『大好きな女からチョコをもらった男。けれど男は素直に喜べなかった。なぜ?』
すいません。今回は完全なオリジナルではなく。私の知っている問題にアレンジを加えて答えを変えたものです。
どうしてもバレンタインネタが浮かばなかった……。
ごめんなさい。
キーンコーンカーンコーン。
六時限目の終了のチャイムが鳴り響く。
意外と長い授業時間を座ったまま過ごしたクラスメイトの何人かが、大きく息を吐きながら体を伸ばしたり、まだ掃除が残っているのにもう放課後気分で帰りにどこに寄って行こうか? なんて話しているクラスメイトがいる中、特になにも感じていない僕はおとなしく教科書とノートを片付けていく。
そんなことをしていると、同じクラスのケンジが意気揚々とこちらにやってきた。
「やっと授業が終わったな! いやー、六時限目の現文は眠くなるな。あれってもう一種の子守歌だよな」
「そんなことないでしょ。眠たい気持ちはわかるけどさ」
「いやいや、あれは絶対に睡眠魔法と似たようなもんだって。ほら、小さい子供に絵本の読み聞かせして寝かせたりするじゃん? あれと一緒だって。ちょっと年齢が上がったから内容も同様に少し難しくなっただけでさ」
「うわー、ちょっと説得力ある」
ケンジと二人でこんな会話をしていると、幼馴染のハルもやってきた。
「ほら二人とも掃除行くよ。もうそろそろ行かないと先生来て怒られるよ」
「おうよ、行こうぜマコト」
「はいはい」
僕ら三人は同じ掃除場所で場所は下駄箱。先生も滅多に見回りに来ないので掃除場所としてはいい場所の部類だ。ちょっとサボってても怒られないからね。ただ冬は寒いのが玉に瑕だけど。
「マコト、パス!」
「おっと……ほうき投げないでよ。あぶないな」
「わりいわりい、でも別にそんな強く投げてないだろ? ほれ、三舟もパス」
「よっと! ありがと、一之瀬君」
下駄箱まで足を運んですぐにケンジがロッカーからほうきを取り出して放ってくる。
それをちょっと危ない感じで受け取り、ハルは危なげなく受け取っていた。
「ほい、四條も」
ケンジが最後に僕らの他にもう一人いるここの担当である四條琴音さんにほうきを手渡す。
僕にも普通にそういう感じで渡してほしかったんだけど。
「あ、ありがとう……」
おずおずといった感じでほうきを受け取った四條さん。
あまり彼女について詳しくないけど、教室でたまに見ている感じだと彼女は極度の人見知りだと思う。
一緒にここの担当になって一カ月以上経つけど、今みたいな事務的な会話はするけどそれ以外の会話をした記憶はない。
まあ僕もあまりコミュ力がないからそれも原因だろうけど。
「というわけで早速スープの提供だ!!」
「いや、どの流れでスープを提供しようと思ったの? ねえ、なんで?」
「流れなんてどうでもいい! 前菜なんて知らん! とにかくスープだ!!」
あまりにも横暴でその手の人が聞いたら怒られそうな発言をしながらケンジがやる気になる。
ケンジのあのやる気はいったいどこからやってきているのだろう。たまに本当に同じ人間なのかわからなくなる時がある。
「あのさ、ケンジ。百歩譲って今日ウミガメのスープをやるのはいいけどさ」
「おっ、珍しくマコトが素直だな。今日は槍でも降るのか?」
「失礼だね。じゃなくて、最後まで話を聞いてよ」
「わりいわりい、で?」
「今は僕ら三人じゃなくて四條さんもいるのに僕ら三人でウミガメのスープをやるのはどうなのさ。なんか仲間はずれみたいで感じ悪くない?」
普段の僕なら思ってはいてもこんなことは口にしないだろう。すべてはどうにかして面倒ごとから逃げたい僕のわがままだ。仲間外れみたいっていうのも事実ではあるけど。
確かにウミガメのスープは面白いと思うけど、それは暇つぶしとしてであって、わざわざ自分からやろうとは思わない。だから全力で逃げ道を詮索する。
「別に三人でやる必要はねえだろ?」
「え? まさか一対一でやるつもり?」
「いやいやいや、四條も入れて四人でやればいいだろって話」
ケンジのまさかの発言に少し呆気にとられた。
