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また来るよー! こんでええわー!

 大勢を相手にするのは手間だ。武はアリスを連れて城から出ることにした。大広間までの道順を思い出しながら、通路を通って広間を抜けると城の外に出られた。次は城門を目指す。


 城門に向かって走って行くと、門の前には鎧武者を先頭に、楯を持った足軽や鉄砲兵が構えていた。50人はいるだろうか。さっきの鐘で集められた仙台藩の家来だ。


 長篠の戦を彷彿させる柵のようなものが置いてあり、そこから鉄砲兵が武たちを狙っている。接近戦では勝てないと思ったのだろう。戦法としては間違っていない。

 オジ宗は武たちを生かして外には出すつもりはない。


「あんなに鉄砲撃ち込まれたら、こっちが死ぬ。さすがに攻撃してもいいと思うぞー」と猫は言う。


「そうかな?」武はアリスにも聞いてみた。


「そうよ。相手に鉄砲を向けるということは、相手から鉄砲を向けられても構わないということよ。『目には目を歯には歯を』よ!」とアリス。


「その解釈も違ってると思うけど・・・」

「とにかく・・・助さん、懲らしめてやりなさい!」


 鉄砲兵が撃ってくるかもしれない。

 鉄砲兵の弾がアリスに当たるかもしれない。

 当たり所が悪かったらアリスが死ぬかもしれない。


 武は覚悟を決めて、前方の兵に向けてリチウム弾をいつもより多めに発射した。


“ボッ ボッ ボッ ボッ”


 音が聞こえる度に、数名の伊達家の家来が吹っ飛んでいく。それと同時に、着弾した城門はボロボロになった。

 武が何度か射撃を繰り返したら、門前の家来は動かなくなった。


 終わったと思った瞬間、後方から銃声が聞こえた。

 武が振り返ると、オジ宗が銃口をこちらに向けていた。


「まだまだー! 生かしては帰さんぞー!」とオジ宗は大声で叫んでいる。


 まるで、ゴルフコースの1打目で空振りしたのに『いまのは練習・・・』とでも言わんばかりだ。

 武はイラっとして、オジ宗がいる城に向けてリチウム弾を発射した。


 “ドボッ ドボッ ドボッ”


 オジ宗は自分の身体に弾が当たっていないことを確認し、安心したのだろう。「どこ狙ってんだー? 下手くそー!」と武を野次る。

 安心したのも束の間、武のリチウム弾によって柱が破壊された城は、“ドドドドドー”と音を立てて崩れていった。仙台城の崩壊である。


 崩壊した仙台城から何とか脱出したオジ宗。城跡を見ながら茫然ぼうぜんと立ち尽くす。


「ワシの城が・・・」


 武は仙台城から転がってきた金色のとんがり帽を拾った。仙台城の玄関に幾つか飾ってあたから、他にも転がってきているかもしれない。

「江戸時代のお土産に持って帰ろうよ」とアリスは他のとんがり帽を探し始めた。持って帰ったら高く売れると思っているようだ。


「あったー!」アリスはとんがり帽を見つけたようだ。


「ねえ、せっかくだし、かぶろうよ!」

 武はアリスに言われて、記念の金のとんがり帽をかぶった。「おそろいだねー」とアリスは喜んでいる。


 崩れた門までくると、武たちは仙台城跡を振り返った。


 仙台城跡にたたずむオジ宗は武を睨んでいる。短い間だったが、これで有名な戦国武将とのお別れだ。

 武はオジ宗に手を振った。


「オジ宗~、また来るよー!」

 武がオジ宗に大声で叫ぶ。


「こんでええわー!」

 オジ宗の大声が広場に響き渡った。



***



 東京に戻ってきたアリスはゴソゴソと何かを探している。


「なにを探してるの?」と武が尋ねる。


「日本史の教科書。あの後、どうなったかなと思って」

 アリスはそう言うと、日本史の教科書をパラパラと捲っていく。


「あった! 慶長遣欧使節は・・・」


 武も日本史の教科書を覗き込む。アリスは該当箇所を指さした。


「1613年 慶長遣欧使節が月ノ浦(現・石巻市)を出帆。あれ? 1612年がないね」


「僕が「1回目は失敗する」って言ったから、止めたのかな?」

「どうかな? 私は止めたんじゃないと思うな。2回目の慶長遣欧使節は派遣してるでしょ」

「じゃあ、なんで?」

「私の推理では、仙台城が壊れたから」


 武は破壊した仙台城を思い出した。


「その修理にお金が掛かって、1回目のお金がなかったんじゃない?」

「さすが名探偵! オジ宗、怒ってたしなー」

「ちょっとだけ歴史を改変しちゃったね」


 アリスは楽しそうに笑っている。


「慶長遣欧使節は回数が減ったけど、中止にしなかったんだね。なんでだと思う?」

「それはね、オジ宗はスペインに「派遣する!」って言ってたからよ」

「武士に二言はない、ってやつ?」

「オジ宗はそういう性格じゃないと思うけど、成り行き上中止できなかったんじゃないかな」


 武はそんなもんかと思う。支倉常長からスペイン国王に「伊達政宗はキリスト教に改宗しました!」と嘘を言わせたのかもしれないし、オジ宗が何を考えていたかは知りようがない。


「支倉常長はヨーロッパに行ったんだよね?」

「そうね。そこは変わってないみたい」とアリスは日本史の教科書を見て答える。


「支倉常長は帰国後の顛末が分かっていたのに、なんで行ったのかな?」

「常長はクリスチャンでしょ。だからローマ法王に会いたかったんじゃない?」

「そうか・・・」

「本人は事前に心構えができていたから、失意の中で死んだわけじゃないと思うよ」

「そうだったら、僕の助言も役立ったわけだ」

「だと思う」


 武はアリスに江戸時代でどうしていたか尋ねる。


「僕が迎えに行くまで、大丈夫だった?」

「気付いたら江戸時代だったからビックリした。でも、不安じゃなかった」

「なんで?」

「武が来てくれるって信じてたから」


 アリスは武の眼を見て言った。


「ねえ、たけしー」

「なに?」

「キスしよっか?」


 少年は小さく頷いた。


「目を閉じて・・・」


 目を閉じたら唇から生暖かい感触が伝わってくる。武は目を開けた。


「お前かー!」と叫ぶ少年。


 そこには猫がいた。


<おわり>


伊達政宗は筆者の好きな戦国武将の一人です。派手な戦いをするわけでもなく、重要な歴史的偉業を成し遂げたわけでもありません。ただ、伊達政宗に関わる逸話はいくつも存在しており、現在でも伊達男、伊達巻などは有名です。口八丁手八丁で戦国時代を乗り切った珍しいタイプの武将だったといえるでしょう。

伊達政宗や慶長遣欧使節に関係する人物像を筆者の想像で書いておりますが、特段の悪意はありませんので念のため申し添えます。


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