その名は《アテナ》
再起動完了。
アビリティの定着を確認。
意識の覚醒を実行。
声がきこえる。意識が消える前に聞こえた謎の音声が頭の中に響いてきた。
意識の覚醒を確認。
全工程終了。
これより【知恵の恩恵】はスリープモードへ移行。
その声が消えるとともに俺の意識は元に戻った。意識を失う前に感じていたモヤのような感覚がなくなり、気分もスッキリとしていた。
「うぅ…何やら変化が起こったようだが…一体何が起こったのだろうか?それにあの声は一体なんだったんだ?」
変化を実感できずに戸惑う俺。
「それに相変わらず真っ暗だが、一体ここはどこなんだろうか?」
《ここはマスターが転生した世界になります》
「なんだ!?」
突然のことに驚く俺。先ほどまで聞こえていた声。再び、その声が俺の質問に答え出した。
《私は、【知恵の恩恵】の力の一部になります。主にマスターのサポートをするため与えられた能力です。今は一部の力を常時稼働させている状態になっています》
エウロラが言ってたチート能力。まさに、救いの手!この状況で俺にとって唯一の希望が現れた瞬間だった。
「な…なるほど。つまり今の俺の現状も把握してたり…?」
恐る恐る質問してみる。
《はい》
うおぉぉぉぉ!心の中でガッツポーズ!俺は心の中ではしゃぎ回った。
《現状のマスターの状況は、転生してスキルになっています》
「ふむふむ、それは知ってる」
《現在は、そのスキルの依代として魔水晶に宿っている状態となっています》
「水晶…」
その時、俺は理解した。今、俺はスキルとして水晶に宿っている。そして悟る。俺は随分とファンタジーな世界に来てしまったようだ。
《ちなみに、マスターが宿っている魔水晶は他の物とは構造が違うようです》
「構造が違う?いや、そもそも魔水晶ってなんなんだ?」
《魔水晶とはスキルを封印して、他の物に継承させるものです。継承の対象は生き物だけでなく、物などにもすることができおり、この世界では貴重な魔道具になっています》
「この世界の道具か。つまり、自分の能力を受け継がせる技術が、この世界にあると言うことなのだろう。なかなか興味深い」
前世が科学者だけあってか、こういった技術にはかなりの興味を惹かれてしまう。このような話を聞くと心の中で湧き立つものがあった。しかし、現状の把握を優先するためにも今は心の中に押し留めることにした。
《そして、マスターの宿っている魔水晶ですが、水晶に宿ったスキルを行使することができるよう改造された物のようです。何かの研究に使うために作られたと推測されます。しかし、研究が中途半端で放置されていたようです》
「なるほど」
つまり、スキルを入れるだけだなくその行使もできるようになった水晶であるとのこと。スキルの俺が能力を行使することができるのもこの機能のおかげである。
「だいたい理解できた。ありがとう。えっと…なんだっけ?」
《私は【知恵の恩恵】の力の一部です》
「んー、呼びづらいな。えっと…アテナ!そう!アテナって呼ぶことにしよう!」
俺は、この力に『アテナ』と名付けた。とその時だった。
《!》
「!」
一瞬だが、体の内側が熱くなるような感覚が俺を襲った。それと同時に、能力であるはずのアテナが驚いたような気がした。しかし、あまりに一瞬の出来事だったため、気のせいだと俺は思った。
「名前があった方がこっちも楽だし、これから長く付き合うことになるだろうからあって損はないだろう。よろしく頼むよ。アテナ」
《了解しました。マスター》
その返答はいつもと変わらない無感情の声だった。しかし、何故だか俺には少し喜んでいるようなそんな感じがしたのだった。
「それでアテナに早速相談なんだが…」
新たな相棒と出会い希望の光を見出した俺。ここからが俺の始まりの一歩になる。そんな高揚感を抱きながら、俺は目の前の問題を片付けていくのだった。