その間にケンジが外堀を埋めるようにハルと話していた四條さんに声をかける。
「なあ四條。俺たちこれからウミガメのスープっていうちょっとした推理ゲームみたいなのやろうと思うんだけどさ、一緒にやらね?」
「え……で、でも……」
「いいね! 琴音ちゃんもやろうよ! 私もこの前始めてやったんだけどさ、結構楽しいんだよ!!」
「でも……その、みんなで仲良くしてるところに私みたいな暗いのが混ざったら迷惑だし……」
僕ら三人が仲が良いのはクラスの中でもよく知られている。
ハルから聞いた話だと、クラスの中で一番仲が良いグループだって言う話もあるらしい。
そんな中に全く関係のないと言ったら失礼だけど、そこまで深い仲でもない人が入るのはかなりつらいだろう。僕だったら絶対に嫌だ。
「そんなことないって。私もっと琴音ちゃんと話してみたかったんだよね。だからさ、今回だけでも一緒に遊んでみない?」
「三舟の言うとおりだ。それにみんなで遊んだほうが楽しいって言うじゃん。な? マコト」
その言葉にみんなの視線が僕に集まった。
その中でも四條さんの「本当に私なんかがいいのでしょうか?」みたいな少しうるんだ瞳がやけに胸に突き刺さる。
「まあ、四條さんが嫌じゃないならいいと思うよ。ただ四條さんがやらないなら僕もやらないよ。さっきも言ったけどそういうのは好きじゃないしね」
うん。僕にしては十分頑張ったと思う。
自分に甘いとか、自分のことしか考えてないとか言われてもいい。これでも僕は頑張った。
そうやって情けなく自分をほめてやっていると、四條さんの表情が少し柔らかくなった気がした。気のせいかな?
「マコトもいいって言ってるけど、どう? 四條?」
「一緒にやろ! 琴音ちゃん!」
あのコミュ力お化けの二人にあそこまで言われたらそう簡単には断れないだろう。
たぶん僕が今の四條さんの立場なら断り切れずに「ああ、じゃ、じゃあ今回だけ……」とか言ってしまいそうだ。
こうやって考えると僕は四條さんは考え方というか、性格が似ているのかもしれない。少し親近感。
「そ、そこまで言ってもらえるなら……頑張ってみる」
「やった!」
「そうこなくっちゃな!!」
逃げきれなかったのか、本当に少しやる気になったのかわからないけど、四條さんのウミガメのスープ参戦が決まった。
ああ、やっぱり逃げきれない。
「それじゃあ四條のために簡単に説明するな。ウミガメのスープってのはさっきも言ったけどちょっとした推理ゲームだ。水平思考ゲームなんて言われたりもするな。それでルールは『男は死んだ。なぜ?』みたいな問題文だけじゃ答えがわからない。もしくは複数あって答えを絞り込めない問題をはいかいいえだけで答えられる質問をして解いていくゲームだ」
「えっと……例えば今の問題だったら男の死因はなんですか? はダメだけど、男の死因は自殺ですか? ならいいってことかな?」
「そういうことだ。四條は呑み込みが早いな。マコトも探偵役の座を奪われちまうかもな」
「別に僕は自分から探偵役になったわけじゃないんだけど。それに今のケンジの言い方だとケンジの負けは確定してるよ」
「あっ! マジだ! さっきのやっぱなし!」
四條さんに簡単にウミガメのスープの説明を終え、掃除の残り時間は十分ほど。
いつもの帰り道やお昼休みに比べて格段に時間が短い。これは効率的に質問をしていかないと時間が足りなさそうだ。
「それじゃあ今回は初心者の四條がいるってのと、掃除の時間が短いってのを考えてなるべく簡単なのでいくわ」
「ぜひそうしてよ」
「それじゃあ問題!『『大好きな女からチョコをもらった男。けれど男は素直に喜べなかった。なぜ?』」
ケンジから出された今日の問題。
『大好きな女からチョコをもらった男。けれど男は素直に喜べなかった。なぜ?』
簡単だなんて言っていたけど、やっぱりめんどくさそうな匂いがする。
「えっ? これ問題がおかしいよ。普通好きな人からなにかもらったらうれしいもん。ねっ? 琴音ちゃん」
「う、うん。そうだね」
「あのな三舟、それを言ったらおしまいだろ」
