6 治療薬の材料
風が耳元で唸っている。
「ディアル! 村の麓の森に降りて!」
氷の竜の背に乗った、イリスが声を張り上げた。
『わかった』
ぐん、と氷の翼が空気を叩く。
日が暮れた宵闇の中、氷の竜が森の中に着地した。翼の風を受けて、モミの木々が大きく揺れる。
イリスは氷の竜の背から滑り降りた。
モミの葉と、その木の根元に生えていたユグシルの青い花を摘んだ。背負い袋に入れる。
「これで治療薬の材料はそろったわ。ありがとう、ディアル」
『……まだ、治療薬を手に入れたわけでは、ないだろう』
「そうね。薬師の家へ行かなくちゃ。ディアルは、ここで待っていて」
『俺も行く。お前が逃げないように、見張る』
「約束したのに。信用されていないわね」
森を進むと、一軒家があった。煙突から煙が立ち上り、窓から明かりが零れている。
イリスが扉をノックする。
「誰じゃ、こんな夜に――ひいいいい!」
年老いた薬師は腰を抜かした。
「あ、あの。大丈夫ですか」
「だだだだ、大丈夫なわけ、あああ、あるか! こ、氷の竜が!」
「ディアルは襲ったりしません。薬師のお爺さん。約束通り、治療薬の材料を持って来ました」
床に尻もちをついたままの薬師の前に、イリスは背負い袋から材料を取り出し、並べる。
「これで、ルークに治療薬を作ってくれますよね?」
年老いた薬師は、ぶるぶると体を震わせるだけだった。
『おい。早く治療薬をよこせ』
「ひい!」
氷の竜が吠えれば、薬師は床を這いずって、壁際の棚へ移動した。がちゃがちゃ棚の引き出しを掻きまわし、液体の入った小瓶を手にした。
「こここ、これじゃ!」
イリスが駆け寄る。薬師から小瓶を受け取った。
「ありがとうございます!」
『おい、薬師』
「は、はいぃ!」
ディアルが牙を覗かせる。
『イリスの弟の世話を、お前がしろ。冬の流行り病はぶり返すこともある。お前が責任もって治せ。さもないと』
がちん、と氷の竜が口を閉じた。
薬師が何度も首を縦に振る。
「ありがとう。薬師のお爺さん。――行きましょう、ディアル」
イリスが氷の竜の背中によじ登る。氷の竜が頭を上げ、ぐっと屈み込んだ。
激しい突風。
夜空に、氷の竜が飛ぶ。