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アーモンド入りチョコレート

作者: 宵待 黒

彼とはもう20年近くなるくらいの付き合いだ。

家が隣同士、生まれた年も生まれた月も、生まれた日すらも同じという状況で仲良くならないはずがないのだった。

子供のころの記憶がそこまであるわけではないけれど、彼と外でいつも遊んでいたことは覚えている。


中学、高校と、腐れ縁ともいえる関係は続き大学まで同じだと知った時はストーカなのではないかとも疑いたくなるのは無理からぬことだと思う。

向こうもそう思っていそうだけれど。


幼馴染という言葉ほどキラキラしたようなものはなかった。

彼は私の事を女としては見れないと言っていた。思春期の恥ずかしさもあったのかもしれないが私もあまり近くにいることが多くなくなった。

それ以前に私たちには恋愛のような眩しいイベントは何もないまま成長していた。


大学に入ってからも、同じ授業を受けることもあったが特段変わることのない関係が続いていた。

大学生活も慣れてきてあと少しで一年過ぎるという2月になった。

大学の雰囲気も少し浮ついているように感じる。

バレンタインが近づいてきていた。

小さい頃からの習慣で身近な人にチョコを配るのがいつもの事だった。

彼にもいつもチョコを溶かし型に流し込んだ簡単なものを渡していた。


今年は、なぜなのだろう、少しだけ手間を加えて渡したくなりアーモンドを入れてアレンジしたものを作った。


2月14日、いつものように大学に顔を出せば彼に会う機会もあると思い登校した。

しかし、いつものように過ごしていても彼に会うことができなかった。

仕方がないので、彼といつもいる集団に声をかけてみた。

けれど、不思議なことに彼らの誰も話が嚙み合わなかった。

彼についての記憶が丸々抜け落ちてしまっているようだった。


仕方がないので彼に直接連絡を取ろうと携帯を開いてみても、彼の宛先がなかった。

それどころか、昨日までメッセージのやり取りをしていたはずなのに、それすらもなかった。


流石にこれはおかしいと思い、彼の住んでいるアパートに直接足を運んでみた。

彼の借りている部屋には見知らぬ大学生が住んでいるだけだった。


幸いなことに実家までの距離がそこまで離れているわけではないので、帰ってみることにした。


実家では突然帰ってきたことに少し不思議がりながらも迎え入れてくれた。

親に、いろいろと今日あった不思議なことについて聞いてみた。


彼らと同じだった。世界から彼が忘れられたように彼の事を覚えていなかった。

ろくに親とも会話をすることなく、焦りながら外に出た。

隣の家はいつも通りの外観だった。

はやる気持ちを抑えながら、インターホンを押す。

彼の両親はいつものような笑顔で出迎えてくれた。

しかし、いつもの笑顔のまま迎えてくれた家の中には彼の気配を感じられるものは何もなかった。

彼の事をその両親ですら覚えていなかった。


足が震えた。なぜか涙が零れだした。

彼の両親は心配してくれていたが、その姿に底知れない気味悪さを感じた。


たまらなくなって、いてもたってもいられず走り出した。

走り抜けながら、昔から住んでいた町での彼との記憶がチラついて目を瞑った。

目を瞑りながら走ればどうなるかは子供でも分かる。

何かに躓き大きくバランスを崩した。

眼前のアスファルトに雫がこぼれ落ち、しみ込んで消えた。


けがをした足を引きずりながら、彼といつも遊んでいた近所の神社にたどり着いた。

神社の境内についたとき、ふとポケットに入っているものに気が付いた。

ポケットにあった彼のために用意したアーモンド入りのチョコレートは転んだせいか、粉々になっていた。

渡そうと考えていた相手は、世界から忘れられたように消えてしまった。

本当は初めから私に幼馴染などいなかったのかもしれない。

全て幻で、何もかも嘘だったのかもしれない。

渡すことができなくなったお菓子のラッピングを解き、口に運ぶ。

彼のために甘めに作ったはずのチョコはどこか苦く、しょっぱく感じられた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  消えてしまった彼が気になりますね。神隠しか魔法のようです。彼に特別な感情がないと告げられていた彼女ですが、手の込んだチョコを用意するくらいですし、やはり特別な想いがあったのでしょうか。そ…
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