「それもそっか。じゃあ頑張って質問を考えますか」
質問者三人の中で一番やる気のハル。
いろいろなことが起こりすぎて少々困惑気味の四條さん。
逃げきれずにウミガメのスープに参加した僕。
なんだこのまとまりのない集団は。
「それじゃあ私が質問の仕方のお手本を見せましょう!!」
なにやら四條さんに先輩風を吹かせたいらしいハルが、ふふん、と鼻を鳴らしつつ最初の質問を飛ばす。
「しつもーん。男が喜べなかったのはもらったチョコレートがおいしくなかったから?」
「イエスノーだな。おいしくてもまずくてもどっちでもいいぞ」
「こんな感じなんだけどどう? わかった?」
「う、うん。たぶん大丈夫だと思う」
先輩風を吹かせたハルは満足そうに頷いている。
そこまでなら面倒見がいいんだな。で終わるところだったのだが、ハルはあろうことかちょっとした無理強いをし出した。
「それじゃあ次は琴音ちゃん行ってみよっか!!」
「えっ!?」
ハルの突然の言葉に少し大きな声を出す四條さん。
といっても元から声が小さいほうなので、僕らにとっての普通くらいの声量だ。
って、そうじゃなくて。
「ハル。質問の強要はよくないよ。四條さん初めてなんだしすぐには無理だよ」
「それもそっか! ごめんね、琴音ちゃん」
「ううん。大丈夫。別に気にしてないよ」
ハルのちょっとした暴走を止めて、そのまま質問に入る。
「それじゃあ僕から質問。男が喜べなかったのはそのチョコが原因?」
「んー……。その質問だとイエスノーだな」
「質問。それじゃあそのチョコと、ほかの何らかの2つのことが原因?」
「イエスだな。そのチョコと、もう一つ原因があるぜ」
なるほど。チョコ自体にも原因はあるのか。
でもさっきのハルの質問で味は関係ないらしいし、その他の点っていうと―――。
「あ、あの……質問いいですか?」
「おっ! 四條! いいぞいいぞ! いくらでも質問してくれ!!」
僕が頭の中で質問を整理しているとおずおずと四條さんが手を挙げる。
それがうれしかったのかケンジはハイテンションでウェルカムしていた。ハルも声にこそ出してないが拍手している。
「えっと、質問です。チョコの方の原因は見てわかることですか?」
「おおっ! なかなかいい質問の仕方だぞ四條! そして答えはイエスだな!」
「えっと、もうひとつ質問です。チョコの方の原因はチョコの形ですか?」
「ザッツライト! 大正解だ四條!」
まだ質問数が少ない中、みんなの協力でチョコの方の原因が判明した。
「思ったより早く原因の一つがわかったね」
「そうだね。いつもはもっと時間かかるのに」
「そうなんですか?」
想像よりも早いゲーム展開に僕らが思っていると、ケンジが「ふっふっふっ」と、不敵に笑った。
「確かに今回は初心者の四條がいるから簡単めにとは言ったが、まだまだ原因の一つがわかっただけだぜ。むしろここまでは俺の予想範囲内だ。問題はここからだぞ!」
なにやらボスが第二形態になった時のようなセリフを吐きながら楽しそうなケンジ。
なんだかケンジが一番楽しそうなのはこのウミガメのスープの時間の気がしてきた。
「じゃあしつもーん! チョコの方の原因は形だってことだけど、そのチョコの形がきれいだったら素直に喜べた?」
「イエスだな。チョコの方の問題は形がよかったら問題なかったはずだぜ」
「もいっこしつもーん。そもそもチョコをもらえたことは嬉しかったの?」
「イエスだな。質問でも言ってるが大好きな女からもらえたチョコだからうれしいだろうよ」
「あ、そっか」
自分で最初に言ってたはずなんだけど……。という言葉を呑み込み、代わりに質問を吐き出した。
「質問。もう一つの原因は女の方が原因?」
「イエスだな。女の方のあることが原因で男は素直に喜べなかったぜ」
「もう一つ質問。女の方は男に対して好意がありますか?」
「イエスだな。女の方にも男に対して好意があるぜ」
今の質問で男の方には何の原因もないことが分かった。
けれどなんでお互いが好きあっている男女がチョコをあげる受け取るで喜べないなんてことになるんだ?
