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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第二章 婚約から始めよう
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僕の可愛い婚約者 3


 ニカと視線がかち合う。

 君は今、何を考えているの?

 

「だけど、周りには本物らしく見えるように振る舞わないとね? 人前ではラファエルと呼んでもらうし、婚約者としての(つと)めもきちんと果たしてもらう」


 僕はこの状況を、存分に利用しようと決めた。


「わかった。精一杯頑張るわ」


 素直で可愛い君は、いったいどこまで理解しているのだろう? 


 婚約中は僕に(つな)ぎとめられたままで、他に行くことは許されない。呼び出されたら天宮に来なくてはいけないし、いついかなる時も王子である僕の正式なパートナーとして紹介されるのだ。


「それならニカ、約束だ」


 彼女の手の甲に、願いを込めてキスを落とした。

 ――いつか君が、僕を好きになりますように。


 まだ安心できないので、僕は早速彼女と交渉する。


「ソフィアへの意地悪を少なくしてほしい。あまり頻繁(ひんぱん)だと、僕達の婚約話が流れてしまう」


 無理して悪役になろうとする君を、見たくはないから。だったら僕のせいにして、意地悪を減らせばいい。それに婚約前に悪評が立つと、話が立ち消えになってしまう。


 ただでさえ彼女の父親は、ごく最近まで反対していた。こんな娘では嫁にやれないと、急に言い出すかもしれない。


 ニカは今、暗い表情だ。


「どうしたの、ニカ。もしかして僕と婚約したくない?」


 僕はしたいよ。君は違うの? 

 もしかして、まだ迷っている?


「そう言われたら、困るわね。善処する」

「ありがとう」


 上からの物言いが、相変わらず彼女らしい。でも、後悔はさせないから。僕と婚約して良かったと、そのうち言わせてみせる。


「それなら、私からもいいかしら」

「もちろん、何でも言って?」

「女の子の恰好(かっこう)はもうやめて。いくらお似合いでも、おかしいわ」

「ニカったら、僕の話を聞いてなかったんだね。僕はさっき、女の子の恰好をさせられるのは十歳になるまで、と言った。これからは、普段通りの姿で出歩けるんだ」

「ずっと男の子の恰好ってこと?」

「恰好も何も、僕は男だよ」


 似合うと言われて傷ついた。

 僕は男だと発言した時の、彼女の複雑そうな表情にも。


 イライラしながら、前髪をかき上げる。初めて会った姿が女の子だったから、そちらの方が強く印象に残っているのだろう。

 

 僕を異性だとニカに意識させるのは、結構骨が折れそうだ。それならこれからは、男っぽく少し偉そうに振る舞ってみようか?

 

「そういえば、そんなことを言っていたわね。自分の身を守れるまでとか何とか……あ、魔法!」


 言った途端、ニカは好奇心に満ちた顔を僕に向ける。


「ねえ、エルはどの属性の魔法が得意なの?」

「何だと思う?」

「火か風、かしら。イメージ的に」

「イメージ的? そう、そのことは本に書かれていなかったんだ」

「書かれてないというより、破れていたの。ちょうど読めなくって……」

「いつかわかるよ」

「あれ、教えてくれないの? さっき何でも言ってって、そう聞こえたけど」


 得意な魔法の属性を聞かれた僕は、答えをはぐらかすことにする。


「言ってとは言ったけど、答えるとは言っていない。ニカの好奇心を満たすには、隣で見ているしかないようだね?」


 魔法は普通一種類で、高位の魔法使いでも二種類が限度。でも僕は、五種類全てを扱える。突き止める頃には、君は僕の婚約者として周囲に馴染んでいることだろう。


 形だけの婚約を本物にするため、まずは外堀を埋めていこうか。牢獄へ入れないと知った時の、君の慌てる姿が目に浮かぶ。この僕が、看守に負けるわけがない。想像しただけでおかしくて、思わず微笑む。


「これからもよろしくね、ニカ」


 たぶん一生……僕は心の中で、そう付け加えた。




 婚約式を無事に終え、ニカが正式に僕の婚約者となった。


「本物らしく見えるように」と言い含めておいたせいか、彼女はいつでも一生懸命だ。僕が呼び出せばすぐに王宮に飛んで来て、相手を務めてくれる。また、僕の両親にも気に入られているため、母主催の茶会にも何度か招かれていたようだった。


 ずっと気が抜けないのも可哀想なので、僕らはある取り決めをした。すなわち愛称ではなく、『ヴェロニカ』や『ラファエル』と名前を呼んだ時にだけ、婚約者っぽく振る舞えばいいというもの。切り替えができるし、実に便利だ。


 今日も僕は、天宮にニカを呼び出している。婚約したと知りながら、僕につきまとう女の子達を追い払おうと思って。彼女達は要職に就く侯爵や伯爵の娘だから、邪険に扱うこともできずに困っていたのだ。


 家名の売り込みや、おしゃれの話はもううんざり。甘ったるい褒め言葉を並べられるのにも飽き飽きしている。くだらない話を我慢して聞くくらいなら、ニカの物語の方がよっぽど楽しい。


 だから僕は、ラベンダー色のドレスを着て現れたニカを、満面の笑みで迎えた。彼女を紹介するために、隣の席を軽く叩いて(うなが)す。


「ああ、ヴェロニカ。待っていたよ。ほら、おいで?」


 ニカを見て、女の子達が顔をしかめる。それだけならまだいいが、自分達より家格が上の僕の婚約者をバカにして、クスクス笑い出したのだ。

 

「王子様、この方が?」

「婚約されたとお聞きしましたが、まさかこんな方だとは」

「お召し物が随分……質素ですね」


 しまった、と後悔する。

 他にも人がいると、伝えておくのを忘れていたからだ。急遽(きゅうきょ)開いた茶会とはいえ、その気になればニカは誰よりも豪華に装える。公爵は資産家で、その地位は伊達ではないから。


 だけど、少し興味もある。

 ニカはこの場をどう切り抜けるのだろうか?



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