《スキル》
状況の把握はだいたい済んだところで、俺はそろそろ自信を把握したいと考えていた。何しろ、異世界に転生しただけでなくスキルになったんだ。何ができるのか把握しておく必要がある。
「それでアテナ、相談なんだがずっと視界が見えないってのは不安で仕方ない。これは何とかならないか?」
《対処法はいくつかあります。最適なのは周囲のマナを感じ、制御する方法を身につけることです》
(マナ?また分からないのが出てきたな)
ふと、俺はそう考えた。
《マナですか。マナとは…》
「!!!」
《どうしましたか?マスター》
驚くのも無理はない。なんと、俺の思考がアテナに伝わっていたのだった。まあ、考えてみれば今まで念じて会話してきたのだ。思考が伝わっているとしてもおかしくはない。今の俺は水晶なのだから。
「すまない。少々不意を突かれて驚いただけだ」
《失礼しました。それでマナですが…》
マナとは、この世界に漂っている空気のような存在のようだ。魔力の素となる物質で、この世界にとって必要不可欠なものである。魔を司る全ての事象にはこのマナが欠かせない。時には魔法の触媒として、時には電気のように、ありとあらゆるの姿を持っている。
「ほうほう。そのマナってのは水晶の俺に感じることができるものなのか?」
そう。俺は今、生物ではなく物質として存在している。もともと、意思を持たない物に感覚器官があるとは思えない。
《マスターの宿っているのは正確には魔水晶です。その構成はほぼ全てがマナで構成されています。その親和性はこの世界の魔道具の中でもトップクラスと言えます。そのため、マナを感じることはもちろん、干渉、操作することは造作ありません》
(マナの結晶!俺は、なかなかすごい物に宿ったようだ。干渉と操作が可能なので有れば応用を効かせればいろいろ出来そうな…)
《…では、早速マナを感じましょう》
いろいろと可能性を感じる俺にアテナは一瞬呆れたような…そんな気がした。そんな俺を置いてアテナは説明を続けた。
《まずは、思考をクリアにして下さい。そして、意識を外側へ向けるイメージを思い浮かべて下さい》
(思考をクリアに…外側へイメージ…)
《そうです。さらに深くイメージして下さい。自分の周囲をマナの波が漂っているのを感じるはずです》
(外側へ…外側へ…)
俺は、徐々にイメージを深めていった。すると、俺の周りに奇妙な色の風のようなものが漂っているのに気がついた。
「お?変なのが漂ってる。もしかして、これがマナってやつなのか」
必要条件達成の確認
スキル『マナ操作』を習得
《おめでとうございます。必要条件を達成したため新たなスキルを獲得しました》
俺は、不思議な声とともに新たなスキルを獲得したようだ。
「新たなスキルか〜!って、オイオイ!!俺は今スキルなんだよね!スキルなのにスキルを獲得って一体どんな状況なんだよ!?」
考えてみればおかしい話だ。スキルがスキルを覚えるなんて、そんな設定は前世の小説やゲームでも聞いたことがない。というか、意識を持つスキルなんて展開もあまり聞かないのも確かなんだが…
《スキルとは世界のシステムの一部として神の10柱が作り出したものです。取得条件は様々ですが、その可能性を持つものが条件を達成することでスキルという形で得られるのです》
俺の気になっている部分を的確に説明するアテナ。そんなアテナはさらに説明を続ける。
《マスターは確かにスキルですが、通常のスキルとは全く別の存在となってます。その存在は魂を元に構成されています。そして、マスターがこの世のものに宿った時点で、その対象はスキルを得るための資格、つまり可能性が得られた状態になります》
「つまり、俺が宿ることによってスキルを獲得できる状態になったってことか。なんとなく理解したが…スキルがスキルを得るってやはり変な感覚だな」
腑に落ちないところはあるものの、俺が特別な存在であることが関係してるということは理解できた。
「話の途中にすまなかったな」
話を元に戻す。
《問題ありません。それで、マスターは新たなスキル『マナ操作』を獲得しました。そのため、周囲のマナを操作して擬似的に感覚器官を作り出すことが可能となりました》
ついに、俺の視界が復活する時が来た。待ちに待った瞬間に、俺の心が高揚する。
「ついにか!ここまで来るのにだいぶ時間がかかったが、やっと安心できそうだ。それで、俺はあと何をすればいいんだ?」
《スキルの制御はこちらでやります。マスターは前世の身体をイメージして下さい。そのイメージを元に感覚器官をこちらで再現します》
さすがはアテナ。素晴らしいサポートに感動してしまう。
「了解した!よろしく頼むアテナ!」
アテナによって感覚器官を構成されていく。そしてついに、その時がやってきた。
はじめまして異世界!
俺の新たな物語の始まり!
思いを馳せて開いた視界の先は…