「えっと、質問です。この問題にバレンタインは関係ありますか?」
「いいぞ四條! イエスだ! その質問を待ってた!」
「四條さんすごいね! 確かにチョコって言ったらバレンタインだもんね!」
四條さんの質問に顔をほころばせるケンジと四條さんの手を取ってぶんぶん振るうハル。
でもそっか。確かにチョコで一番最初に想像するイベントってバレンタインだよね。
「本当にすごいね四條さん。僕だったら当然って考えるか、そもそもそんなこと考えもしなかったよ」
現に今の僕はバレンタインなんて考えもしてなかったしね。
「そ、そんなことないです……。チョコと渡すって言ったらバレンタインかなって思って、ただ確認しただけですから……」
恥ずかしそうに鞄で顔を隠しながら四條さんは僕から少し距離を取った。
もしかして男の子が苦手なのかな? とも思ったけど、さっきケンジが近づいてた時がそんなことなかった気がする。
……あれ? もしかして僕なんか嫌われてる?
今僕が解かないといけない問題はケンジの問題よりこっちなんじゃないだろうか?
僕がそう思って四條さんを見てみると、やぱり四條さんは僕からそっと顔をそらした。
うん。もうダメかもしれないね。
「ん? どうしたのまこと? なんかちょっと落ち込んでない?」
「はは、別にそんなこともないこともないと思うよ」
「え? どっち?」
こんな簡単なことにハルは頭にハテナを浮かべているけど、僕は四條さんの反応を忘れるためにもウミガメノスープに専念することにした。
とりあえず今までの質問で分かっているのは
・チョコレートの味は関係ない。
・チョコレートの問題点は形。
・チョコレートの形がよかったら問題はなかった。
・男が素直に喜べなかった原因は2つある。
・男が喜べなかったもう一つの理由は女の方にある。
・女の方も男に対して好意がある。
・この問題はバレンタインの出来事。
うん。なんとなくだけどこの問題の半分は解けている気がする。
「しつもーん! バレンタインの出来事じゃなかったら問題はなかった?」
「そうだなー……イエスノーだな。バレンタインがさらに後押しをしたって感じだ」
「もいっこしつもーん! 男は素直に喜べなかったって言ってるけど、全く喜べなかったわけじゃないの?」
「人による気がするから一概には言えないけど、少しは喜べたと思うぜ。だからイエスだな」
バレンタインでチョコをもらってうれしくない理由。
そんなのは一つしかない。でもさっきのバレンタインの出来事っていう四條さんの質問のこともあるし、一応確認しておこう。
「質問。そのチョコは義理チョコだった?」
「イエスだな。厳密にいえば少し違う気もするけどそう思ってくれて構わないぜ」
「もう一つ質問。それは男がそう思っていただけじゃなくて、女からしても義理チョコだった?」
「イエスだな。男にとっても女にとっても義理チョコだったぜ」
やっぱりか。バレンタインでチョコをもらって落ち込むって言ったら義理チョコとか友チョコとかみたいな本命チョコじゃない場合が多いはずだ。
だから聞いてみたけど、やっぱりビンゴだった。
「あれ? ねえ、今のちょっとおかしくない?」
「なにがさ、ハル」
今の質問に対してハルが疑問符を浮かべた。
僕は何に対しておかしいと言ってるのかわからなかったけど、四條さんにはどうやら共感できるところがあったらしく頷いている。
「だってさ、男も女もお互いのことが好きなんだよね?」
「そうだね。それは質問で確認したし間違いないよ」
「だったらなんであげたチョコが本命じゃなくて義理なの?」
「え……?」
言われてみたらそうだ。
