きっと君は…
拙い文章ではありますが、雰囲気だけでも感じて頂けましたら、嬉しく思います…。
きっと君は知らない。
それを僕は知ってる。
でも、僕が知らないことを、君は知ってる。
「あれは何?」
と僕が聞くと、
「あれは、鳥だよ。」
って君は教えてくれる。
「これは、何?」
と君が聞くから、
「これは心臓さ。」
と、答えてあげる。
……だって君は外の世界を知ってるから。
……だって僕は内の世界を知ってるから。
ある日の事でした。
草太は大きなイモムシを、お家の近くの林の中で見つけました。
これはきっとチョウチョウの幼虫に間違いないと、草太は知っていました。
でも、こうやってクネクネ動くのはどうしてか分かりませんでした。
そして草太はつぶやきました。
「そうだ、いつもみたいに教えてもらおう…」
そして、足早にその林から立ち去ると、そこから走って10分ほどの場所にある建物にかけこみました。
いつものように。
二階のあの場所まで。
「やぁ草太。そんなに慌ててどうしたんだい?」
草太は一つ深呼吸をすると、
「やぁ。実はこのイモムシなんだけど…」
「あぁ。前に草太が教えてくれた物だね。それがどうかしたのかい?」
「うん…こうやってクネクネ動くのはどうしてか分からなくって。」
そう草太が言うと、しばらくの沈黙のあと、
「草太と同じ命ある物だからさ。それは機械から作られているわけじゃないんだろう?」
草太は、言われてそのイモムシをいじくってみました。
「うん…たぶん。」
「なら、そうだ。」
そして、草太がイモムシをいじくりながら言いました。
「ねえ。」
「なんだい?」
「命ある物…って何?」
また沈黙が流れました。草太は相変わらずイモムシをいじくっていました。
「それはね、外の世界と内の世界を行き来できる物達のことさ。」
「…外…内…?」
「そう。君が今いるのは内の世界さ。外の世界からここに来たんだよ。」
「…そうなの?じゃあ、僕も命ある物って言ってたけど…君も命ある物なの?」
その時流れた沈黙はそれまでとは比べることはできないくらい、長く穏やかなものでした。
やがて、太陽が西に傾きかけた頃に、
「……それは、君が大人になれば分かると思うよ。」
と…ポツリとつぶやく様に、それでも優しく言いました。
「うん…分かったよ。」
草太は笑顔で言いました。
それから半年も経たないうちに、その建物は壊されてしまいました。
それは、最後の一人だった草太が遠くに引っ越してしまったからでした。
引っ越しの日、草太はあの場所にいました。
お別れを言うためでした。
「今まで…ありがとう。」
そう言った草太の頬には、涙の伝ったあとがありました。
「今まで僕達、本当にたくさんのことについてしゃべったね。…楽しかったよ。」
「…僕もだよ。」
「皆を待たせちゃいけないよ。さあ、いってらっしゃい。」
「…またね。」
「…うん。またね。」
そして草太は、その部屋をあとにしました。草太はこの時まだ、この建物が壊されることを知らなかったのでした。
さよならを交わしたあと、僕は自分の運命を直感していた。
彼は遠くへ行ってしまうし、ここに訪れる者ももういなくなる。
なら、僕の行く先は決まっている。
いつかはこうなると分かっていたから、悲しくはない。
ただ…草太との別れの時ぐらい、この眼にも流れる涙が欲しかった…。
僕はいつも君を応援しているよ。
やがて君は知るだろう。
命ある物とは何かを。
…僕が人体模型であり、命を持たない物であることを。
さようなら、草太。
きっと君は立派な大人になるだろう…
きっと君は…
お目汚しな文章をわざわざ読んで頂き、ありがとうございました。
またお会いできますように…