4本目
意味がわからない。青木がドヤ顔で見せたスマホの待ち受け画面。そこに表示された【2016年4月1日】という日付けに、アタシは何の疑問も抱けなかった。
「去年て、どういうこと」
「だから去年だよ。今年は2017年だろ」
「はあ? ……あなた、なに言ってんの。今年は2016年よ」
言いながらアタシは心臓がバクバクしていた。この状況だ、なにが起きても不思議じゃない。
あの閃光、青木のテレポート、そして偽札の消失……。もしかして本当にタイムスリップが起こったのか。
だとしたら時を超えたのは彼か、それともアタシのほうなのか。
「待って、たしかめる必要が……」
「ふざけんなよ、とっとと出て行け! マジで警察に通報するぞ」
「……わかったわ」
ここは大人しく退いたほうがよさそうだ。が、タイムスリップしたのが彼だった場合、きっと後で泣きついてくるだろう。
部屋を出たアタシはパラグライダーを折り畳んである場所へと走った。だがしかし。
アタシの愛機はそこになかった。やべー、偽札のみならずこっちもか。とりあえずベルトのボタンを押す。すると一瞬でレオタードが支障ない私服へと替わる。だてにプロやってませんから。
コンビニに駆け込んでスポーツ新聞を手にする。日付けを確認して、ほっと胸をなでおろす。よかった、やはり今日は2016年4月1日だった。
おぼろげながら事態が見えてきた。
ほどなくしてアタシのスマホに青木から着信があった。
アパートを出るとき、ドア備え付けのポストにカードを挿んでおいたのだ。アタシの番号が載ったカード……まったく、やさしいかず子ちゃんに感謝だぞ?
「ハロー、ミスター青木」
「……すみませんでした。いろいろ確認したら、今年は完全に2016年でした」
「オーキードーキーよ」
「はい?」
「オッケーてこと。ねえ、もう一度お邪魔してもいい?」
「うん」
うん、て。かわいいな。
お茶とかお菓子などの差し入れを持って、ふたたび青木のアパートを訪ねた。
「信じてほしいんだけど……」
「あなたが2017年からきたってことでしょ? 信じるわ」
「マジで」
「ええ。それにタイムスリップしたのはあなただけ、じゃない」
「まさか、きみも」
「水戸よ。水戸かず子」
「水戸さん。オレは青木……あれ、しってたっけ」
「青木さん。アタシはさっき、あなたに荷物を届けにきたのよ。パラグライダーに乗ってね」
「本当にキャッツ●イみたいだね。荷物って、なに」
「その荷物が消えたいまとなっては答えられません。ついでにパラグライダーも消えてしまった。これがどういうことか、わかる?」
「……さっぱり」
アタシはふふん、と鼻を鳴らして言った。
「たしかにアタシはあなたの部屋に荷物を届けた。2017年のあなたの部屋に」
「ああ、なるほど。パラグライダーごと未来へ行った、と」
「そう。だから乗り物と荷物は2017年の世界に置いてきてしまった。紙とペンを貸してくれる?」