表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

名優尻向けてもそれは華

 ――高々と空を舞ったボールは、惚れ惚れしてしまう程に美しくゴールのネットをすり抜ける。

「マジかよ……開清ってこんなに強かったか!?」

「北高相手にボロ勝ちじゃねーか」

 開清の圧倒的優勢を物語るダブルスコア。北高の選手達は皆息を切らして疲れ果て、やがて膝に手を付き足を止める。

 マークマンの上から叩き込む豪快なダンク。整ったシュートフォームから放たれるシュート。開清は、北高に対して大差で勝利を収めた。

「光くん! おめでとう!」

「香織!」

 光の元に駆け寄ってくる女生徒。それは、あの縦妻香織だった。

「おめでとう! ほんとは北を応援しなきゃダメなんだけど……光くんが勝てて良かった」

 香織は恥ずかしそうに、もじもじと言葉を詰まらせながら光の勝利を喜んでいる。

「かっこよかった……本当に」

「香織……」

 二人は、必然的に見つめ合った。最早余計な言葉など必要とせず、次第に二人の距離は近付いてゆく……。



「――光、光!」

 誰かが自分を呼んでいる。光は戸惑いながらもゆっくりと目を開けた。

(……いつの間に……)

 着慣れたいつものチームジャージ。脚に残った試合の疲労。光はバスに乗った直後から深い眠りについてしまっていた。

「お、おい光! 起きろって!」

 もう起きているというのに、東間は光の体を揺らし続ける。

 バスはちょうど停留所の前で停まっており、揺れの無い落ち着いた車内が光の睡眠欲を促進させる。

「……もう起きたっつーの……」

 光はそう言って、鬱陶しそうに体を背けた。敗戦のショックと、純粋な疲労とで光の瞼はまだ重い。

「良いから……起きろってば! 縦妻香織がいるんだよ!」

 東間は死体のような光の体を重たそうに引き上げる。しかし東間の言葉がしっかりと頭に行き届くと、光はそんなものなど必要無いとばかりに飛び上がった。

「外! ほら、今あそこ歩いてる……」

 運転手が再びアクセルを踏み、バスが微かに動き出したのと同時に東間は窓の外を指差した。


 ――春風になびく、透き通った栗毛。

 それは小柄な体に信じられない程に似合っていて、気が付けば、光は香織の後姿に見惚れてしまっていた。


 それでも、バスは無情に走り出す。あっという間に加速して、香織の姿は見えなくなった。

「……顔、見えた?」

 東間は窓の外に向けた目をそのままに聞いた。

「いや、後姿だけ……」

 光もまた、呆然と外を眺めたまま答えた。

 車内から見える景色は次から次へと移り変わり、それはそのまま光と香織の距離を遠ざけてゆくようだった。

「でも……うん」

 光は窓から体を離し、姿勢を整えて椅子へと座り直した。

「何?」

「いや……、何でも無い」

 ――その顔はとても晴れやかで、それを見て東間は、二人の将来を直感的に感じていたとか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