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二人の夜


廃された元皇女のエリーナ。皇族への復権の条件はなんと超難あり男との政略結婚だった。

政略結婚の相手のライナスは常に狼の仮面を被り、偏屈で冷淡な男だった。

それでも夫婦として頑張ろうとするエリーナだが、ライナスは形式上の妻でいいと取り合わない。

そこでエリーナはライナスとの情を育む為に、ある事をする・・・・。

 翌日は結婚式。本来は中一日をあけて、挙式の予定だったが長雨による悪路の影響で到着が一日ずれてしまい、明日が結婚式になっていた。

 日付は王室が選んだ吉日であり、変更は難しかった。

 

 インイでは花嫁は鮮やかな婚礼衣装に豪華な宝石を身に纏い、女の人生で最も美しく着飾るのが伝統だったが、こちらでは真っ白な婚礼衣装だった。宝石なども控えめでインイとは対照的だ。

 純潔を表したり、あなた色に染まりますという意味を持つとか。


 また衣装だけでなく、式もまた国が違えば異なる。

 太鼓や楽器の音、多くの親族が集まり、時には爆竹を鳴らすような賑やかで派手な結婚式が多いインイ。それとは対照的にクエルでは司祭に夫婦の誓いを立てるだけの式だった。立ち合いの親族も大勢の招待客もない簡素なものだった。

 

 まあ挙式の豪華さなどはどうでもいい。

 まさかとは思ったけども、ライナス様はその式さえも仮面をつけたままだったのだ。

 日常生活はまだ理解できるが、挙式でさえも素顔を晒さないとはね。

 

 神聖な儀式の場だ。仮面を外すようにやんわりと促す司祭に彼は高笑いを浮かべた。


「ふん。俺の素顔を見ようと思うか。素顔が拝めるのは真の妻だけぞ。おぬしが見たければ、力づくでくるがいい。ただしその時は魑魅魍魎、魔がうごめく蟲の世界に飛び込む覚悟でこいっ!!!」


 驚いた司祭は「滅相もない」と言ってそのまま式を進めた。

 誰だってそうだ。異様な仮面をつけた屈強な男にそう言われてNOが言える人なんてそういない。

 全く色気も浪漫もない結婚式が終わった。


 それにしても、ここまでに偏屈な変わり者だったとは。

 多くの女性が縁談を受けなかったのも理解できるわ。

 式も仮面をつけたままとなると・・・・。

 つまりあれね。


 素顔を拝見できるのはあの時だけというわけね。




 一人の夕食が終わると、入浴をして身支度を整える。

 シルクのネグリジェを纏い部屋で待っていると扉をノックする音がした。すかざずシイラが取り次ぐと、私の腕を取り「では、参りましょう」

 どこへって?

 新婚夫婦の初夜だ。

 旦那様のところ以外行くところはない。

 床入り、だ。


 わかっている事とはいえ、やっぱり緊張する。

 侍女の案内で黒く重厚な扉の前に来る。扉の前にはアールがいた。

 アールが扉をノックする。

 中から返事がある。


「旦那様、奥様がいらっしゃいました」 


「入れ」


 相変わらず短い言葉。でも少しほっとした。

 どこかで追い返されるのではなんて心配していた。

 もちろんこの後、起こることはわかっている。

 経験がなく、それもほぼ初対面の男だ。

 実際顔を合わせた時間なんて1時間もないのでは。


 そんな相手とこれから体を重ねるのか。

 吐き捨てられた冷たい言葉。狼の仮面。

 緊張、恐怖、羞恥心。

 全てがぐるぐると頭を巡る。


「失礼致します」


 ライナス様の部屋へ、足を踏み入れる。

 広さは屋敷の主人だけあって、私の部屋よりもずっと広い。


「きたか」


 声の主はソファーに寝そべるように座っていた。

 

 ・・・・。

 

 この人、本気なの?

 流石にないだろうと甘く考えていた。

 結婚式の最中でさえ仮面を取らなかった男。

 

 びっくり。どっきり。

 狼の仮面をつけていた。寝巻きのガウン姿ゆえに、その異様さが際立っている。

 まるでおとぎ話の世界にでも迷い込んだ見たいね。

 

 付き添っていた侍女は下り、部屋を後にした。

 部屋には狼の仮面を被った旦那様と私の二人きり。

 サイドテーブルに置かれた赤ワインを一口飲むと「飲むか」


「いいえ、私は」

 

 断ってしまったけど、お酒の力を借りた方がよかったかしら。緊張でいつも以上に無口で無愛想になっているのが、自分でもわかる。


「遠路からの旅、ご苦労だったな。こんな辺境の地まで嫁入りとは、姫様も国の為に大変だな」


 くくくっと笑う。


「あの・・・・」

「あ〜どうした?」

「その・・・旦那様はいつも仮面を・・・」


 私の言葉にぴくりと反応する。


「気になるか?」


 威圧するような鋭い目に、体が硬直する。


「まあ、気にならないわけはないな。ハハハハ・・・・」


 ひとしきり笑った後、スッと真顔になる。もちろん仮面を被っているから実際の表情はわからない。

 だけど感じる。

 氷のように突き刺すような冷たい視線を。


「部屋へ戻れ」


 いけない。

 怒らせてしまった。おそらく触れてはいけない話題に触れてしまった。 

 慌てて立ち上がり、膝をつく。


「申し訳ございません。不愉快な思いをさせて・・・」

「違う」


 ダンッと音を立ててワイングラスを机に置く。


「最初からお前を抱く気などなかった」

「旦那様っ!」


「いいか、お前は俺の妻だ。先ほどの挙式も王への報告も済ました。紛れもない正妻だ。だから家では正妻として大きな顔をしていればいい。使用人も顎で使え。無礼な態度を取られたらアールに言って折檻させてもいい」


 だがっ!!そう言うなり、すくっと立ち上がる。


「それだけだ。俺たちの関係はそれだけだ。それ以上はいらん。言っただろう、我が素顔を見れるのは真の妻だけだと」


 目の前で跪く私を愉快そうに見下ろす。


「素顔が見たければ、真の妻となれ。まあ無理だろうがな」


 真の妻って。正妻になった私と何が違うの。

 片頬で笑うと「わかったらさっさと部屋へ戻れ」


 戻れと言われても。はいそうですか、と下がれるわけなんてない。

 初夜を拒否されるとは、大きな意味がある。


「旦那様」


 すがる私の目に無視してアールを呼ぶ。


「花嫁を部屋に案内しろ」

「だ、旦那様・・・しかし」

「いいから連れて行け!!!ぐずぐずするな!!!」


 あまりの迫力にアールは何を言っても無駄だと理解して、侍女に私を連れて行くように指示を出した。


「アール・・・」


 私の呼びかけに、アールは静かに目を伏せる。

 今はご辛抱ください、そう言っているようだった。

 侍女に手を引かれてよろよろと部屋をでた。

 その背中ではアールとライナス様のやり取りが聞こえた。


「ふん、構わん。婚礼の儀式は終わったのだ。それで十分だろう。あの者は政略結婚で連れてこられただけの女。俺を愛しているわけでもない。それと床を共にしろだ?無理な話だ!!」


 気づけばベットに入っていた。

 赤ワイン飲んでおけばよかった。そうしたら少しは眠くなっていたかもしれない。





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