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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第一章 悪役令嬢ってなんだろう?
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ニカとの出会い 1

「ねぇ、何してるの?」


 思わず声をかけた僕に、彼女が振り向く。(つや)やかな黒髪と上品な顔立ちで、その瞳はハッとするほど綺麗(きれい)な赤。けれどその答えは、品が良いとは言い(がた)く――。


「何って……ちょっとね。忙しいから、邪魔しないでくれる?」


 これが僕と、悪役令嬢と言い張るニカとの初めての出会いだった。



 *****



 僕の名前はラファエル。

 ここノヴァルフ国の王子で、魔力持ち。背中の一部に、白い産毛(うぶげ)のようなものが生えている。


 八歳の誕生日、僕は国王である父からこんなことを聞かされた。


「ラファエル、そろそろ話しておこうか。お前には婚約者の候補が何人かいる。既に顔馴染みのお嬢さんもいるが、筆頭はここに来たことのないローゼス公爵の長女だ。十歳になったら彼女を含め、そのうちの誰かと婚約してもらう」

「わかりました」


 金色の髪をかき上げ返答する。政略結婚が当たり前の世の中だから、異議を申し立てるつもりはない。だけど、親にくっついて王宮によく来る女の子達では嫌だな、とチラッと思ってしまった。


 一番の候補は、顔も知らない公爵令嬢。

 彼女が、ところ構わず騒ぐだけの子達よりマシだといいのに。頭が良くて話が合えば、なお嬉しい。容姿は……はっきり言ってそこまで重要ではないと思う。人並みであれば十分だ。一度くらい会っておいてもいいかもしれない。


「ローゼス家の資料を」

「はっ」


 絵姿を取り寄せ、確認する。その子の名前はヴェロニカ・ローゼスといい、肩より長い真っ直ぐな黒髪と赤い瞳が印象的だった。


「本当にこの通りなら、相当綺麗だな」


 実物よりうんと可愛く描くのが画家の常だから、あまり期待はしていない。この半分でも似ているなら、子供にしては美しい。もちろん、ローゼス公爵の貢献度や資産状況、家族構成も頭に入れておく。


 ヴェロニカは、僕と同い年だが小さな頃に実の母親を亡くしている。けれど最近、彼女には新しい母親とその連れ子であるソフィアという二つ下の義妹(いもうと)ができたらしい。


「黒髪のヴェロニカと銀髪のソフィアか。二人ともおとなしそうだが、さて、どうだろう?」


 義理の姉妹で髪の色が全く違うから、覚えやすい。それでなくとも僕は、一度見たものはすぐに理解できる。そのため今まで、勉学や剣術、馬術のレッスンで困ったことはなかった。既に大人と同じ課程を学んでいるため、子供とでは話が合わない。


「せめて彼女が、わざとらしく大騒ぎをしたり、変にすり寄る子でないといいけれど……」




 ヴェロニカと会う機会は、案外早くに訪れた。


 小さな頃から僕を可愛がってくれた父の妹――侯爵夫人となった叔母の出産祝いを届けた帰りに「公爵家に立ち寄ってみてはどうか」と提案されたのだ。


「それならこのまま、帰りに寄ってみてはどうかしら?」

「この恰好で? だけど……」

「その方が、婚約者候補の普段の姿を見られるのではなくて?」


 事情をよく知る叔母の助言はありがたい。

 ただ、僕は今茶色い巻き髪のかつらを(かぶ)り、白いドレスを着て女の子の恰好(かっこう)をしている。これは王家の決まりのためだ。


 王家の人間には生まれつき魔力がある。大きくなると魔法を使えるが、幼いうちは魔力のせいで成長が遅れるため、自分の身も守れない。地位や魔法を利用しようと企む者達に狙われやすく、外に出ると誘拐(ゆうかい)の恐れがある。


 だから王家の、特に王位を継ぐ者は、十歳になるまで外出時は女の子の恰好をしなければならないのだ。


「ローゼス公爵とは昔から親交があるから、バレても大丈夫よ。女の子の姿だから、私の(めい)っ子ということでいいわよね?」

「姪っ子?」


 僕の身分は叔母が保証してくれるらしい。偽の紹介状を書いて、持たせてくれることになった。

 少しだけ不安になる。


 もしや叔母は、面白がっているだけなのでは?


「貴方に合う良い子だといいわね」


 初めて会うのに女装では恥ずかしい。こっそり様子を見て、すぐ帰ろうかな。


 僕の秘密を知ってもなお、その子は僕を受け入れてくれるだろうか?

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