乳兄弟は疲れてる5
翌日には大公の元にジークヴァルトと伺い、お礼と、特にジークヴァルトのことをお願いした。
自分は器用な人間ではないし、無理をしないなら自分はなんとかできるだろうが、一気に上り詰めるジークヴァルトには敵が増えると思ったのだ。
そんなこんなで、ジークヴァルトが結婚すれば、ある程度肩の荷が降りると思っていたのに……。
「……おい、いつになったらバラすんだ?」
「そだね〜。落ち着いたら」
「いつになるんだよ!」
食ってかかるのを許して欲しい。
しかも、幼なじみはメイクまでバッチリ決めてメイドの格好をしている。
「本当に、母様にそっくりだと思ったけど、ここまで似合うとは思わなかったよ」
ポーズを取るジークヴァルトは、満足げである。
「前はある程度筋肉もあったんだけど、動けるまでにかなり筋肉が落ちちゃったなぁ……だからこの格好もできるんだけど」
「鍛えろ!」
「無理。まだペンとカトラリー程度だよ。お茶だってちゃんと出せないじゃないか」
「出すな! お前のはまずい」
茶葉の量や茶葉を蒸らす時間もめちゃくちゃな、幼なじみに任せるのは絶対に嫌である。
「全く……」
「あ、お腹すいた」
ソファにポーンっと座ったジークヴァルトは足をぶらんぶらんさせながら、愛妻のクッキーに手を伸ばす。
「美味しい! あ〜このクルミが香ばしい。甘味もちょうどいい〜」
もぐもぐと食べているのを見ていると、馬鹿馬鹿しくなってくる。
かちゃ……
小さく聞こえた音に、チラッと視線を向ける。
「おい、ジークヴァルト……お前が女装してるのバレた後、俺は絶対仲裁しないぞ」
「いいよ〜」
「……あの……」
「ん?」
口にクッキーをくわえたまま、振り返ったジークヴァルトは硬直する。
少し前にクッキーを持ってきたケイトリン姫が、顔を覗かせていた。
「ク、クッキー……二人分は少ないかと思って……」
「あ、姫。申し訳ありません」
立ち上がり、頭を下げた。
「改めまして、私はカール・エリク=ハインツと申します。これ……ジークヴァルトの乳兄弟です。公爵に呼ばれておりますので失礼いたします」
「カール……」
「さっき言っただろ?」
すがる幼なじみを差し出し、部屋を出て行った。
……後で、八つ当たりを覚悟したが、なぜか疲れたように、
「もうメイドさんはやめるよ」
と呟いたのだった。