そしてその日は訪れる
「あら。鋒原さんお出掛け?」
爽やかな日差し、時折吹く心地良い風。
光の母、栞は外行きの装いで駅へと向かっていた。
「ええ、ちょっと光の応援に。今日部活の大会なもので……」
栞は笑顔で答えた。
「まあ。それは頑張って応援しないと」
「いえ……、全然そんなじゃないんですけど、今年はなんとかレギュラーになれたらしいのでそれならと思って」
栞は遠慮がちに話した。
「どこの高校に通ってるんでしたっけ? 光くん」
「開清高校です。光の話では、バスケ部も全然強くはないらしくて。まあ、あの子がレギュラーになれてしまうんですから」
栞が冗談交じりにそう言うと、二人は笑った。
「頑張ってくださいね、応援。私も勝てるように願ってますから」
「ありがとうございます」
栞が軽く頭を下げると二人はその場で別れ、栞は再び駅へと向かった。
***
「いいか。今日は三年生にとって最後の大会になる」
札幌北高校女子バスケットボール部、監督柏木。彼女達は試合前、最後のミーティングを行っていた。
「今日まで、皆本当に頑張ってきたと思う。三年生は二年間、二年生は一年間」
西本や彩子ら部員は皆真剣な眼差しで柏気の話を聞いている。
「でも、そこに差なんて無い。一年生も二年生も三年生も、頑張ってきた期間が違うから『今日』に対しての意気込みもそれ相応にしなくちゃならないなんて事は無いはずだ。スタメンはプレーで。ベンチに入れた選手はいつでも出られるような気構えを。一年生は、今日は裏方の仕事になってしまうが常に何か仕事が無いか気を配り続ける。全員で、一つになって勝利を掴もう」
話が進むに連れ、体育館の熱気が膨らんでゆくように感じられた。
「そして、全員。この大会が終わった後は暫く出せなくなっても良いから今日はとにかく声を出せ」
「はい!!」
部員達は張り裂けそうな程の返事を返した。
「……マネージャーも。今日は頼むよ」
「はい!」
その中には、当然香織も。
「よしいこう!! 絶対に勝つ、その気持ちを最後まで忘れるな!!」
パン! 柏木は手を叩き、選手達をコートへと送り出した。
***
――そして、隣接するもう一つの体育館。
男子の声は体育館中に充満し、その熱気がこれまでの激戦を物語る。
既に試合を終えた選手達は、満面の笑みを浮かべていたり、涙を膝に埋めていたり。
それでも、そんな選手達の事情などお構いなしに、試合は次々と進んでゆく。
開清 43 ― 108 札幌北
――また一つ、選手達の足跡が刻まれてゆく。