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1 冬の流行り病
荒く息をする弟の肩まで、イリスは毛布を掛け直した。
弟は目を閉じたまま、熱にうなされている。
「ルーク……」
十二歳の体で病と闘っている。
冬の流行り病。
発熱し、氷のように体が冷たくなる。
治療薬は、ある。イリスが暮らす村の年老いた薬師が持っていた。
けれども。
冬の流行り病。
村全体に同じ病の患者がいる。裕福な家や、働き手の若い男たちが優先されて、貧しい姉弟には届かない。
それでも、年老いた薬師は言った。
――材料を持って来たら、治療薬を作ってやろう。モミの葉、トナカイの骨、狼の牙、ユグシルの青い花。それに、氷の竜の鱗を一枚。
――他は森を探せば見つけられるけど……。氷の竜はどこにいるの?
イリスの問いに、年老いた薬師は嗤った。
――北の雪山じゃよ。頂上近くに洞窟がある。運が良ければ、氷の竜はいない。巣に落ちている鱗を取ってくればいい。
――運が悪ければ?
――氷の竜に喰われるじゃろ。