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貞操観念で揉める仏教徒とキリスト教徒

あまり品の良い話ではありませんが、ご了承ください。

 ルイスの言っていることがよく分からない武。

 同性愛とは男性同士、女性同士で愛し合うこと。1959年の日本ではあまり社会的に認知されているわけではないが、武の認識では仏教にもキリスト教にも同性愛者はいる。

 キリスト教宣教師であるルイスが同性愛に反対を唱える発言をしている意味が、武には分からない。

 武は江戸時代を知っている猫(推定200歳)に「なんのこと?」と尋ねたら、猫が半笑いで武に説明した。内容は概ねこういう感じだ。


***


 まず、ルイスが言いたいのは仏教徒ではなく僧侶のことを指している。この時代の仏教の僧侶は女と交わることを禁止されている。つまり、僧侶は女性とセックスしてはいけない。

 ただ、この戒律が厳密に守られていたかと言われると微妙だ。僧侶が村に読経のために訪れた際には、女性が差し出されたとの文献が多くある。つまり、この時代には僧侶に対して首長が性接待を行っていた。女性をあてがわれた僧侶はもちろん・・・

 だから、この戒律を遵守していた僧侶の割合がどれだけは分からない。


 ちなみに、高僧(筆者の記憶では日蓮?)の話では、同僚の僧侶数名と読経に訪れた村において村長に性接待を受けたが、日蓮だけついて行かなかったという記録が残されている。

 他の僧侶は日蓮のことをバカ呼ばわりしていたから、ほとんどの僧侶は女性とセックスしていたと考えるのが普通だろう。ちなみに日蓮は煩悩を断ち切るために修行に励んでいたが、本当に断ち切るのに苦労していたのが性欲だった。ムラムラする度に血抜きをしてなんとか平気を保っていた、といわれている。


 話が逸れたが、僧侶は女性と交わることを禁じている。が、その代わりに僧侶が男と交わることは禁止していない。だから、この時代の僧侶はゲイまたはバイセクシャル。

 この時代のキリスト教では同性愛者は認められていない。だから、ルイスはクリスチャンとして僧侶の行いが汚らわしいと言っている。

 ルイスの質問は『ゲイまたはバイセクシュアルの僧侶をどう思うか?』とオジ宗に聞きたいのだ。


***


 猫の説明を聞いた武は、顔を真っ赤にして下を向いた。アリスが「どうしたの?」と聞いてくるのだが、この話をそのまま伝えるのは気が引ける。10歳の少年はこういうのが恥ずかしいのだ。


 武は何となくオジ宗の方を見た。オジ宗の横には、若い綺麗な顔立ちをした小姓が控えていることに今さらながらに気付いた。その小姓はオジ宗の横顔をうっとりしながら見ている。

 さっき着替え中の部屋に入った時に、オジ宗は小姓と何かしていたように見えた。そして、オジ宗は「お前もそっちか?」と武に聞いてきた。武はオジ宗の「お前『も』」の本当の意味を知る。


――江戸時代、恐ろしい・・・


 武はこっそり「オジ宗もそっち系?」と聞くと、猫は「当然!」と自信満々に答えた。

 武の記憶では政宗に子供はいるからゲイではない。そうすると、バイセクシュアルか・・・


 慶長遣欧使節の議論をしていたはずが、ルイスのせいで思わぬ方向に話が進んでいる。

 オジ宗はルイスの質問にどう答えるかを考えている。スペイン国王やローマ教皇に「仙台藩はゲイばかりでした」と言われるのも困るし・・・

 その横で小姓はルイスをずっと睨みつけている。


 オジ宗は考えた末に口を開いた。

「ワシは特に問題ない・・・と思っておる」


 その発言を聞いたルイスは呆れた様子で「汚らわしい」と呟いた。


「ぶっ、無礼者!」

 道蔵はルイスの「汚らわしい」発言に怒った。異教徒に自分の性的思考を馬鹿にされたと感じている。


「究極の愛の形を知らない者に、人を導くことはできん!」と道蔵は言い放った。


「ジーザス(イエス)は人を愛しています。だから人を導くことができます!」ルイスも抗弁する。


「神のもとに平等、と言いながら差別してんじゃねーよ!」

「差別ではない。区別だ!」


 道蔵とルイスはますますヒートアップしていく。


 アリスは「ねえ、どういうこと?」と聞いてくるから、武は「同性愛を認めるかどうかで揉めてる」と簡潔に答えた。


「えぇ? それって、慶長遣欧使節と関係ないよね?」

 アリスは尤もなことを言う。


「そうだよ。全然関係ない・・・」と武は小さく言った。


「この議論は決着つかない。私たちの時代でも解決してないでしょ?」

「そうだね」

「もう、放っておいて家に帰らない?」


 いちいち尤もだ。猫も「もう飽きたぞー」と言っている。


 武は遠慮がちにオジ宗に尋ねる。

「オジ宗、この議論に僕たちは必要なさそうだから、もう帰ってもいいかな?」


 慶長遣欧使節がどうなるかについては、既に武に説明してもらった。これ以上の説明は不要だ。あとは仙台藩としてどうするかを決めるだけだ。


 ただ、オジ宗は武を帰していいものか迷っている。


――ここでの話を他で漏らさないだろうか?

 もし、江戸幕府に慶長遣欧使節のことを知られれば、将軍からお咎めを受けることになる。


――武を生かして帰してもいいのか?


 オジ宗は決心した。


「者共、であえ!」


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