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太ももと酒

 まったく・・僕は何をやってるんだか・・・。

 マルレーンの太ももに頭を落とし目を閉じたマキであったが、しかし結局眠れないままに一刻が過ぎようとしていた。

 流石にそろそろ起きたほうが良いよね。というかレン・・足、痺れてないのかな。

 始めの内は確かに心が不安定になって、その瞬間の癒しに浸っていたい気分だった。しかし今はもう落ち着いている。それでも、ずっと頭を撫でてくれるマルレーンの優しさとか温もりが心地よくてーーーつまり始めの内は減った体力を回復している時間であったが、その後は体力が満タンだというのに回復によって得られる快感が心地よくて、ついついそれに浸ってしまっていた時間だった。そのせいで起き上がるに起き上がれず、今に至る。因みにこの間、マキは特に何かを考えていたわけでない。ただひたすらにぼうっとしていただけだ。

 流石に甘えすぎか。まだ会ったばかりの人なのに。

 ぼやけていた意識が少しずつハッキリしてくる。

 ・・・というか僕、昨日会ったばかりの人と2人でお風呂に入ったのか?余りにも早すぎるぞ?いや、どうか?・・・初めて会った時から親近感はあった。もしかしたらレンの雰囲気とかに絆されたのかもしれない。・・・・いやいや、でもいきなり裸の付き合いって・・・・流石に警戒心が無くないか?

 起きてしまった頭はいろいろ考え事を始めてしまい、しかしとはいえ答えに行き着くことはないままに体を起こした。

 「おはようございます。」

 「うん。」

 改めて思い返すとちょっとだけ恥ずかしくなった。

 

 マキたち勇者一行は、暫く部屋でくつろいだ後に訓練場へとやってきた。

 ここではまず持久力であったり剣の振り方などを確認した。そしてマキは、自身の能力の高さを自覚した。更に騎士として在中していた男とも軽く打ち合い、自身が問題なく戦闘を行えることを知った。

 それから3日後。勇者一行の旅が始まった。


 「まずは・・取り敢えず退魔組合ですね。私たちは退魔師として登録しましょう。」

 『退魔師』とは、魔物退治を専門とする者たちのこと。又、退魔師は『退魔組合』に属し、この組合は更に上の組織である『滅魔めつま連合』に所属している。

 尚、滅魔連合には退魔組合以外にも、魔物や瘴気などを専門に研究する複数の『研究会』。魔物退治を専門とするのではなくではなく、貴族や街の護衛含め有事に際して国や貴族の命令に従い行動を起こす『騎士団組合』。更に騎士団に属する事ができず、しかし雇われる事で同様の任務に当たる『傭兵団組合』。魔物だけでなく現生生物の分布確認や、必要に際した狩りなどを個人の意思で行う『狩り人組合』。そして武器や魔核、魔物や現生生物から採取できる素材などの売買を行う様々な『商人組合』などが属している。つまり滅魔連合は滅茶苦茶大きな組織ということ。付け加えて、それぞれの組合が互いに牽制し合う為、滅魔連合自体はそこそこマシな組織体系となっている。

 因みに退魔師と狩り人は基本的には同業者として捉えられる。なにせどちらも国や貴族に従う必要が無い自由人であり、そして魔物含めた現生生物を狩る仕事だから。しかしとは言ってもちゃんと違いは存在している。

 まず、狩り人になる人は、特定の地域ーーー主に村などの守護を目的とする人が多く、つまりその特定の地域周辺の瘴気や現生生物の分布を確認し、魔物であれば即座に退治。現生生物であれば必要に応じてーーーつまり家畜や畑などに被害が出されないように殺したりする。加えて組合への報告義務が無く、ただしその代わり、組合も商人などとの接点を設けてくれることはない。つまり完全に個人間で仕事を行っているようなもの。また魔核買い取りに際しても組合からの加算が無い為、同価値の魔核を売った際に他組合と比べ一番低い値段となってしまう。

 これに対して退魔師は、基本的に組合から出された依頼を受注する形で魔物退治を行う。また特定の依頼を組合から任されることもある。例えば瘴気が溜まっている場所の探索であったり、魔物の分布を調査したりする為の隊員として招集をかけられたり。また、高位ランクの退魔師ともなれば国や組合などの上層部から、危険な魔物退治や特定の依頼をお願いされたりと。つまり完全な自由ではなく、組合や退魔師同士である程度繋がりを持って仕事を行う必要がある。ただこれのお陰で、退魔師が退魔組合で魔核を換金してもらう際は、組合側が料金を加算して支払ってくれる仕組みになっている。

 つまり自由に旅をしたい者や、村を守ることに注力している者は完全に自由な狩り人になる場合が多く、逆に魔物退治でお金を稼ごうとしている者や魔物退治そのものに注力している者は、ある程度束縛はあれどお金と情報が多くなる退魔師に為ることが多い。

