私の完璧な計画
「……明日が来るのが怖い」
カトリーナはベッドに倒れ込み、枕に顔を埋める。
未来の病人みたいに痩せた魔王も緑色っぽい瞳にワインレッドのような髪色をしていた。
そっくりさんかもしれないとカトリーナは思ったが『瞬間移動』の事を思い出し、その淡い期待は粉砕した。
瞬間移動魔法を使える者なんて、余程魔力が強くないと出来ない。そして、そんな事が出来るのはどう考えても人間ではない……つまり___
「魔王」
カトリーナは頭を抱えた。
乙女ゲームにはこんな話存在したのだろうか、その場合どう攻略すればいいのだ。
カトリーナはまだ乙女ゲームのスタートラインにすら立っていない。ここで躓いたら、運良く学園に入ったとしてもドジをしでかし、ヤンデレキャラに殺されて終わる。きっとそうだ。
「わぁぁ!!本当にどうしよう!!乙女ゲームなんてやった事ないよ…いや、魔王には乙女ゲーム関係ないか……攻略キャラじゃなくて敵だったし、惚れさせてその場をやり過ごすルートは絶対に不可能だよね……そもそも私に魅力があるのだろうか……」
__カトリーナ単体だから聖女にもなれて、国を救えたのではないか。いくらカトリーナの記憶があって馴染んでいたとしても、このカトリーナの体には山本 葵もいるのだ。魔力もあまり使えなさそうだったし、やはりそれが原因……!?
「ん…?ちょっと待って……」
カトリーナはベッドから降りて笑った。
「…主人公カトリーナには申し訳ないけど、このまま聖女にならずに平凡に…」
カトリーナは拳を高く上に持ち上げ、窓の外を見た。
「おぉぉぉ!これは行ける!行けるぞ!!」
カトリーナは急いで机に紙とインクとペンを用意して、誰にも読めないように日本語で書き殴る。
まずはこのまま普通に暮らす。
そこで万が一凄い力が目覚め始めたら、魔力調査を『どうにかして』切り抜ける。
どうやって切り抜けるかは後で考えるとして。
次にガルシア学園に入学はしない。主人公が入学した経緯は知らないけど、学費高いらしいし、無理して入学する事ないと思うし。他の学校にすればいい話だ、うん。
これは結構楽だと思う。
次、『魔王』をどうにかする。
確か、無視したとかの理由で国を滅ぼそうとする。
そうなれば一番被害に遭うのって、きっと魔王の近くに住んでいるグレイ領!!戦いの場所とかになったら非常に恐ろしい。
「魔王って一人で立ち向かうんだよね…なら仲間とか居ないよね」
『友』ってもうアウトだと思う。
「未来、あんなに痩せ細って悲しい最期を遂げる事になるなんて思わないよね……」
カトリーナは魔王を思い出し、少し胸が痛んだ。
___もしかして、寂しくてあんな風になったのだとしたら?
「はぁ……そんな都合の良いように解釈するのは…」
魔王はあそこに一人で住んでいるようだった。他に気配が感じられなかった。
やはり…
「あぁ!!考えれば、考えるほど胸がモヤモヤしてくる!放っておけない、あの魔王!!」
『葵って本当にウザイよね〜。弟とか妹いるだかなんだか知らないけど、余計なお世話なんだよ』
『【私は面倒見がいいよアピール】?もう超うざーい!』
「っ…」
嫌な過去がヒュッとカトリーナの頭の中で通り過ぎる。
余計なお世話…か。
___いや、でも!!
「余計なお世話をしないと、先に進めない。魔王を立派な魔王にして、国は平和に、私も平凡に暮らせる!うん!そうだ!平凡ライフの為に!」
カトリーナはそう自分に言い聞かせながらペンを走らせる。
『とりあえず魔王の死亡フラグ回避』
「明日、魔王に会いに行くし、その時に友達の素晴らしさを教えてやろうじゃないか!」
1、友達の素晴らしさを魔王に教え、魔王に沢山仲間を作ってもらう。
「あとは、性格…?」
2、初対面の人に馬鹿馬鹿言わないように、優しさを知ってもらう。
優しさを知れば無視されたぐらいで国を滅ぼそうとはしないだろう。
「あとは…愛?……ふふふ、こりゃあ、難しそうだわ。でもまぁ、一応書いとこ」
3、愛するという事を教える。
「魔王、あんだけ美形なんだし、もったいない……ふふ、あはは……」
カトリーナは笑いながらペンを動かす。色々考えるのが楽しくて仕方がなかった。
__愛するって、恋愛の方は教えられないけど、家族愛的なものならいけるし、そっちを教えとこ。
そして、魔王も私も国もハッピーエンド!
「素晴らしい!さすが山本 葵!天才よ!おほほほ!」
そう物語は簡単には進まない。
後にカトリーナはその事を痛い程身に染みて実感するのである。
まだ知らないカトリーナは完璧だと思う計画に感動していた。
カトリーナは自分が思っている以上に幼かったのだ。