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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第一章 悪役令嬢ってなんだろう?
14/61

君に会うために 2

 天宮に帰るなり、僕は父の国王に会いに行く。


「父上、はっきり心を決めました」

「そうか。進めてほしいのだな」

「はい。彼女以外、考えられません。父上のお力を貸してください」


 今までそれとなくお願いしていたが、ニカの父親である公爵が良い顔をしなかったため、婚約話が進展しなかったのだ。


「王子の婚約者に、是非ヴェロニカ嬢を」


 そう言って掛け合う秘書官が、いつも断られていると聞く。

 ローゼス公爵は大恋愛の末に前夫人――ヴェロニカの実母と結婚したから、母親に似てどんどん美しくなる娘を早々に手放したくはないようだ。


『公爵は、亡くなった夫人に未だに心を残している』


 社交界でもそう囁かれているが、その噂を今の公爵夫人――ニカの継母が気にしていなければいいと思う。




 それからの僕は、婚約の了承を得るために毎日自分を(みが)くことにした。十歳以降に習得する魔法を今から扱うことができれば、さすがに公爵も認めてくれるはずだ。


 王家の直系男子は背中に羽の(あと)があるため、みな魔力があって大なり小なり魔法を使える。王家でなくとも魔法使いはいるが、極端に数が少ない。成長すると魔力がある者は、自分の得意な属性の魔法が使えるようになるのだ。


 攻撃などもできるが、魔法使いの主な仕事は魔法石に得意な属性の魔法陣を描き、自分の魔力を(そそ)ぎ込んで増幅させること。水量の調節や光源、()の温度管理など魔法石はかなり役に立つ。ニカの大好きな『水宮の牢獄』も、水の属性を持つ魔法石によって管理されている。


 僕には羽の痕……というより羽そのものが生えている。王家の先祖が天使というのも、あながち間違いではなさそうだ。


 だが年齢のせいなのか、日によって調子にムラがある。増えた魔力を安定できるよう、身体も鍛えるつもりだ。


「よろしく頼む」

「殿下、おまかせください」


 天宮勤めの高位の魔法使い達から、直接指導を受けることになった。魔法が強力であればあるほど危険も伴うし、複雑な魔法陣を描かなければならない。

 幸い僕は見た物を一度で覚えられるから、すぐに『火・水・風・土・光』の五種類全ての魔法陣を間違えずに作成できるようになった。あとは魔力の調節と詠唱で、これには時間がかかるだろう。


 ――誰にも文句を言わせないくらい強くなる!


 達成できた暁には、父を動かし公爵を説得して、ローゼス公爵家に正式に婚約を申し入れる予定だ。 

「他の子では話が合わず、満足できない。王家に取り入ろうと下手に出たり、くっつかれるのもうんざりだ」


 対等に語り、笑い、ふざけ合う。そんな居心地のいい関係を、今後もニカと続けていきたい。


「十八歳で婚約破棄? そんなこと考えたくもないし、するわけがない」


 ニカ、僕を遠ざけたのは失敗だったよ? 

 会えないと余計に会いたくなるものだ。

 婚約が前提でないと君が僕の前に出てこないのなら、僕はその日のために準備をする。もうすぐだから、待っていて。

 



 だいぶ間が空いてしまったけれど、僕は天宮のパティシエ自慢のチョコレートがたっぷりかかったケーキを持って、約束通り公爵家を訪ねた。


「いらっしゃい、エル」


 ソフィアが満面の笑みで出迎えてくれた。ただ、僕よりケーキに会いたかったみたい。包みを開けて中から好物が出てきた時の彼女は、今までで一番いい笑顔を見せた。


「ニカは? また部屋に(こも)っているの?」

「そうよ。全然出て来ないし、出て来てもお面みたいな怖い顔をしているの」


 手を止めずにケーキを食べるソフィアが、そう答えた。


「お面?」

「ええっと、顔が動かなくって。む……むひゃ、むひょ」

「もしかして、無表情のこと?」

「そう、それよそれ! 泣かないし笑わないし、あんまり話さなくなったし。どんどん冷たくなっていくの」

「それはいけないね。自分の(から)に閉じこもっているのかな?」

「殻? いいえ、部屋で卵は食べていないと思うわ」


 ソフィアが変なことを言う。

 ニカ、君と顔を見合わせて噴き出すことができたなら。


「ソフィアは元気そうだね」

「ええ。エルは? この頃うちに来なくなったのは、ヴェロニカのせい? 一緒に遊べないから嫌になったんでしょう」


 僕は首を横に振る。

 むしろ逆で、ニカと会うために必死なのだと言えば、ソフィアは驚くだろうか?


「違うよ。内緒だけど、もうすぐ婚約するから忙しいんだ」

「そうなの? まだ子供なのに、可哀想ね」

「可哀想? いいや、どちらかと言えば待ち遠しいかな。好きな人と婚約するため、頑張っているんだよ」

「ふうん。だったらエルの好きな人って誰? 私の知っている人?」


 君のお義姉さんだと言ったら、ソフィアは驚き目を丸くするだろう。僕はまだ女の子の恰好をしているから、頭がおかしいと思われてしまうかもしれない。


 ソフィアに託したニカへの手紙では、男性だと打ち明けた。まだ十歳に満たない僕は、公にはできずに、外出時は相変わらずこの姿。

 天宮内ではまともな恰好をしているけれど、今までにニカが宮殿を訪れたことはない。だからまず、王子の姿をニカに見せ、感想を聞きたかった。


 ――女装していない僕を見たら、彼女はなんて言うのかな?


「……ル、ねえ、エルったら。で、誰なの?」

「うん? 秘密。すぐにわかるよ」

「もう、エルのけちぃ」

「それよりソフィア、手紙はニカに渡してくれた?」

「手紙って? ……あ! ええ、もちろんよ」


 一瞬ソフィアの目が泳いだような気がしたが……気のせいか。

 

「ありがとう。それと、持って来たケーキは一日分じゃないから、全部はさすがに多いよ? 残りはまた明日味わえばいい」

「え〜」


 食いしん坊のソフィアから満足のいく答えを聞いた僕は、安心して公爵家を後にした。



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