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30本目の世界線  作者: 大原英一
雷鳴
7/32

6本目(★)

「世界線……て、何それ」

 彼女、水戸かず子がまたぞろおかしなことを言い出したのでオレは聞いた。まあ、いまの状況のほうが百倍おかしいのだが。

 オレの問いには答えず、かわりにふたたびペンを執る彼女。どうやら帰らずにもうすこし居てくれるらしい。


【世界線1】

 2017年3月31日に青木が消失した世界。荷物が届けられた世界。

【世界線2】

 本来、青木が存在しなかった世界。山田一郎というダミー(?)。


 紙にそう書いてから彼女は口をひらいた。

「青木さん、ドラ●もんを読んだことは?」

「もちろんあるよ。でも、世界線なんて言葉はしらないな」

「たしか第1巻で説明されていたと思うけど、まあいいわ。東京から大阪へ行こうと思った場合、あなたならどうやって行く」

「はあ? ……そりゃ新幹線で」

「飛行機でも行けるわよね」

「そりゃ、まあまあまあ」

「船でも行けるわよね」

「なにが言いたい」


「それらの交通手段、複数あるルートが、いわば世界線よ。大阪という未来へ行き着くための、ね」

「……ああ、たしかにそんなん、あったな。つまりアレだろ、どうやってもジャイ子と結婚する未来に行き着くんだろ?」

「ちがうわよ。ジャイ子と結婚して事業に失敗するのが、ひとつの世界線。そうじゃない世界線を選ぶためにドラ●もんが助けにきたんでしょ、わかってないわね」

「なんでオレが怒られてんねん」


「とにかく、いまアタシたちが直面しているのは簡単な遡行(ループ)じゃない。世界線そのものが変動したと考えるべきね」

「じゃあ……この【世界線1】からオレ、いなくなっちゃったの?」

「そういうこと。たぶん、あっちでは大騒ぎになっているでしょうね」

「あっちとかこっちとか、よくわからないな。じゃあ、オレらがいま居るここは?」

「おそらく【世界線2】。山田一郎さんという、あなたとよく似た属性の人物が存在していた」


「存在していた……て、過去形?」

「ええ」彼女はゆっくりとうなずく。「あくまで推測だけど、山田さんはもうこっちの世界にはいない。あなたがきたことで消滅したか、心太(ところてん)のように別世界へ押し出されたか」

 あたまがクラクラしてきた。そんなのってアリか……。

「じゃあオレはこれから、この山田一郎として、この世界で生きて行けってことかよ」

「それはムリね」

 彼女はぴしゃりと言い放った。


「その写真、どう見てもあなたじゃないでしょう。顔の一致しないIDなんて意味ないわ」

「えーっ! ……だったら、いまこの部屋にいるオレらって何なの」

「不法侵入以外の何者でもないでしょうね。山田さんの失踪が(おおやけ)になれば、きっとこの部屋にも人が訪ねてくる。彼の親とか友人とか同僚とかが」

 そのときの状況を思い浮かべてゾッとした。傍からはオレが強盗にしか見えないだろう。


「マジかよ。じゃあオレ、無一文でこの部屋を出て行かなきゃ、なの?」

「そんなチワワみたいな目で見ないでよ」

 大きくため息をついたあとで彼女はこう付け足した。

「しばらくアタシの部屋に置いてあげるから」

「あっざーす! あざす」

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