お互いがお互いを好きあっているのならあげるチョコは義理ではなく本命であるはずだ。
恥ずかしくて義理だと嘘をついた可能性はさっきの僕がした『女からしても義理チョコだった』という質問で否定されている。
「確かにハルの言うとおりだ。義理チョコなのはおかしい……」
四條さんならともかくまさかハルに指摘されるとは思ってなかったけど、今回ばかりは素直にハルの言葉に感嘆した。
「えっと、質問です。女はこの後に他の人にチョコを渡しますか?」
「その質問だとイエスノーだな。理由は先に渡してても後に渡してもどっちでもいいからだ」
「えっと、他の人にあげたチョコは本命チョコでしたか?」
「イエスだな。他のやつにあげたチョコは本命チョコだったぜ」
今の四條さんの質問で僕らの考えは途中まであってるのまでは証明された。
けれど今ハルが指摘した問題をさらに深いものにもしてしまった。
「いいねえいいねえ、いいですねえ!!」
僕ら三人が悩んでいるのを楽しそうに見ているケンジ。
僕やハルは検事のそういうところを知ってるからいいけど、四條さんからしたら嫌に見えるかもしれないんだから気を付けた方がいいのに。
……じゃないと僕みたいに嫌われるよ。
「しつもーん。さっき言ってたもう一つの原因っていうのはもらったチョコが義理チョコで女に他に本命がいるとわかったから?
「イエスだな。三舟の言うとおりだぜ」
「もいっこしつもーん。女が他に本命チョコをあげていなければ男は素直に喜べた?」
「イエスだな。たとえ義理チョコをもらったとしても素直に喜んだと思うぜ」
ハルの質問でさらに僕ら途中までの考えは補強される。
けれどやっぱり一番の謎の部分への糸口にはなりそうもない。
「あっ……。もしかして」
「ん? なにか気づいたの琴音ちゃん?」
「う、うん。もしかしたら全然関係ないかもしれないけど……」
「そんなの全然気にしないでいいんだよ! 私なんていつも変な質問してるけどたまに役にたったりするよ! まことの推理に!」
「確かにそうだけど肝心の推理を僕任せってどうなのさ」
「というわけで、琴音ちゃん! 質問いってみよー!!」
「少しは僕の話も聞いてよ……」
見事なまでにハルにスルーされた僕。
けどハルの無駄に元気な後押しのおかげか四條さんは質問する気になれたらしい。ハルの元気もたまには役に立つらしい。
「えっと、質問です。女の男に対する好きはラブではなくライクの方の好きですか?」
「すげーぞ四條! その通りだ! 女の男に対する好きはラブじゃなくてライクだ!」
「すごいよ琴音ちゃん!」
「そ、そんなこと……」
「そんなことあるよ! ねっ? まこともそう思うよね!?」
「そうだね。ハルなんかよりよっぽどすごいよ」
「なにそれーっ! ひどーい! 私だって頑張ってるのにーっ!」
さっきスルーされた仕返しをしたらポカポカと肩をたたかれた。そんなに痛くはないからそこまで怒ってはない……はず。
「おうおう。イチャイチャするのは同じ家に帰ってからにしてくれや」
「そうだよね。じゃあ家に帰ったら話し合いね、まこと」
「いや、同じ家には帰らないから。隣だけど同じではないから」
ケンジの茶化しをどうにか回避して推理に戻る。
「せっかく四條さんが良い質問をしてくれたんだ。もうそろそろ解きたいところだね」
なんだかんだ言って時間は結構経っていて、残り時間はもう三分ほど。
そろそろ解決パートに入らないと負けてしまう。
とりあえず今まででわかってることをまとめてみよう。
・チョコレートの味は関係ない。
・チョコレートの問題点は形。
・チョコレートの形がよかったら問題はなかった。
・男が素直に喜べなかった原因は2つある。
