名優尻向けてもそれは華
――高々と空を舞ったボールは、惚れ惚れしてしまう程に美しくゴールのネットをすり抜ける。
「マジかよ……開清ってこんなに強かったか!?」
「北高相手にボロ勝ちじゃねーか」
開清の圧倒的優勢を物語るダブルスコア。北高の選手達は皆息を切らして疲れ果て、やがて膝に手を付き足を止める。
マークマンの上から叩き込む豪快なダンク。整ったシュートフォームから放たれるシュート。開清は、北高に対して大差で勝利を収めた。
「光くん! おめでとう!」
「香織!」
光の元に駆け寄ってくる女生徒。それは、あの縦妻香織だった。
「おめでとう! ほんとは北を応援しなきゃダメなんだけど……光くんが勝てて良かった」
香織は恥ずかしそうに、もじもじと言葉を詰まらせながら光の勝利を喜んでいる。
「かっこよかった……本当に」
「香織……」
二人は、必然的に見つめ合った。最早余計な言葉など必要とせず、次第に二人の距離は近付いてゆく……。
「――光、光!」
誰かが自分を呼んでいる。光は戸惑いながらもゆっくりと目を開けた。
(……いつの間に……)
着慣れたいつものチームジャージ。脚に残った試合の疲労。光はバスに乗った直後から深い眠りについてしまっていた。
「お、おい光! 起きろって!」
もう起きているというのに、東間は光の体を揺らし続ける。
バスはちょうど停留所の前で停まっており、揺れの無い落ち着いた車内が光の睡眠欲を促進させる。
「……もう起きたっつーの……」
光はそう言って、鬱陶しそうに体を背けた。敗戦のショックと、純粋な疲労とで光の瞼はまだ重い。
「良いから……起きろってば! 縦妻香織がいるんだよ!」
東間は死体のような光の体を重たそうに引き上げる。しかし東間の言葉がしっかりと頭に行き届くと、光はそんなものなど必要無いとばかりに飛び上がった。
「外! ほら、今あそこ歩いてる……」
運転手が再びアクセルを踏み、バスが微かに動き出したのと同時に東間は窓の外を指差した。
――春風になびく、透き通った栗毛。
それは小柄な体に信じられない程に似合っていて、気が付けば、光は香織の後姿に見惚れてしまっていた。
それでも、バスは無情に走り出す。あっという間に加速して、香織の姿は見えなくなった。
「……顔、見えた?」
東間は窓の外に向けた目をそのままに聞いた。
「いや、後姿だけ……」
光もまた、呆然と外を眺めたまま答えた。
車内から見える景色は次から次へと移り変わり、それはそのまま光と香織の距離を遠ざけてゆくようだった。
「でも……うん」
光は窓から体を離し、姿勢を整えて椅子へと座り直した。
「何?」
「いや……、何でも無い」
――その顔はとても晴れやかで、それを見て東間は、二人の将来を直感的に感じていたとか。