表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第一章 悪役令嬢ってなんだろう?
13/61

君に会うために 1

 九歳の誕生日以降、ニカが僕を避けるようになった。時々公爵家に立ち寄っては声をかけたけれど、彼女が僕に応えることはない。


 始めは、王子であることがバレて怒っているのかと思った。けれど公爵家で僕はまだ、女の子の『エル』で通っている。それなら考えられる可能性は、誕生日当日の僕の態度だ。


『可哀想に。またニカが仕掛けたの?』

『そうだね。ニカはひどい』


「ソフィアに賛同して、ひどいと言ったからかな。それとも嫉妬してくれてると喜んだこと? ただそれだけで?」


 女心はさっぱりわからない。

 当日僕の護衛をしていた、比較的歳の近いクレマンに聞いてみることにする。


「ニカをからかうような発言をしたからかな?」

「殿下の態度は、いつも通りと感じましたが」


 王子である僕は、他人から「お近づきになりたい」と言われ、すり寄られることには慣れていた。自分から近づこうと思ったのは、彼女が初めてだ。それなのに、一番仲良くしたいニカに逃げられている。


「時間が解決してくれたかな? そろそろ寄ってみよう」


 ニカの誕生日から三ヶ月ほど経ったある日。僕は再び公爵家を訪れることにした。もちろん今日も女装をしている。


「こんにちは、ソフィア」

「あ、エル!」


 七歳の彼女は、僕に会うなり顔を輝かせてくれる。この半分でも、ニカが僕に会って喜んでくれたなら――いや、今となってはもう、顔を見られるだけでいい。


「ソフィア、元気そうだね。ニカは……元気?」

「たぶんね。ずっと部屋にいるし、出てきても意地悪だから、あたしは嫌い」

「どうして? 君のお姉さんなのに」

「だって、全然お姉さんらしくないもの。エルの方が優しくて、あたしのお姉さんみたい。ヴェロニカじゃなく、エルがお姉さんだったら良かったのに」


 今までのいたずらのせいで、ニカはソフィアにかなり嫌われているようだ。自業自得と言えないこともないが、本当のニカはソフィアを可愛く大切に思っている。できれば仲良くなってほしい。


「ソフィアがまだ気づかないだけで、ニカは優しいよ。それにこの前も言ったと思うけど、お姉さんじゃなくて、お義兄さんになりたいな」

「どういう意味?」

「内緒、今はまだね。それより、ニカに手紙を書いて来たんだ。顔を合わせた時に渡してくれる?」


 会えないことを想定し、手紙を持参した。先日の謝罪と、理由があって女装していると明かしたのだ。


「ええー、ヴェロニカだけー。私の分は?」

「ソフィアとは、こうして顔を合わせて話しているでしょう? ニカとは会えないから」

「そんなの、呼んでも出てこない人の方が悪いんだもん」

「そう言わずにお願い。ソフィアなら、上手にできると思ったんだけどな」

「できる、できるわ! だって、手紙を渡すだけでいいんでしょう? そんなの簡単じゃない」

「ありがとう。いい子だね」


 僕は銀色に輝くソフィアの頭を撫でる。(つや)やかな黒髪には最近お目にかかっていないな、と思いながら。


「えへへー、()められちゃった。それで? エル、今日は何して遊ぶ?」

「ごめんね。用事の途中で顔を見に寄っただけだから、すぐに戻らないといけない」

「また~、エルはそればっかり。前はよく一緒に遊んでくれたのに」


 それはニカがいたからだよ。

 彼女と一緒にいる時が、僕は一番楽しかったから。でも、七歳のソフィアにそんなことを言えば、傷つけてしまう。

 

「本当にごめん。また今度、ニカが一緒にいる時にね」

「そんなぁ」


 ニカのことを考えると、僕はどうしてもため息が出てしまう。追い返されるのを承知で、部屋の前まで行ってみようか? 


……余計嫌われるかな? やっぱりやめておこう。


「今度来る時は、もう少し時間を作るから。それならいい?」

「もう、エルったらわがままね! でもいいわ、許してあげる」

「ありがとう、ソフィア」


 結局今日も、ニカとは会えなかった。不在がちの公爵を引っ張り出すことはできず、かといってニカの継母に取次ぎを頼むのも気が引ける。

 毎回ニカに会えるかと期待するが、顔も見られず気落ちする日々。そんな僕に同情したのか、ソフィアが馬車までついてきた。


「エル、約束よ。今度は絶対に遊んでね? チョコレートケーキを持ってくるなら、お茶にしてあげてもいいわ」

「わかった。ソフィアは良い子だね」


 思わず苦笑した。

 ニカの語る物語の王子は、ソフィアのこんな優しさに惹かれたのかな、とふと考えて。

 

 現実の僕は、どうしようもなくニカに惹かれている。意地悪をやめさせるためと言いながら、少しでも彼女の側にいたくてここに足を運んでいた。


 そうか、物語の中と言えば確か――。


『その子が自分の相手だと思い込み、喜ぶ王子。ところが、二年後に婚約者として紹介されたのは、義姉のヴェロニカだった』


 ニカが本の世界を信じているなら、僕が正式な婚約者になりさえすれば、会ってくれるということだ。十歳までは残り一年もない。ソフィアと会話したお陰で見えてきた希望に、賭けることにした。


「じゃあね、ソフィア。必ずまた来るよ」


 馬車に乗り込んだ僕は、計画を立てる。

 天宮に戻ってすぐ、具体的に話を進めるよう父に願い出なければ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