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私がその方を見たのは、高校二年の夏だった。
校舎の窓から見える桜の木は薄桃色から緑色に変わった。生暖かい風が私の頬を撫でるように触れる。
七時間目の授業は静かで、ほのかに塩素の匂いがすると同時に目蓋がだんだん下がってくる。
__水泳の授業の後は本当に眠い。
腕時計を確認し、少しだけ。そう思い襲ってくる睡魔に抗う事をやめ、眠りについた。
キンコーンカーンコーン___
授業の終わりを伝える鐘の音で目が覚めた。目を擦り、黒板を眺め欠伸をする。
そのまま黒板を眺めているうちにHRは終わり、掃除を済ませる。鞄を持って帰ろうとすれば、突然後ろから両肩をわしづかみされた。
「授業中寝てたでしょ、どう?スッキリした?」
後ろから幼馴染である友、馨に声を掛けられ驚きながら答える。
「…正直まだ眠い……頭痛い」
「まぁ、家に帰ってからちゃんと寝な。…それより聞いてよ!この前話してた乙女ゲーム!!新キャラ登場したの!」
「まぁた、それー?好きだねぇ」
「声も神なの!そして、このキャラ!ほらほら見てよ!」
「へぇ…」
二人で並んで歩きながら帰る。
そして馨 の携帯の画面には乙女ゲームのキャラクターが映っている。
様々なキャラクターを見ているうちに、ふと目が止まる。
「このキャラクターは……なんか…え、病人……?」
「あ、このキャラクターはね、敵の魔王だよ。前から居たんだけど…そういえば説明してなかったっけ。まぁ最後にチョロっと出てくるだけだし」
「……ん?魔王…えぇ!?こんなガリガリで髪もボサボサ…もう今にも倒れそうっていうか、何と言うか……」
「そういう風に見えてるけどね、強いんだよ。そして性格がめちゃくちゃ悪いの。自己中で、自尊心の塊」
「…そうなの?」
性格以前に魔王の健康状態が気になるところ。そんなキャラが魔王でいいのだろうか。
魔王と言えば、ガッシリとした体つきに、悪魔やらなんやら沢山従えて、みんなから恐れられる…みたいなイメージがあった。
幼稚園に入ったばかりの妹が見ている美少女変身アニメに私の魔王像は完全に影響を受けていた。
「だって魔王が人間達を倒そうとする理由が、『俺を無視したから。』だよ?」
「なんか、そういう可愛らしい理由をするところ、私の弟達にそっくり」
元気があり過ぎる小学生の弟と、甘えん坊の幼稚園の妹を思い出し笑う。
「でもまぁ、その魔王は一人で立ち向かって、聖女であるヒロインと攻略キャラの愛のパワーでボコボコにされて、お星様になるってエンドなんだよねー」
「おう…なるほど……」
____一人で立ち向かったんだ。
その事が少しの間、私の頭から離れることは無かった。
目を通していただき、ありがとうございます!
これからもよろしくお願いいたします!