その日は着実に近付いてくる
「ウッソ。今年って男女同じ会場でやんの?」
東間は驚いたように目を丸くした。
部活終わりの帰り道、光と東間はいつものように肩を並べて自転車を漕いでいる。――いつものように、と言うのは光が女友達と会わない日の事に限るが。
「ああ。と言うか、隣接してる体育館だけどな」
「…………。ふーん、それであんなに気合い入ってたわけね」
東間は可笑しそうににやけてみせた。
「別に……」
光は目線を逸らした。
「まあ、じゃあとにかく当日はなるべく俺の傍にいろよ。香織を見かけたら教えてやっから」
「ああ」
光は、なるべく無関心を装いながら答えた。……高体連まで残り一週間。
***
「か、香織ちゃーん。これ、補充お願い」
汗が垂れる髪、一目で分かる程に濡れたユニフォーム。
「あ、はい! すいません」
北高女子バスケットボール部三年、西本はポカリのタンクを香織に手渡した。
それを受け取った香織は急いで水飲み場の方へと走り出し、その背中が見えなくなってから、西本はその場にどさりと崩れ落ちた。
「に、西本さん大丈夫ですか?」
一年生が傍に駆け寄る。
「……あ、い、いや全然。単純に疲れちゃっただけ」
西本は笑顔を作り、平気である事をアピールした。
「……ちょ、ちょっと気合い入りすぎ……」
「彩……」
三年、村山 彩子はまるで死人のように西本の横に倒れ込んだ。
「……そりゃ気合いも入るよ。最後の大会だもん」
「そ、そうなんだけどね」
彩は仰向けになって笑った。
「……私達、恵まれてるよね」
少しだけ呼吸の落ち着いた西本が、唐突に切り出した。
「どうしたの? いきなり」
彩子は体を僅かに起こした。
「……親とか先生たちとか、本当にたくさん応援してもらったなーって……」
「うん」
恐らくは汗だろうが、西本の目元から垂れる水滴が彩子には涙にも見えた。
「支えてくれる一年生達もいるし、マネージャーもいる」
「……うん」
体育館の扉を開いて、香織が駆け込んでくる。
「これで頑張れなきゃ、嘘だよね」
西本は立ち上がり、崩れたユニフォームを整えた。
「……うん」
――高体連まであと六日。