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30本目の世界線  作者: 大原英一
雷鳴
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1本目

 2017年1月某日。

 年明け早々イヤな話を聞いてしまった。今年の3月末で仕事をお役御免になるらしい。契約解除、ひらたく言えばクビやね。

 べつにヤラかしたわけじゃない。施設(センター)からプリント部門そのものがなくなるそうだ。

 ほら、世の中の流れ的にペーパーレスの方向じゃないですか。まあオレらにしてみれば飯の食い上げってこと。

 オレの名は青木岳人、しがない印刷工だ。

 25歳のときから丸6年ここでプリント業務に携わってきた。あまりに突然の解雇通告だが、ひと月以上前に告知されているので法的に文句は言えないらしい。

 そもそも派遣(社員)だしね……。


 正直、先行き不安だった。つぶしが利かないことは重々承知している。さっきも言ったけどペーパーレスの時代だから、なおさら。

 その日は職場の仲間と呑んで帰った。おなじ解雇通告を受けた者同士、愚痴や不満をぶちまけずにはおれなかった。

 だが酒で不安が消えるわけじゃない。むなしくなった。今日は一段と夜風が冷たい気がする。

「お若いの」


 仲間とわかれてガード下を歩いているとき、へんなババアに声をかけられた。

 ババアはローブすがたでフードまで被っていた。どう見ても熟女パブの呼び込みではなさそうだ。

 と、いきなり老婆はオレの手を取った。何すんねん!

「っ……何ですか」

「お若いの、あんた、いいことあるよ」

 あるよ? いいことしましょ、じゃなくて? ……いや、誘われても断るけど。

 脱力感がハンパなかった。ちゃんちゃらおかしい。いまのオレは真逆の状況だからだ。

「……ありがとう、お婆さん。でもね、いいことなんて全然(いっさら)ない。仕事、クビになっちゃうんだよ」

 若干呂律の回らない口でオレは言った。


「3月31日だ」

「はい?」

「その日の夜、女があんたを訪ねる」

 怖い怖い怖い……ババアのデリヘルなんてごめんだ。

「若い女だ」

 ならいいけど……て、そういう問題じゃない! 恐怖か寒さかわからないが、オレは声を出すことができなかった。

「3月31日だ」

 老婆はもう一度そう言って、ニッと笑った。

 それから老婆とどうわかれて、どう帰宅したか記憶があいまいだ。

 だが冷静に考えればバカバカしい話だ。真に受けることはない。それより仕事を探さなきゃとか不安要素のほうが大きくて、老婆のことはすぐ忘れてしまった。



 3ヵ月なんてあっという間だった。けっきょくつぎの仕事も決まらないまま新年度を迎えることになりそうだ。

 3月31日の日中、オレは派遣会社の営業さんに連れられてとある企業の面談に行った。この際職種とかどうでもいい、とりあえず採用してほしかった。

 午後8時、アパートのインターホンが鳴った。

 部屋にいたオレはそのとき、なぜか派遣会社の営業さんかな? と思った。よくよく考えればそんなはずはないのだが、採否が気になりすぎていたのかもしれない。

 それでうっかりドアを開けてしまった。

 ……あり得ない。ドアの向こうに立っていたのは若い女だった。レオタードすがたの。

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