絶望の先に
エウロラの説明は続く。
「ここからが本番だよぉ!君にとってこの状況が好都合な理由さ!なんだって、常識に捉われないんだからね」
そう。俺には他の転生者には与えられないものが与えられている。
「君に与えられたのは、神の恩恵という能力さ!」
「神の…恩恵?」
手違いを起こしてこんな事にする神の恩恵とはどんなものなのか。正直、俺はあまり期待していない。というか不安で仕方ない。
「そう!うちらが与える恩恵とはその神の一部の権能を行使することができる。ほぼチートレベルの能力のことなのさ!実際に恩恵を受ける者は何万年に1人いるかいないか。それほど、貴重かつ強大な力ってわけ!」
説明を聞く限りではなかなかすごい能力って事とのこと。エウロラの話がどこまで本当かは信じられないが、これは実に興味深い情報であることは間違いなかった。
「なるほどね。にわかに信じられない話ではあるが、その恩恵が俺に与えられるってことは理解した。しかし、そのことと俺の状況が好都合ってのは一体どういうことなんだ?」
状況を整理するためにも、俺は必死でエウロラから情報を引き出そうとした。そう簡単に今の状況を受け入れることはできないが、スキルに転生してしまった事実は変わらない。今後のためにも、今の現状の把握に思考を向ける事にした。
「まあ、そう焦らないで…って、ん?なんだい?今忙しいんだけど…えっ!まじで!?あらら〜どうしましょ…」
エウロラの様子が急に変わった。まるで、誰かと会話してるようである。
「ごめんっ、もうそろそろ時間みたい。会話の時間限られちゃってるみたいなんだよねぇ〜すっかり抜けてたわ!」
「オイオイ!?ちょっと待ってくれよ!こんな中途半端で投げ出されるとか冗談じゃないぞ!そっちの手違いなんだから説明くらいちゃんとしてもらわないと…」
俺は必死でつなぎとめようと慌てて話かけた。しかし、それを遮るようにエウロラは話し出した。
「まあ、後は恩恵があるから何とかなるっしょ!そうそう、君に与えられたのは【知恵の恩恵】って言う能力だよ。後、なんか特別なのも与えられたみたいだけど、そっちはわっちの管轄外だからわかりましぇん。ってな訳で!がんばってちょ〜」
「おい!エウロラ様?本当にいなくなっちまったのか!?おい!?」
その言葉を最後に、エウロラとの通信が途切れた。俺は、まともな情報が得られないまま異世界にスキルとして放り出されたのである。再び、絶望感が俺を襲う。
「…俺、一体これからどうしたら」
その時、俺の身に急に変化が起こった。
転生体と現世の定着完了。
「なんだ!?」
転生体の自我を確認。クリア。
転生体の知識を確認。クリア。
転生体の資格を確認。クリア。
………
なにやら確認を繰り返している。急に動き始めた感情のないその声は、俺の魂を隅々まで調べているようだ。
アビリティ構成。完了。
対象をアンノウンと命名。
起動のため、魂の再起動を開始。
再起動開始まで、あと10秒、9、8、7…
なにやら、カウントダウンが始まった。どうやら俺は、再び意識を失うようだ。しかし、そんな俺に抗う意思は全くない。流れに身を任せゆっくりと意識を失っていった。
この時、世界はまだ気づいていなかった。
天神進が転生したスキルの存在を。その脅威を。
そして、後に世界は混沌と革新の時代を迎える。全てはそのスキルを中心に。
それを知る者は、どこにもいない。