・男が喜べなかったもう一つの理由は女の方にある。
・女の方も男に対して好意がある。
・この問題はバレンタインの出来事。
・バレンタインの出来事でなければここまでの問題にはならなかった。
・男はチョコをもらったこと自体はうれしい。
・男がもらったチョコは義理チョコ。
・女からしても義理チョコ。つまり男にとっても女にとっても義理チョコ。
・女は男の他の人にもチョコを渡す。もしくは渡している。
・他の人に渡すチョコは本命チョコ。
・男が素直に喜べなかった理由の一つは女に他に本命がいるとわかったから。
・女が他に本命チョコをあげなかったら男は素直に喜べた。
・女の男に対する行為はラブではなくライク。
こんなところだろう。
「……あっ」
ここで僕にあるひらめきがあった。
「おっ、もしかして例のやつ?」
「例のやつってなに? 三舟さん?」
「まことが答えがわかった時のやつ! まことが何かわかった時はあんなかんじだから覚えといてね」
「いや、覚えなくてもいいから」
ハルに軽くツッコミつつ、ハルの言う通りちょっとしたひらめきがあったので、それを確認するためにも質問を飛ばす。
「質問。男と女の関係は重要?」
「い、イエス……」
「もう一つ質問。男と女の関係は僕らみたいな学生同士とかある程度年が近い感じ?」
「ノーだな。具体的なことは言えないが10は離れてると思っていいぜ」
「さらに質問」
これが僕が一番聞きたかった質問だ。
今までの質問は、今まで余裕綽々な表情で僕らを見ていたケンジに対するちょっとした意地悪。
だからこれが本命の質問。
「男と女の関係は親子ですか?」
「い、イエス……」
「これはもらったかな」
ケンジが悔しそうに顔をゆがませる。
四條さんも僕の今の質問で答えにたどり着いたらしく、納得したような顔をしていた。
ただハルだけはこたえにまだたどり着いていないらしく、疑問符を浮かべている。
「ねえ、なんで今のが答えがわかるの? 私わかんないんだけど」
「えっとね、三舟さん」
「ちょっとまった四條!」
「え、ご、ごめん。答え教えちゃダメだったかな?」
ハルに答えを教えようとした四條さんをケンジが咄嗟だったのもあって少し強い口調で止める。
そのことで四條さんが少し怯えたような、申し訳ないような顔で瞳をうるうるとさせた。
「あーっ、わりい! でもちょっと待ってくれ。問題を答えるときに俺たちの間でちょっとした決まりがあってな、それが答えがわかったやつが探偵っぽく答えるってやつなんだ」
「いや、僕はそれに拘ってないんだけど」
「いいの! 俺たちの間の暗黙の了解なの! というわけでほれ! かかってこいやマコト!!」
「はあ~……仕方ないなー」
最終的に仕方なく折れることにした僕。
じゃないとこれ以上が進まなくてせっかくの勝てる勝負を無駄にしてしまう。
それはせっかくの四條さんの頑張りを無駄にすることになってしまう。それだけは少し違う気がするので仕方なく頑張ることにする。
「それじゃあ今回の問題の謎は大きく分けて三つあるんだよね」
「ほー。その三つってのは何なんだ?」
「二つは男が好きな女からチョコをもらったのに素直に喜べなかった理由二つ。後の一つは男のことが好きなはずの女が男に義理チョコを渡しただけじゃなくて、他の人に本命チョコをあげていること」
「で、謎の答えは?」
ケンジが楽しそうに聞いてくる中、僕は仕方なしというように答えていく。
その過程をハルはドラマでも見ているように楽しそうに。四條さんはなにかキラキラした瞳で見ていた。
