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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第一章 悪役令嬢ってなんだろう?
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エルとの別れ

今回はヴェロニカ視点です。

「バッカみたい」


 綺麗で可愛い女の子、私の弟子のエル――。

 彼女を追い払った後、私、ヴェロニカ・ローゼスは部屋で一人反省していた。


「みんながソフィアに夢中になると、わかっていたでしょう?」


 そう自分に言い聞かせる。

 誰に冷たくされても泣いてはいけない。

 だって私は、悪役令嬢だから。

 本編でヒロインと王子をくっつけるために存在している。


 義妹のソフィアに初めて会った時、全てを思い出してしまった。

 前世では父に()てられ、忙しい母にもほとんど(かえり)みられなかった私。クラスでも貧しく浮いた存在で、気づけばいつも一人ぼっち。


 そのため私は、今度こそより良く生きようと決意した。立派に悪役令嬢を務めれば、ヴェロニカは番外編で看守に愛される。


「不確定な未来など要らない。人生は決められていた方が安心できる」


 だって私はラノベのおかげで、これからの自分が取るべき行動を()()()()()から。


この世界は前世で読んだラノベと同じで、公爵令嬢という肩書きも、育った環境も寸分違わない。登場人物も全て……。


「いえ、モブの『エル』はラノベにいなかったわね」


 それ以外は一緒。調べたところ、番外編に出てくる『水宮の牢獄』だってちゃんと存在していた。

だから私は、本編をきちんと終わらせるだけでいい。悪役になりきれば、いずれ必ず年上で渋いイケメンの看守に愛される。


「だけど、王子のラファエルは、いつ出てくるの?」


 王子の出現を(うなが)すため、本編通りソフィアに意地悪をしようと、私はモブの少女エルを弟子にした。私は彼女に心を許すが、エルが優先したのはやっぱりソフィア。


「どうして忘れていたのかしら? ラノベのヴェロニカもずっと孤独だったのに。彼女に弟子や友達と呼べる存在は、一人もいなかったはずよ」


 そう、私はきっと夢見ていた。

 生まれ変わった今なら、友達ができるのではないのかと。弟子と言ったのは照れ隠しで、本当は友達がほしかった。


 一人ぼっちは孤独で寂しい。悪役令嬢を頑張ると決めたものの、一人くらい味方がいてもいいかなと、自分を甘やかしてしまった。だから一向に、王子が現れないのだろうか?


 考えてみれば、エルは最初からソフィアを可愛がっていた。私には皮肉交じりで遠慮なく物を言うくせに、義妹が相手だと優しい。あっちが本当の姉妹で、私がよそ者なのではないのかと錯覚するほどに。


 最近では父も私に冷たくなった。

 成長するにつれ、亡き母に似てきたからだろうか? 


『あなたのお母様は昔、社交界の華として有名だったのよ。まあ、その分派手な噂が多くて、公爵であるお父様を翻弄(ほんろう)していたのだけれど……』


 そう、義母に教えられた。

 もちろんその義母も、ソフィアに甘く私に厳しい。


 みんなは可愛いソフィアの方へ。

 白薔薇が、私から全てを奪っていく。


 この世界にも恵まれた存在は確かにいて、苦労せず当たり前のように何でも手に入れてしまうのだ。父や義母の愛情や、贅沢(ぜいたく)な贈り物。たった一人の友達さえも――。


『誕生日? 仕事なんだ。済まないが無理だな』

『でもお父様。ソフィアの誕生日は去年も一緒に祝って、プレゼントまであげていたじゃない』

『そうだったかな? お前は何でも持っているし、もう大きいんだから我慢できるだろう?』


『あらあら、ソフィアの人形が壊れてしまったわ。またヴェロニカの仕業(しわざ)?』

『お義母様、違うわ。壊していないし、この子は元々私の物だもの』

『そう? 貴女の方がお姉さんなんだから譲ってあげて? ああ、だけど貴女のお下がりじゃダメね。ソフィアには新しく買ってあげましょう』


『可哀想に。またニカが仕掛けたの?』

『そうよ! ひどいでしょう?』

『そうだね。ニカはひどい』


 黒薔薇は嫌われ者。

 この世界での私は邪魔者だ。


 悪役としてそれなりの振る舞いをしてきたから、雑に扱われ話を聞いてもらえなくても、仕方がないとは思う。だけど私は、他の生き方を知らなかった。ラノベの世界のヴェロニカが全てで、甘えたくてもどうしていいのかわからない。


「素直になれば良かったの? ソフィアのように子供っぽく可愛らしく振る舞っていれば、みんなが私を愛してくれた?」


 でもそれは、不確かなこと。ストーリーを変えてしまえば、番外編にも進めなくなってしまう。


「先の見えない人生なんて要らない。終わりに向かい決まった通りに進む方が、安心できる」


 心ない言葉に傷つけられ、不安に(おび)えた日々。空気のように扱われ、誰も私の話を聞いてくれなくて。あんな思いを繰り返すくらいなら、自分が悪者になる方がよっぽどマシだ。実際にいじめられていたから、加減だってちゃんとわかる。


 もう迷わない。

 牢獄に入りさえすれば、私は私だけの愛情を必ず手に入れられるのだ!


『どうして他人に頼ったの? 自分の道は自分で切り拓くのよ』


 私の中の黒薔薇が(ささや)く。

 彼女は孤高の存在で、強く美しい。

 番外編に入るまで、愛なんて期待してはいけなかった。家族に(すが)っても無駄。友達だって幻想で、いつか裏切り私をバカにする。


『ニカ、お願いだから話を聞いて。ニカ!』


 さっきのエルは必死だった。

 だけどもう、彼女とは縁を切ると決めたのだ。


 子供だし正直なのは当たり前。気の合う子と仲良くしたいし、共にいたいと願うもの。エルの心変わりを責めるつもりはない。私だってモブと馴れ合う暇はなく、悪役令嬢を極めなくてはいけないから。


「期待なんてして、バッカみたい」


 もう一度、私は(つぶや)く。


 悪いのは私……黒薔薇が愛されないのは、既にわかっていたことでしょう? 

 最初から仲良くしたいと望まなければ、がっかりしなくて済んだのに。


 エルとは会わないようにしよう。

 その方が私は傷つかず、きっと幸せになれるから――。

 


◎お知らせ

【転生したら武闘派令嬢!?〜恋しなきゃ死んじゃうなんて無理ゲーです】コミック7巻

5/10に双葉社Mノベルスfから発売されます。


みなさまの応援のおかげで無事完結!

コミックオリジナル要素とハッピーエンドをお楽しみいただけたら幸いです♪

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