 これらに加えて一応。特定の状況に応じて指定された組合に属していない者は、原則としてその特定の状況における全ての行動を禁止とされている。例えば魔核の換金であれば、何処かしらの組合に属していなければならなず。魔物素材の販売は、魔物素材鑑定のライセンスを所持した上で、商人組合に属した者でなければならず。といった具合に。また、もし万が一、指定された組合に属していないものが特定の状況に陥った場合は、必ず指定された組合へ報告を行う義務が生じる。そしてこれらの規約に違反した場合は、審判の後に"無罪か死刑"かのどちらかを言い渡される。

 というわけで、これから魔物退治や魔核の換金を行おうとしている勇者一行も当然、これらを遵守する必要がある。その為マルレーンは退魔師となることにしたのだが、組合などの説明を聞いていたマキは少し疑問に思った。

 「僕ら狩り人の方がいいんじゃない?」

 マキたちは魔王討伐の為にも、変に束縛されることなどあってはならない。ならば当然、完全に自由な狩り人組合に所属する方が動きやすいはずだ。

 「その通りですね。私たちが一般人であれば、ですけど。」

 「というと?」

 「つまり退魔組合・・ひいては滅魔連合に既に話は通してあります。というかまあ、正確には滅魔連合に所属しているという解釈でいいですよ。」

 「ん?・・・あ〜・・つまり僕らは退魔師であり狩り人でもあるってことでいいの?」

 「はい。謂わば特別な・・・勇者組合でしょうか?そのペンダントが象徴です。」

 マキの首からかけられたりペンダント。それは彼の者が勇者であるという証。即ち、何人であろうと勇者の行く末を阻んではならないという象徴。

 「要は一番位の高い紋所みたいなものね。」

 「そうですね?」

 マルレーンは紋所という言葉を知らなかったので、首を傾げながら頷いた。

 

 「着きました。」

 マルレーンが退魔組合の扉を開く。中はーーーまあ綺麗ではあった。清潔とは言えないが。しかし。

 「・・・くさい。」

 「仕方ありません。すぐ隣が換金所と酒場なんです。」

 退魔組合の造りは、基本的に正面に四つの大きな空間と、裏手側に複数の大小様々な空間で区切られている。そしてまず、組合の証明である看板が付けられた位置から入れる受付場。その横に、主に情報のやり取りを行う休憩場。更に横に移動すると換金所。そして換金所に併設されるようにして建てられた酒場。因みに換金所と酒場にも表から入れる入り口がある。

 続き、組合施設の裏手側には組合職員が休息であったり話し合いを行う為のいくつかの広間と個室と、そして換金所の裏手側の更に奥には堅牢な金庫が併設されている。

 「・・・つまり魔物退治を行った者が汚れたまま換金して、そのお金をお酒に突っ込む。臭うのも当然です。」

 「おうおう言ってくれじゃねぇかお嬢さんらよぉ!」

 休憩場の方から声がした。のっそりと大男が歩いてくる。

 頬が赤い。酔ってるのかな・・・。

 「臭いのは当然!これこそ魔物を退治した証よ!」

 胸を張り堂々たる姿で男は自慢する。自分は強いぞと。自分たちは誇らしいんだぞ。

 レン可愛いから狙われちゃった?いや、全員か?

 「お嬢さんらはなんだぁ?退魔師になるのかぁ?そんな華奢な身体でぇ?はっはっはっ。辞めときなぁ。そんなんじゃ・・・」

 休憩場の奥の方にも視線を向けようと、マキの体がそちらに向く。結果揺れたペンダントが、男の視界にも入った。

 「・・・あ・・・あぁ。すまねぇ。勇者様御一行だったのか。」

 一度マキの顔を眺めた後に視線を反らした男は、ゆっくりとーーーしかし酔いが覚めた足取りで元の位置に戻った。

 「では、行きましょうか。」

 「あ、うん。」

 僕今・・・憐れまれられた?

 その後こちらに視線が向けられることは一切無かった。先程とは打って変わって。

 

 「本来であれば登録に試験が必要ですが、私たちには必要ありませんので。これで晴れて退魔師ですね、マキ。」

 「うん。・・・て言ってもあんまり実感湧かないかも。」

 「そうですか。まあ仕方ありませんね。まだ何もしてませんし。」

 「うん。」

 「よし、それでは。早速行きましょうか。」

 「次の目的地は何処?」

 「『ユッド』と呼ばれる街ですね。が、その前に魔物退治です。今後マキには魔王戦までにしっかりと実戦経験を積んでもらわなければなりませんからね。」

 「そうだったね。訓練は旅の道中で。」

 「はい。では、どれにします?依頼内容。」

 「ああーー・・・じゃあこれで。」

 「わかりました。ではこちらと・・後これとこれもお願いします。」

 マルレーンが複数の魔物退治の依頼を受けた。

 そして!僕らの旅が本格的に始まる!さぁ行こう!魔物退治へ!

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