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事の予兆はシンクロシニティ

 昔々、遠い昔。どこかの国の行商人。

 旅行く先々で行商人は、自慢の商品を携えて声高々に言います。


『さあさあ、よってらっしゃい見てらっしゃい! なんでも貫く最強の矛と、どんな衝撃も防ぐ無敵の盾!』


 右手に矛を、左手には盾を。魅力的な言葉と共に掲げられたその二つの周囲には、自然と人だかりができたとか。


『ほら、今買っとかないと後悔するよ!』


 行商人がそう言うと、人々は慌てて買い求めます。矛だけではなく、盾だけでもなく。人々は必ず、二品一対で買っていきます。

 何物にも負けない矛と盾。それらを両手に帰ってゆく人々の表情は、とても晴れやかであったとか。


 ――ところが、そこにはどちらかしか買えない少女が一人。

 少女は悩み込んだ挙句、困った末に言いました。


『それで、これはどっちが強いの?』



 ***



 2009年、日本。近代的な街並みには、けたたましい喧騒。

「鋒原!」

 自分を呼ぶ声がして、鋒原は後ろを振り返った。

 鋒原 光16歳、高校二年生。

「よ。何やってんだよこんなとこで」

 高校生男児には不釣合いな程に綺麗な肌、毛先が愛らしくハネた少し長めの茶髪。

 そしてその顔立ちの良さは、どこを探しても並ぶ者無し。

「何って……」


 時を同じくして、やはりけたたましい街並みの中。

「かーおちゃーん」

 少し恥ずかしい呼び名に照れ臭そうにしながら、その女性は後ろを振り返る。

 縦妻 香織、16歳。高校生活二年目の春。

「一人なんて珍しいね。何やってるの?」

 ショートカットの栗毛は愛らしすぎる程に愛らしく、女性の中でも少し低めの身長にとても良く似合っている。

 しかしてその整った顔立ちは、周囲の異性の目を惹くには充分すぎて。

「何って、」

「あー、デートかな?」

 友人Aがそう言うと、香織は頬を赤くした。


「デートの待ち合わせだけど。健全な高校生男児なら当たり前じゃん」

 光は、腕時計をトントンと指で叩きながらそう答えた。

「……、相変わらずお盛んなことで」

 友人A´は呆れたように視線を逸らした。

「まあ、お互い楽しもうじゃないか。お前も当然デートなんだよね?」


「バカな事言わないでよ!! そんな事する訳無いじゃん!!」

 香織は頬を真っ赤にして、デート疑惑説を否定する。

 友人Aはそれが面白いといった風に笑った。

「そんなに必死になって否定しなくても良いのに」

「いきなりバカな事言うからでしょ! 今日はただ参考書買いに来ただけだから!!」

「分かってますってば。香織がデートなんてする訳無いじゃん。頭のネジが数十本狂ってて男嫌いなんだもんね」

 友人Aは香織の肩をポンポンと叩きながら、笑った。

「……、ただちょっと苦手なだけだってば」



 鋒原 光16歳。その容姿に見合った性格で、幼少の頃から異性に振られた事など一度も無い遊び人。

 縦妻 香織――同い年は、小さい頃から数多に受け続けてきた異性からの告白を、一度もOKした事の無い鉄壁女。 


 交わる筈の無いこの二人が出会うのは、あとほんの少しだけ後の話で――。

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