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長い夢と記憶


__長い長い夢を見た。


私にそっくりな子と馨にそっくりな子が歩道に乗り上げた車に___

家族に迷惑を掛けてしまった。

馨は大丈夫だろうか。

まだ、弟も、妹も幼いのに。長女である私がしっかりしなきゃいけなかったのに__


心が痛い。

ただただ痛かった。


悲しくてやり切れない気持ちに陥っていると目の前がガラリと変わり、明るくなる。



___これは…あの子の記憶……?

ある可愛らしい女の子が田舎の子爵家に生まれた。

名前はカトリーナ・グレイ。


両親から沢山の愛情を注がれて育って来たみたいだ。

また二つ年の離れた兄も居た。


他にも沢山カトリーナの記憶が入ってくる。

些細な情報まで事細かく入って来る。だんだん自分がその場に存在していた……つまり、自分がカトリーナになっていくような気がし始めたのだ。性格もお節介なところとか行動が何となく自分と当てはまるところがあり、カトリーナも自分なのでは?そう思ってしまうほど入って来る記憶に違和感が感じられなくなっていたのである。


私は葵、私は葵……呟いていても頭の中では、葵=カトリーナとなっていく。




***




「…あれ…夜」


カトリーナが目を覚ました時、辺りは暗くなっていた。

ベッドから降りて、薄桃色の重厚感溢れるカーテンを開ける。

「外も真っ暗、今は…」


ベッドの隣に置いてある懐中時計で確認する。

「二時か…」

カトリーナは靴を履いて、寝間着のままこっそり部屋を出る。

お腹がすいてしまったのである。


キッチンの場所はもう分かる為、後はルエナやほかの侍女達に見つからなければ寝間着のまま出ても怒られない。

それに、ルエナ達はもう寝ているだろう。問題ない。



「えっと、魔法石、魔法石……」


棚に置いてある瓶から魔法石を取り出す。

魔法石は、日本で言うところの電気みたいなものだ。

様々な器具に魔法石を埋め込む事で、灯りをつけたり、料理をしたりできる。

瞬間移動も可能ではあるが大量の魔法石を必要とする為、大金持ちの方ぐらいしか出来ない。魔法が使える者は魔法石は必要ない。


「ん、ちょっと……私、使える!魔法使ったことないけど」

カトリーナは自身が乙女ゲームでは聖女である事に気付き、器具に手をかざす。


「光れ!」

しかし、器具は光らない。


「あれ…おかしいな」


_乙女ゲームでは私は聖女と言われてたんだよね……?


「まだ力目覚めてないのかな…?」

カトリーナは魔法石を器具にはめ込んで灯りを付け、扉を開け、外に出るとドンッと誰かにぶつかった。


「いってぇ……」

「アーマンド兄様!?」

今は深夜二時だよね、ともう一度カトリーナは時計を確認する。

「頭……腫れていませんか…?冷やしましょうか」

アーマンドは兄だが、精神年齢で言えば葵は17歳で、カトリーナは8歳、合わせれば25歳である。

葵だった頃の弟の面倒を見るように、カトリーナは器具を置いてアーマンドの額に触れようとする。

「ふ、触れるな。俺は大丈夫だ」

「では、額、氷で冷やしに行きましょう?私もキッチンに行きたかったのです!」

「…仕方がない。お前一人じゃこの時間怖くてキッチンまで行けないだろうからな」

ふん、とアーマンドは立ち上がり、カトリーナが床に置いていた器具を取り、先頭を歩き出した。

「ありがとうございます。アーマンド兄様っ。大好きです」

「ふんっ。お前から好かれるのはごめんだ」

そう言いながらも嬉しそうに鼻歌をし始めるアーマンド。

___分かりやすいなぁ。まぁ、アーマンド兄様は無自覚なんだろうけど。




キッチンに辿り着いた後、カトリーナはすぐに食べられる物を探す。

アーマンドは氷を袋に入れて額を冷やしていた。


「あ、そう言えば、アーマンド兄様はなぜ私の部屋の前に?」

「……っ」

「え、深夜まで一体何を…」

「……読書だ!!それで、隣の部屋から物音がしたものだからお前が起きたのか確認しただけだ」

「私ってどれぐらい寝ていたのですか?」

「もう今日で二日目だ。熱が下がらず父上も母上も心配しておられた」

アーマンドはふぅ、と息を着いて顔を逸らした。


___二日間も!!?……てっきり数時間だけかと思っていたのに。


「それより食べ物は見つかったか?どうせキッチンの用事って、腹が減ったとかそんな理由だろう。まぁ?どうせすぐに食べられる物なんて見つかりやしないさ」

アーマンドは目を細めて笑った。


「アーマンド兄様……食べ物…野菜とか、肉しか無くて、パンとか直ぐに食べられる物がないです……」

カトリーナは目にいっぱい涙を浮かべてアーマンドを見つめた。


__ふふ。どうだ。アーマンド兄様。

心の中でカトリーナは小さく笑った。


「なっ……シェフの奴らは帰ってるだろうし……ルエナももう寝ているしな……ちょ、泣くなよ。カトリーナ」

「お腹が空きました…アーマンド兄様……」

「あぁ…ちょっと待ってろ……」

アーマンドは頭をかいた後、立ち上がりキッチンから出て行った。


「アーマンド兄様がチョコレートに目が無くて沢山部屋に隠し持っていることは知ってるんだから」


__私も意外と悪い子なのね。ふふ。


その後アーマンドはチョコレートが入っているであろう箱を一つカトリーナの目の前に置いた。

「これでも食べてろ。少しはマシになるだろ」

「わぁぁ!ありがとうございます。アーマンド兄様!」

箱を開ければ美味しそうなチョコレートが沢山入っている。

「いただきます」

「ん、なんだ、その言葉」

「うーん、食べ物と、それを与えてくださった方々へのお礼の言葉……ですかね?」

「ふぅん?なら俺に感謝してるわけだな!」

「そういう事になりますね」



___その後、いつの間にかアーマンド兄様もチョコレートを食べ始めた。

体は幼いからなのか、チョコレートを食べているうちに眠たくなってしまい、翌朝二人、キッチンで寝ているところをルエナ達に見つかってしまったのであった。


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