問いの答えは神のみぞ知る
「お前、縦妻って奴知ってる?」
それ以来光は、仲の良い友達にそれとなく聞いて回るようにしていた。今、同じ部活の東間という男に質問したので八人目。
「縦妻? ……縦妻って、縦妻香織?」
光は、困った様に口を尖らせた。
「……下の名前は知らないけど、多分そいつ。……知ってんの?」
部活動の帰り道、光と東間の二人は肩を並べて自転車を漕いでいた。
「ああ」
東間は頷いた。
「小中と同じ学校だったしな。つーか、普通に有名人だぜ」
「有名人?」
光は思わず繰り返した。
「ああ。超がつく程の美人で、小中学校と九年間通してもダントツ。今も普通に他校で話題になるってさ。……つーか、お前が今まで香織の事知らなかったって事に俺は驚きだよ」
(………………)
光は無言を挟んだ後に、
「彼氏とかは?」
と、訊いた。
「あー、ダメダメ。香織はどうにもなんねーよ。今まで何十回告白されてきたのか知らんが、とにかく一度もOKしないんだから。今じゃもう、周りも諦めてて手は出せないってさ」
――あの日、電話越しに言葉を交わした時の事が光の脳裏に蘇る。光は不満気に眉間に皺を寄せた。
「俺でも? 無理?」
光は真顔でそう聞いた。すると東間は答えに困り、言葉を詰まらせてしまった。
「あー……。いや、多分無理だとは思うけど……お前も普通の奴じゃないからな……」
光は真剣な目つきで東間を真っ直ぐ見据えながら、答えを待った。
「う〜……ん、それはお前らが実際に会ってみないと分からないな」
「………………」
そもそも、光は香織の事など何も知らない。だから、「もし俺が告白しても無理?」という質問は仮定中の仮定の話で、まだ光は香織の事など好きでも何でも無い。光を突き動かしているものは好奇心と、あの間違い電話に何かを感じたからだ。
『実際に会ってみないとわからない』
その東間の言葉が、いつまでも光の中に残っていた。
「……そいつ、今どこ通ってんの?」
その光の問いに、東間は「北高」と答えた。