「男が素直に喜べなかった理由はもらったチョコの形。もう一つは他に本命の人がいるから。まあこの二つは根本的には一緒の理由だよね。形がよくなかったから他に本命がいるってわかったようなものだし」
「なるほどな。それでもう一つのなぞってのは?」
「それはお互いが好きあっているはずなのになんで女が男に本命チョコを渡さないで他の人に渡したのか? だよ。そしてその答えは女の男に対する好意はラブじゃなくてライクだから。もっと言えば二人の関係が親子だったから」
そう。バレンタイン。恋愛。この二つのワードから勝手に学生を考えていたけど、まずそこからして間違えていた。
それなら父親の男のことを娘の女が好きでもおかしくないし、ほかに本命がいてもおかしくない。
「でもさ、それでなんで男は喜べないの? お父さんなら義理でもチョコもらったらうれしいんじゃないの?」
「それはうれしいだろうね。だけどさ、女の娘には他に本命がいたんだよ?」
「うん。そうだね」
「つまりさ、彼氏かそれに近い人がいるってことだよね?」
「そうだね……って……あーっ!! そういうことか!!」
確かにこの問題は女性よりも男性の方が気持ちがわかるような問題かもしれない。
だから今回に限って言えばハルが答えにたどり着けなかったのも少しは仕方ないように思う。それでも四條さんは気が付いてたみたいだけど。
「ハルもわかったところで答えに行くね。答えは娘に本命チョコを渡すような相手がいることがわかって父親である男は素直に喜べなかった。どう?」
「せ、正解だ……」
ケンジが悔しそうに崩れ落ちる。
掃除したから汚くはないだろうけどどうなのさ。
「す、すごいです二ノ宮君」
「いや、そんなことないよ。四條さんの質問のおかげってところもたくさんあるし」
「いえ、私本当にすごいと思いました。実は私推理小説とか結構好きで、二ノ宮君が答えてるところ本当の探偵っぽくてかっこよかったです!」
「そ、そうかな? 別にそんなことないと思うんだけど……」
「いえ、そんなことあります!!」
すごい。何がって、さっきまでおとなしかった四條さんの勢いがすごい。
「……あっ、す、すいません。いきなり……ううっ……」
「大丈夫。少し驚いちゃっただけだから」
「本当にすいません。私推理小説のことになると少し熱くなっちゃうみたいで……」
本当に申し訳なさそうに下を向いている四條さん。
こんな時に気の利いた言葉でも言えればいいんだけど、あいにく僕にそんなコミュニケーション能力はない。
「気にしなくていいんだよ琴音ちゃん! 好きなもののことをそんなに語れるって私すごいと思うな!」
「で、でも……」
「いいじゃん! それだけ好きってことだよ? まことだって迷惑じゃなかったんでしょ?」
「そりゃあね、僕だってそれなりに推理小説は好きだし」
僕の朝読書の時間の本は基本的に推理小説ばかりだ。
それ以外に興味がないからっていう理由だけど。
「ほ、本当ですか?」
「うん。まあ四條さんほどではないと思うけどね」
「あ、あの……今度推理小説の話してみませんか?」
おずおずと言ったようにそう提案してくれる四條さん。
人と関わるのが苦手なはずなのに好きなもののためにここまで頑張ってくれた四條さん。
そんな彼女に断りを入れられるような非情さは僕にはなかった。
「別にいいよ。僕にわかる範囲でよければだけど」
「あ、ありがとう!」
僕が提案を肯定すると顔をパーッと輝かせる四條さん。
その顔で僕は間違えた選択をしなかったと安堵する僕。僕も対外コミュ症だからね。
「そうだケンジ」
ここまできて僕はあることを忘れていたことに気が付いた。
「なんだよ?」
まだ落ち込んだままのケンジに僕は笑って言う。
「次はもっと手ごたえのある問題を頼むよ」