今日が初めてのゲームデビュー日。
2053年、6月。幾千幾万と生まれた電脳遊戯の中で新たなゲームが生まれた。
その名もPersonal World Online、通称PWO。
2030年代に初めてVRのMMORPGが生まれてからゲーム業界はVR関連のものが大半となった。幻想的な世界でプレイヤーが英雄になるゲームや、平和な世界でほのぼのとした暮らしを送ることができるゲーム、リアルな農体験が出来るゲームなども出た中で、初めてVRMMOをだしたReativeが開発したこのPWOはある革新的なシステムが話題となり世間の注目を集めた。
Personal System、プレイヤーの脳波や筋肉の収縮などを特別性のVRギアを使って読み取り一人一人に様々なスキルが与えられるのだ。
まるで、本当に異世界の住人になったかのような体験が出来るこのゲームは瞬く間に話題の中心となり初期生産分をあっという間に売りつくした。
そして、サービス開始日当日。
「……ふふ、楽しみだなあ。」
今日は、この頃世間を騒がせていたゲームのサービス開始日。
今までにない高揚感を持った自分はサービスの開始時刻を待っていた。
今日はPWOの開始日であり、僕のゲームデビュー日でもあった。
というのも僕、日下 晴眞の家は友人曰く「とても古めかしい」ものであるらしく、厳格(友人曰く)な父と同じく厳格(これもまた友人曰く)な母に育てられた自分はゲームなどやった事がなかった。
興味がなかった、というよりかは知識がなかったという方が正しいだろうか。あまりゲームの事を理解していなかった自分は、共働きであった両親の代わりに行っていた家事や近所にあった武道教室で学ぶことが楽しかったのである。
それを知った友人に勿体ないと言われ、ゲームの魅力をたっぷり語られた後、このゲームに誘われたのだった。
そこまで言うのならと両親に相談した所、
「お前はそういうのに興味が無いのかと思っていた。」
「最低限やるべき事をやるのなら異論はない。」
と有難い言葉をいただいたため見事ゲームデビューと相成った訳である。
開始時間までの余暇をどうするか、高揚感で右往左往しながら考えているとふと腕に着けているデジタルウォッチが震えた。横に着いているボタンを押すとホログラムが投影された。
そこに映っていたのは、髪を明るめに染めた青年。件の友人である赤嶺 秋斗だった。
「よっ、晴眞。元気かー?」
「はい。元気ですよ。そちらも変わりなさそうで。
どうかしましたか、秋斗。」
秋斗は高校大学が同じの友人で親友と言っても差支えのない関係だと思っている。自称それなりにガチなゲーマーだそうで、このPWOも頑張ると宣言していた。
「いや、楽しみでいても立ってもいられなくってな!
お前もそうかなって思って通話かけてみたんだよ。」
「……そうですね、確かに。僕も楽しみです。この何が起こるかわからなくてワクワクする感じ、誕生日とかクリスマスプレゼントを開ける時に似てる気がします。」
「わかるなあ、やっぱこの時間もゲームの醍醐味なんだよ!お前もゲームの魅力わかってきたじゃん!……って、あの厳しそうな両親で誕生日プレゼントとかもらえるのな?」
「ドッキリとかもしてきますよ。意外とお茶目なので。」
「マジで!?」
無愛想な見た目から勘違いされがちなのだが、意外とお茶目な二人なのである。家でも敬語を外さない事や、ルールに対しては厳しいため厳格と言われても否定はしないのだが。
「にしても、集まらなくてもいいのか?最初ぐらいはいろいろ説明してやろうかなーって思ってたんだけど。」
「ええ、秋斗には秋斗の友人がいらっしゃるでしょうし。何よりも分からないものを分からないなりに頑張るって楽しいじゃないですか。」
勉強での難問。初めて作る料理。手合わせする強敵。難しい事はつまらないには繋がらないと思うのだ。人生を面白くするのは未知だ。未知を知る瞬間が一番楽しい。僕はそう思って生きている。
だから、秋斗には感謝しているのだ。自分の好きを他人に広げてくれる彼を僕はとても尊敬している。
「秋斗、ありがとうございます。」
「んぁ…?なんだよいきなり。」
「ゲームを教えてくれて。一緒に楽しみましょう。」
「……あー、もう。照れるからやめろ!そういうとこだぞ本当に!…時間そろそろになったから切るぞ。お前も、初めてのゲーム楽しめよ!」
恥ずかしそうに通話を終了した秋斗に少し笑って自分もゲームの準備を始めることにした。
そして、開始の時間。
全身に機械を貼り付け、特別性のVRギアを被った。
「よし、スタート。」
今日が自分の、ゲームデビュー日だ。
単語説明
Reative
初めてのVRMMOを出した会社で、PWOを開発した会社でもある。名前の由来はreal+alternative
VRギア
脳波を読み取る為に頭全体を覆うようなヘルメット型のVR機器。また計20個のパッドが付属しており全身に付けて筋肉の収縮を読み取る。
デジタルウォッチ
腕時計型のスマートフォンみたいなもの。
横に着いているボタンを押すと空中に画面が浮かび上がる。触れるホログラム。
日下晴眞
本作主人公。現在十九歳。家でも敬語を使うというルールがあった為どんな相手にも敬語。そのせいで小中高はあまり友達がいなかった。嫌われてはなかった。
最近の悩みは趣味を言うと引かれる事(家事、勉強、運動が趣味)
赤嶺秋斗
晴眞とは高校からの仲。現在二十歳。ゲーマーでゲーム配信などをしてそれなりに稼いでる。
髪は大学から染めた。
最近の悩みは一個上の姉に晴眞を紹介しろと言われる事。なんか気恥ずかしくて姉に友達紹介するのが嫌。