そしてその日は区切りとなった
――何も出来ない。
リバウンドも取れないし、シュートも打てない。ドリブルでディフェンスを抜く事も出来ないし、ブロックも出来ない。
光は、かつてない程の絶望感と自らの無力さを味わっていた。北高と開清、両校の間にさほど大きな実績の差というものは存在しなかったが、その実力差は歴然だった。
(くそっ……!)
光は、味方からパスを受け取ると半ば強引にシュートの体勢へと入った。
弧を描き、ゴールへと向かう……はずのボールは、敵がブロックせんと伸ばした右腕に阻まれる。
(…………!)
光の場合は、運も悪かった。光はまだ二年生という事もあり、レギュラー五名の中では実力不足も否めない。片や、光のマンツーマンの相手は北高の主将でありエース。その差は素人目に見ても歴然だったし、光自身も理解していた。
かつてない屈辱、無惨なゲーム展開。
――けれど、光が顔を上げられなかったのは――。
縦妻香織が、自分の試合を見ているかもしれない。自分の高校の勝利を願いながら、この試合を見に来ているかもしれない。
『開清の11番の人、情けないなあ』
そんな風に思われているかもしれないと思うと、光は二度と顔を上げる事は出来なかった。
自分のこんな情けない姿を、縦妻香織に見せたくは無かった。
……北高のエースを相手に張り付き続けた脚はもはや限界で、そして光はベンチに下がった――。
「……俺、不真面目だったよな……」
光は、東間と二人で階段に座り込んでいた。
「…………。別に、普通だろ。お前は頑張った方だよ」
東間は光の方に顔を向けたりはせず、そのまま答えた。
光は下げた頭を上げようとはしない。だらりと垂れた前髪が、その顔を覆う。
「不真面目だったよ、俺。……デートだからって練習サボったり、大会前だけ変に気合い入れたり」
光がそう言うと、東間もまた何も言えなくなってしまった。
「……俺、これからはもう少し真面目になろうと思う」
東間は驚いた様に顔を上げた。光の言葉があまりにも意外だったから。
光は悔しさの中に決意を秘め、ゆっくりと顔を上げた。
「……このままじゃ、縦妻香織にも顔向け出来ない」
体育館の振動が、壁を伝って背中に届く。
「……ああ」
東間は少しだけ笑って頷いた。
***
午後二時四十分。現地解散となった光と東間は、体育館前から出ているバスに乗り、それが動き出すのを待っていた。
「来年、また頑張ろう。それまでには俺もレギュラーに入れるようにする」
「……、おう」
二人の表情は、先程と比べるとほんの少しだけ明るく、気持ちは既にこの先へと向いているようだった。……もちろん、それは二人がそうあろうという理想であって、実際にはまだ直前の屈辱が残っている。
「………………」
光と東間は何も言わずとも会話を止め、目を瞑った。
『間もなく出発します』
車内にアナウンスが流れ、扉が閉まり掛ける。
だが、急いでこちらに走ってくる人がいる事に運転手が気付き、閉まり掛けた扉はもう一度開いた。
「す、すいません……ありがとうございます」
縦妻香織はそう言って、慌ててバスへと乗り込んだ。