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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第二章 婚約から始めよう
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僕の可愛い婚約者 1

 とうとうこの日がやって来た。

 今日は婚約前の初顔合わせで、僕は公爵家に王子として正式に挨拶に来ている。


 さすがに「まともな恰好をニカに一番に見せたい」と悠長なことは言っていられず、金糸の入った紺色の上着にクラバットを締め、白いトラウザーズに黒いブーツという本来の姿だ。


 公爵家の皆は、僕が部屋に入るなり深く頭を下げている。その中にニカの姿を認めた僕は、嬉しくなった。


「本日は当家にご足労いただき、喜びに()えません」

「よい、楽にしてくれ」


 公爵の挨拶に片手を上げて答えると、ニカがすぐさま顔を上げた。


 控えめな紺色のドレスが、彼女の美しさを際立たせている。十歳になった彼女の白い肌と小さな赤い唇が、特に目を引く。視線が合った瞬間、僕は彼女に微笑みかける。息を呑むニカの表情は、以前より上品で大人びて見えた。


「どうして? エル、なぜ貴女がここに?」


 今日来ることは伝えておいたはずだから、どうしてかと聞かれても困る。茶色のかつらを外して白いドレスを着ていないのに、王子がエルだとすぐに見破ってくれたことが嬉しい。


 まあ、ソフィアを通じて渡した手紙に、エルは男性だ、と書いたからヒントになったのか。


「良かった、ニカ。覚えていてくれたんだ。だって、こうでもしないと会ってくれないでしょう?」


 ニカが王子としての僕にしか用がないのなら、王子らしく振る舞おうと決めていた。けれど彼女は、僕をエルと呼ぶ。


「ちょっと! 貴女のいたずらに付き合うほど、私は暇じゃないの。今日は大事なお客様をお迎えするはずで……」

「そうだよ。今日会うって約束していたよね?」


 この期に及んで何を言い出すのだろう。

 エルがラファエルでこの国の王子だと、君は気づいていないのか?


「誰と? 私が約束していたのは、貴女じゃなくって王子なの!」


 だから僕だろう?

 図らずも僕は自分自身に嫉妬することに……やはりニカは王子という肩書きにしか、興味がないのか?


「そこまでだ。ヴェロニカ、言葉を慎みなさい。ラファエル殿下、娘が大変失礼致しました」

「お父様!」


 目を丸くするニカは、本当にわかっていなかったようだ。


『先日は済まない。魔力があって狙われるためにわざと女装しているが、僕は男でエルと言うのは小さな頃の愛称だ。そのことも含めて、会って直接話がしたい』


 手紙にはそんなふうに書いておいた。

 でもニカは今、父親に責められている。僕は彼女を(かば)おうと、すぐに口を開く。

 

「ローゼス公爵……いえ、義父上(ちちうえ)。今後末永く付き合うのです。堅苦しい態度はやめて下さい」

「恐れながら申し上げます。まだ婚約が成立したわけではありません」

「おかしいですね。快く了承して下さったはずでは? ねえ、ニカ」

「な……なな、な……」


 口を開けたり閉めたりして驚くニカ。

 そんな表情も久々で、やっぱり可愛い。


「もしかして、エルが王子様?」


 ソフィアが疑問を口にする。

 彼女の方が、ニカより察しが良いようだ。


「そうだよ。今までごめんね」

「ふえ? ま、まま、まさか!」

「ヴェロニカったら、変な声を出してどうしたの?」


 公爵夫人が優しく問う。

 まあ確かに、婚約する相手を迎える態度ではないよね? だけど、ようやく理解したニカを見ているのも楽しいから、これ以上口を挟まないでくれるとありがたいな。


「お、お父様! わ、私、エルに庭を案内してきますわ」

「いきなり何なの? まずはお茶をお勧めするのが礼儀でしょう?」

「私も行く~」


 ニカに続き公爵夫人、ソフィアの順に言葉を発した。公爵がその場を取りなす。


「控えなさい、ソフィア。今日はラファエル様とヴェロニカの顔合わせだ。よろしいですか、殿下」

「もちろん喜んで」


 早くニカと話しがしたい。

 僕は素早く、彼女に手を差し出した。


「行こうか、ニカ」


 重ねられた彼女の指は、白くて細い。

 仲の良かった一年前に戻ったようで、僕はその手を握りニカに笑いかけた。


 つられて微笑みかけた彼女だが、これではいけないと思ったのか、急に真顔に戻る。その変わりようがおかしくて、僕は噴き出しそうになるのを一生懸命(こら)えた。


「それでは少しだけ、表に出てまいりますわね」


 澄ました顔のニカは父親に断ると、僕と一緒に庭に出た。




 初秋の庭は爽やかに晴れて、気持ちがいい。キンモクセイやコスモスが咲き始め、良い香りを運んで来ている。木の葉も色づき出しているし、噴水には光が当たって輝いていた。


 ニカとこうして歩けるから、色んなことを頑張った甲斐(かい)があった。魔力が安定して成長期に入ったせいか、今では背もニカを追い越している。気を効かせた護衛が離れて歩いてくれたため、この庭に二人だけでいるような、そんな錯覚まで覚えてしまう。


 ニカが黙っているのをいいことに、僕はわざとゆっくり歩く。繋がれた手の温かさと柔らかさは、彼女がここにいるという確かな感触。ただそれだけで心が(はず)む。


 聞きたいことがたくさんあるのか、ニカがチラチラ僕に目を向けてくる。気づいているけど気づかないフリ。だって彼女が僕のことを考えてやきもきしているなんて、可愛いすぎるだろう?


 (しび)れを切らしたニカが、突然くるりと向き直る。


「ねえエル。やっぱり貴方が王子なのね。女装して、 今まで私達を(だま)していたってこと?」

「そう、僕がラファエルだ。騙したわけではないけれど……おかしいな、手紙に書いたはずなのに」

「手紙? いったい何のこと?」


 ニカに届けてくれるよう、ソフィアに頼んでおいたのに。ソフィアは「渡した」と言っていたが、この様子だとニカは受け取ってないらしい。それとも読んでいないのか。

「騙した」と言われて、ちょっと心が折れそうだ。


 近くにベンチがあったので、ニカを座らせ自分も腰かける。どうせ読んでいないのなら、僕の事情を詳しく話そう。


「どこから語ればいいのかな。まずは、君と初めて会った日よりずっと前のことから……」



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