るように、意気込んで答えた。


 魔法が使えたとしても、制御できなければ意味がない。高度な魔法を自由に扱えて初めて、一人前と言える。僕には多くの魔力があるから、有効に使うべきだ。


「待って下さい、ラファエル様。そんなに必死になって、貴方は何を目指しているのですか?」

「何って……」


 他の属性に比べて火の魔法使いは若く、遠慮なく物を言う。師匠として、そこが気に入ってもいる。


 王子である僕は、別に魔法使いになるつもりはない。自分の身を守り、国の役に立てればいいと考えている。


 あとは、早く強くなって大事な人を守りたい。


「その年齢で多くの魔法を扱えること自体、脅威(きょうい)です。さらに増大させ、精度を高めることも無論可能でしょう。けれど、貴方は王子です。圧倒的な魔力で民を従わせることを、お望みなのですか?」


 問われて僕は考える。


 背中にある羽のため、僕の魔力は他人より多い。この国は、天使が地上に降りて建国したと言われているが、その初代の王と同じ特徴を僕は備えていた。すなわち、背中の羽と全属性の魔法だ。


 せっかく授かったものを、有効活用しなければもったいない。ニカと婚約した後も、そう考えて魔法の修行を続けてきた。

 けれど――。


 羽のことは魔法使い達には内緒で、ごく一部の人間にしか教えていない。だが、羽がある上強大な魔法も扱えると知れば、人は僕をどう見るのだろうか? 


 ――姿だけなら『天使』だが、それだと明らかに人とは異なる存在だ。


 畏怖(いふ)を感じる相手に、人は心を開けない。また、魔力が大きく(かな)う相手でないと悟れば、ただ従うしかなくなる。

 強力な魔法を見せつければ、人を思い通りに動かすことは可能だけれど、それでは民の支持を集めたことにはならない。


 圧倒的な魔力を扱う弊害。

 善政をしようと心を砕いても、圧政だと受け取られてしまいかねない。魔法の精度や威力が高まるほど、自分で自分の首を絞めることになるのでは? 


 ――師匠が言いたいのは、つまりそういうことだ。


「いいえ。僕は(まつりごと)のために魔法を使おうとは、考えておりません。でも、慌てて身につける必要がないこともわかりました。これからはほどほどに。引き続きご指導よろしくお願い致します」


 僕の言葉に、火の魔法使いは嬉しそうに笑う。眼鏡に手をかけ、少し照れてもいるらしい。


「こちらこそ。あといくつ教えられるかはわかりませんが、(さと)い殿下ならすぐに覚えてしまうでしょう。ですがこの世は、圧倒的な力を快く思う者ばかりではないことを、肝にお命じ下さい」

「そうですね。師のおっしゃる通りかと」

「ただでさえ、魔法を使える者は限られています。能力でなく魔力で国を治めたと、勘ぐられることがありませんように」

「ご心配いただき、恐縮です。人前で気軽に扱わないように、気をつけますので」

「その方がいいかもしれませんね。せっかくの力ですから」


 師匠も苦労したからこそ、適切な忠告をしてくれるのだ。僕は魔法を軽々しく披露するのはやめようと、心に決めた。




 修行を終えて天宮を出た僕は、婚約者を迎えに行く。今日はこれからニカと一緒に、氾濫(はんらん)後新たに()けられた橋を見に行くのだ。


 ニカは公爵家の玄関ホールで僕を待っていた。

 完成したばかりの橋を歩いて渡るからなのか、薄緑色の動きやすそうな服を着ている。


 袖と腰、(もも)に白いリボンが付いていて、(すそ)は短め。そのため長めの白いブーツを()いた姿が可愛いので、思わず何度も見てしまう。


 僕一人でもこなせる公務だが、婚約者という立場を利用して彼女を連れ回している。


 ――ニカといると楽しいし、時々鋭い助言をくれるから。


「ごめん、待たせたね」

「エル、お仕事はもういいの?」

「ああ。君も準備ができているようだし、すぐに出ようか」

「ええ」


 魔法の修行は彼女に内緒で、単に仕事と言っている。師が教えてくれたように、全属性詠唱なしで使えるとわかれば、ニカも僕を恐れて離れて行ってしまうだろう。


 ――それだけは避けねばならない。


 僕はただ、にっこり笑った。


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