偶然は二人を引き寄せる
五月二十日、夜。光は自宅で携帯の液晶画面に向かっていた。
――各学校には、学校公認の公式サイトの他に、非公認に経営されるクラスホームページというものが必ず存在する。そこにはクラスの生徒達のプロフィールや日記が掲載されており、クラス内、またはクラス同士の交流の為に利用されている。
同時に、それはまた他校の生徒や一般人も自由に閲覧出来る為、本名をフルネームでは記載せずに下の名前だけ、もしくはニックネーム等を用いている場合もある。
……とは言え、一学年320名、内約160名の中に『縦妻香織』という同姓同名の二人がいたりなんて事は無いだろうし、また『香織』と下の名前だけの場合でも、せいぜい該当者は二人や三人程度だろう。
――光が、学級サイトを一つずつチェックし始めてから約二十分。
札幌北高校二年七組。その、在籍生徒プロフィール一覧。
『32 たてづま かおり』
そのクラスでは、平仮名ながらもフルネームを記していたのがとても良かった。漢字で下の名前だけ書かれるよりはこちらの方が断然良い。
(……たてづま、かおり……)
光は、プロフィールへのリンクをクリックした。
【HN】かおり
【趣味】音楽
【職業】女子バスケットボール部のマネージャー。全然役に立てない……。
【とにかく主張したいこと】もうちょっとで大会! ほんのちょっとでも役立てるようにがんばりたい!!
それは、良く言えば要点がまとまっていて、悪く言えばただ簡素だった。
日記ページの生徒名一覧から香織の項目をクリックしても、何も表示されない。恐らく、このプロフィールもクラスメイトに頼まれてさっさと作ったものなのだろう。光はそう考えた。
(こういう事にはあまり興味無いのか。それにしても、女バスのマネージャー……)
男子バスケットではなく、女子バスケット。光はそれに対して非常に好印象を抱いた。
(……縦妻香織、か……)
***
――体育館の広い天井に、バスケットのボールが浮かぶ。
それは綺麗な弧を描いて空を飛び、そのままバスケットのゴールのネットを揺らした。
「ナイッシュー!!」
コートの外の一年生達が館内に声を響かせる。
「調子良いな、光」
東間は光の頭を叩いた。
「大会前だからな……」
光は、そう言うとあっという間に東間のマークを引き剥がした。
フリーになって、味方からパスを貰って、打つ。その一連の流れからは、表現し難い気迫が感じられる。
「……やっぱレギュラーともなると気合いの入り方が違うな」
「別に……」
光のそっけない応答に、東間は小さく笑みを浮かべた。
「そーいや、一回戦の相手どこだったっけ?」
「……北高」
光は、マークマンの東間と向かい合いながら答えた。
「それは、お前の気迫と何か関係あるのかな」
――東間は、右手でパスを受け取った。その次の瞬間にはもう左手が添えられ、流れるかのようにしてシュートを放つ。
光は高く跳び上がり、そのボールを豪快に叩き落とした。
声援を送る一年生達の方から、わっと歓声が湧き上がる。
「……別に、何も」