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30本目の世界線  作者: 大原英一
雷鳴
3/32

2本目

 その日、私立探偵の多々木(たたき)(はじめ)は捜査一課刑事の佐須(さす)正義(まさよし)から呼び出しを受けた。

 多々木はさる事件を通じて佐須と知り合い、それからというもの、ことあるごとに刑事から協力要請を受けるようになった。公式・非公式を問わずだ。

 またぞろ今日も捜査協力の話かと探偵は考えていたが、いざ佐須を目の前にすると、彼の表情がことのほか険しいことに気づいた。


「どうしたの佐須さん。ボク、何かやらかした?」

「単刀直入に行くぞ。この男をしっているか」

 あいさつもそこそこに刑事は本題に入った。1枚の写真を探偵に見せつつ言った。

「誰?」

「名前は青木岳人だ」

「しらない」

「そうか。……だろうな」

 探偵の返答をなかば予想していたように刑事はため息をつく。


 青木岳人、31歳。元派遣社員。2017年5月現在、失踪中。

 失踪が発覚した経緯はこうだ。青木の母親(60歳)がここひと月息子と連絡が取れないと訴えた。電話に出ないのはもちろん何度アパートを訪ねても留守にしている。ドアが施錠されているので部屋へ入ることもできない。

 もしかすると、もしかするかもしれないとの思いから、母親はアパートの大家に頼んで合鍵にてドアを開放……ところが。

 内側からドアガードがかかっており、またしても部屋に入ることができない。こうなるともう大家の手には負えない。何らかの事故が発生している可能性大になる。

 かくして後処理は警察の手に渡り、特大の金切りバサミが持ち出された挙句、青木の部屋は開放された……ところが。


「青木のすがたは、なかった。部屋を密室状態にして彼は行方をくらましたんだ」

「うは」と探偵は声を上げた。「それ、ボクの大好きなやつじゃないか」

「そう言うだろうと思ったよ。けどな、この話にはつづきがある」

 言って刑事はつぎの切札(カード)を出した。

「青木の部屋で見つけた証拠品。オリジナルは見せられないから、もちろんコピーだ。これが何だか、わかるか」

「……新聞記事?」

「大きさがミソだ」

「紙幣のサイズだね。まさか偽札?」

「1枚ならわからんが、おなじようなものが500枚あって帯留めまでされていた。偽札に見立てた何か、かもしれんな」

「密室、偽札、失踪……(たま)らない」


「まだだ、まだ終わらんよ」

「それはシャアのセリフ」と探偵はツッコミを入れる。「……まだ何かあるの?」

 刑事は鼻を鳴らし、つぎの紙切れを差し出した。

「今度の1枚はカラーコピーだ。書かれている記事に注目だな」

「あっ」探偵は目玉が飛び出るほどに刮目した。「これ、ウチ(の探偵事務所)が出した広告じゃないか。え、なんで? なんで電話番号のところに赤丸がしてあるの」

「広告を出したのは、いつだ」

「3月だったかな……あれっ、」

 探偵はようやく理解したような顔で刑事を見た。

「もしかして今日ボクが呼ばれたのって、このため? 自作自演(おつ)てやつ?」


「まあ、あんたが自作自演で赤丸を付けてくれたなら話は早いんだが。……3月に広告を出したと言ったよな? それなら赤丸した人物はこのふた月のあいだに、あんたの事務所を訪ねたかも」  

「そうとはかぎらないさ。赤丸を付けただけで、けっきょく同業他社に流れたかもしれない。商売はキビしいんだよ?」

「とりあえず、この2ヵ月くらいに会った人物を調べてくれないか」


「あのさ」と探偵はため息を吐く。「いちおう聞くけど、これって失踪事件だよね。一課の刑事さんが出張るようなこと?」

「いや、青木はまず生きちゃいないさ。刑事の勘……これは殺人(コロシ)だ」

「まあたしかに、失踪するのに密室をこさえる意味がわからないけどね」

「それだけじゃない。青木は財布もケータイも部屋の鍵すらも持たず、まるで煙のように消えちまったんだ。ありえないよ。だがそれも、すべて犯人の演出と考えれば説明がつく。青木を隠したか殺した犯人の」

 やがて探偵は観念するように言った。

「……わかったよ。ボクも協力しよう」


「恩に着る。事件が解決したら牛丼、おごるからさ」

「生卵も付けてよ? あとモ●バーガーも」

「どんな食べ合わせだよっ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] えへっ…きちゃいました。 って、オッサンに言われても気持ち悪いですね。 ご感想を頂いた方の作品は目を通しておりまして、純粋に面白そうだと思ったのでブックマーク…
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